退学への不安
不安に思っていたとしても、次の日は必ず来る。
リヒトは、震えながらも学校から寄付されたジャージに着替え、指定のグランドへと向かった。
今回もクラスごとに場所が違うため、エトワールとは別。
だから、スーとリーと共に行動したいと考えたが、二人に近づかないでと言われていたため断念。
理由もしっかりと添えてくれていたため、ショックはない。
この魔法学校では、仲良くしていると原点。罰を受けることとなってしまう。
そのため、少しでも仲良くしてしまうのはリスクが高い。
仲間がいない、頼れる人もいない。
リヒトはそれだけで心底不安。そんな気持ちの中、教師がジャージを着てやって来た。
「あっ、魔法の授業はキロンニス先生なんだ…………」
現れたのは、エトワールが今のところ唯一教師として見ている人物、キロンニス先生。
口は悪いが、生徒とは距離が近く、話しやすい先生だと生徒からも人気がある。
それでも、やはり規定は規定。教師と生徒だろうと無駄な話をしてはいけない。
キロンニスもそれはわかっているため、無駄な話はせずに授業へと入った。
「では、今日は編入生もいるから、魔法の基礎から行い、最後は戦闘すんぞ」
基礎からいきなり戦闘? と、思いながらも、リヒトは気合いを入れ直す。
「んじゃ、魔法の基礎から始めるぞ。魔法の基礎っつったら、基本魔法だ。お前らは全員出せるだろ? 出せ」
キロンニスの口調は適当だが、全員をしっかりと見ている。
一気にみんなが魔法を繰り出しても、一人一人をしっかりと見て、確認していた。
皆の様子を見ていたキロンニスは、基本魔法に迷っていたリヒトを見つけた。
首を傾げ、近づいていく。
「おい、編入生。リヒトだったか。どうした、早く基本魔法を出せ」
「は、はい…………」
リヒトの基本魔法、水。
だが、イメージが上手く出来ず、焦っていた。
早く出さないと、出さないとと。焦るばかりで、杖から魔法が出せない。
「リヒトよ、どうした。なぜ出さねぇんだ?」
「い、いえ、出したいと、思っているのですが…………」
「イメージが出来ないか?」
「…………」
このままでは退学。それが頭を過り、焦るばかり。
そんな彼女を見て、スーとリーは不安そうに眉を下げた。
何かしてあげたい。けれど、何かしようとすれば、退学。良くて減点。
週の初めに減点は正直ものすごく痛い。
息を吐き、キロンニスは呆れたようにリヒトに顔を近づかせた。
「退学には俺がさせん。いつも通りに魔法を放つんだ。いつもと同じだ」
キロンニスの優しい声に、リヒトも早くなっていた心拍数が落ち着く。
息を整えるために深呼吸をすると、キロンニスは離れた。
「早く打て」
キロンニスの言葉に答えるように、リヒトは「はい」と、魔力を杖に集めた。
「――――acqua!!」
リヒトが唱えると、水の玉が複数現れた。
「や、やった」
「基本魔法で喜ぶな」
「は、はい…………」
キロンニスに一括され、リヒトは落ちこむ。だが、すぐに気持ちを切り替え顔を上げた。
「では、次は――――」
ここからも授業は進む。
リヒトは、頭にイメージを浮かばせたまま魔力を操り、今回は減点せずに終わった。
※
今頃、リヒトは授業で苦しんでいるんだろうなぁ。
だが、安心してほしい。俺も今、苦しんでいる。
「な~ん~で~だ~よ~」
「知里も、本格的な修行をした方がいいと思ってね」
「だからって、なんで魔力制御?」
俺は今、何故かわからないんだけど、小さな炎を右手に灯しつつ、水も左手に灯している。灯し、続けている。
宿屋で、アマリアとグレールに監視されながら。
ロゼ姫はやっと満足したのか、今まで買い物で手に入れた服や鞄、魔道具? を一人見て楽しんでいる。
俺の気も知らないで……ぐぬぬ。
「なんで、こんな小さな魔法を灯し続ける事が修行になるんだ? 結構疲れるんだが?」
「疲れるでしょ? それが目的だよ」
「疲れさせるのが目的ならやめてもいい?」
「話は最後まで聞いて」
あ、少し怒った。
はいはい、聞きますよ。
「知里の場合、最大火力の魔法を放つことはできるけれど、逆に、小さな魔力を灯し続けられないでしょ?」
「そうだな。今も普通に疲れている」
「そうやって、魔力の制御に慣れてもらうの。それで、管理者を欺く。それだけでなく、モンスターも欺くんだ」
…………無理じゃね?
「手遅れだろう。もう、管理者には俺の魔力や実力はばれている。今更だぞ」
「そんなことはないよ。実力を知っているからこそ、クロヌは知里を舐める。今の知里なら、クロヌになんて勝てないからね」
そりゃ、そうかもしれないが……。なんか、はっきり言われると悲しいな。
「舐めてくれた方がこっちとしては、ものすごくやりやすいし。アルカを囮にも使えるでしょ」
「え、アルカを?」
今、アルカは「鍛練してくる!!」とか言って、席を外している。
そんなアルカの話題が出るなんて思わなかったな。しかも、囮?
「覚えてる? ヒュース皇子と共にダンジョンをクリアした時があったでしょ? ショスの時だよ」
あー、そう言えば、そんなモンスターもいたな。
すっかり忘れていたが、それがどうしたんだ?
「ショスだけじゃないけど、モンスターの中には、魔力を感知して攻撃してくるものが多々いるんだ。だから、知里を襲う」
ふむふむ、なるほど。
「けれど。そこで知里が魔力を抑え、アルカの方が魔力が高くなれば、囮に出来るでしょ? 身も隠せるようになるから、死角からも襲えるよ」
「めっちゃ売り込んでくるな」
「当たり前。知里は、最初からチート魔力をゲットしてしまったからこの過程を無視してここまで来てしまったけど、普通は魔力制御から修業を始めるもんなんだよ。冒険者わ」
「へぇ…………」
色々、俺は吹っ飛ばしていたらしい。
まぁ、これも重要らしいし、リヒト達も頑張っているみたいだし、俺もやるか。
待っているだけも、暇だしな。
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