ヤンデレ発動で安心する俺がいるなんて思わなかった
「俺の話はここまでだ」
「まだまだ聞きたい事があるんだが…………」
「協力しない」
「スイマセンデシタ」
こいつ、本当にめんどくさい。
「んで、話は変わるぞ。管理者の方だが、今は特に大きな動きはない。こっちが動くなら今だ」
「なんでわかるんだ?」
「強力な魔法には代償がいる。代償分くらいは働いてもらわねぇとな」
欠伸で出た涙を拭きながら、スペクターが教えてくれた。
なるほど、首羽骨を使ったのか。
……………………俺の事をチート扱いしてくるが、絶対に俺より周りの方がチートだろう。
「でも、早くしろよ。またいつ動き出すかわからねぇんだからな。アクアがいないから戦闘は問題ないとは思うが」
「そんじゃ」と、欠伸を零しながらスペクターは歩き去ってしまった。
それだけを伝えに来てくれたらしい。
(「? どうした、グラース」)
なんか、さっきからスペクターを見ている。
『カガミヤ、僕、あの人について行くね~』
「…………え?」
あ、驚きすぎて声に出してしまった。
歩き去ろうとしたスペクターが振り返る。
「まだ何かあるのか?」
「い、いや、あの…………」
これ、伝えたら絶対に嫌がるよね。
協力しないと言われてしまえば終わりだ。
『何もしないよ。近くで観察するだけ。幽体と亡霊の違いとか、僕の身体について。この人ならわかると思って』
言いながらグラースがスペクターの横に付く。
笑顔で手を振る。もう、何を言っても意味は無いな。
「――――なんでもない。また何かわかれば連絡くれよ」
「わかっている。はぁ、死にたい」
そのままグラースが付いて行っている事すら気づかず、スペクターは歩き去った。
「どうしたの、知里」
「グラースがスペクターについて行った」
「…………え? そうなの?」
「幽体と亡霊の違いとかを知りたいんだって」
「あー、なるほどね」
アマリアも納得したらしい。
まぁ、グラースがやりたいのなら、いいんじゃないかな。
俺達は俺達でやる事があるし、そっちを優先しよう。
「それじゃ、これからどうする?」
「正直、アルカとロゼ姫がいないのは不安だが、起きるまで待っていられないのも事実。俺とアマリア、グレールとリヒトでダンジョン攻略を続けて精霊と魔法をゲットしつつ、カケルの封印解除を優先して動こうか」
「グレールがロゼ姫と離れて大丈夫だったらね」
……………………確かに。
※
グレールは、ロゼ姫が寝ている自室にいるだろう。
アルカは大丈夫だろうか。
寝ているだけだし、城の中の一室だから大丈夫だとは思うけど。
アシャーは、竜魔法が見れたことで満足したらしく、図書館に戻って行った。
今はまず、グレールにどうやって話を持って行こうか考えながら城の廊下を進む。
廊下をすれ違う海底人は、慌ただしい。
邪魔にならないようにしないとな。
壁側を歩いていると、すぐにロゼ姫の自室にたどり着いた。
ノックをするけど、返答はない。
いない…………なんてことはないだろう。
絶対にロゼ姫から離れる訳ないし、居るはずだ。
ゆっくり扉を開くと、やっぱりいた。
ロゼ姫はまだ眠っている。グレールは、ベッドの隣に椅子を置き、座っていた。
「グレール」
「チサト様ですか、すいません。もしかして、ノックなどしておりましたか?」
顔色が悪いな、相当心配らしい。
寝ているだけとはいえ、主君が起きないのは何かしら想像してしまって怖いんだろうな。
「何かありましたか?」
「今、管理者が動いていないらしいからダンジョン攻略をそろそろ再開したいと思っているんだが、いいか?」
「頑張ってください」
「なに、当たり前のように行かない前提で言ってやがる、お前も行くんだよ、俺達と同じチームだろうが」
頭をコツンと叩くと、わかってはいたらしくムスッとふてくされてしまった。
いやいや、貴方。自分の実力わかっていますか?
貴方がいないと高難易度のダンジョンは攻略できませんよ?
呆れていると、グレールが立ち上がった。
「ん?」
「行くのでしょう? ダンジョン攻略。ロゼ姫とアルカ様がいらっしゃらないのは少々戦力的に痛いですが、仕方がありません」
「え」
え? え、こんな素直に言うこと聞いてくれるの? ロゼ姫から離れるの?
この人、本当にグレール?
「何を呆けているのですか。早く行きますよ。早く行って数秒でも早く終わらせて帰ってくるのです。私がここにいてもチサト様は何かしら説得しようとしそうですし、それだったら早く行って早く終わらせます。全力で、誰よりも早く、数秒でも、早く――……」
「あっ、いつも通りのグレールだったわ」
いつも通りのヤンデレが発動してくれて俺は安心したよ。
偽物かと思って少し焦ったわ。
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