受け継がれた思い
目の前に現れた半透明の男性は、イルドリの父、シリルだった。
黄緑色の瞳は、憔悴しきっているイルドリに注がれる。
「父上、なぜ? 父上は死んだはず……」
「この男性は、本物だが本物じゃねぇーんだよ。黄泉の国から一時的に連れてきたんだ。体は無いが、意識は本人そのもの。少しだけだが、親子の会話を楽しむんだ」
カケルが簡単に説明をする。
そんな彼の後ろでは、スペクターが汗を流し首羽骨に魔力を送っていた。
「――――時間がない。えっと、シリル王? 話せる時間は三分。簡潔に終わらせろよ」
カケルが言うと、シリルは頷きイルドリを見た。
『イルドリ、早く話を進めさせてもらう』
「何を、話すのでしょうか」
まだ、動揺は消えていない。
嬉しいが、こんな出会い方をするとは想像すらしていなかった。
どのように返答すればいいのかわからず、目を泳がせた。
『いきなり、この国を統べる王になれと言うのがどれだけ酷な事かはわかる。だが、イルドリ。このままでいいのか? このままでは、フォーマメントが崩壊してしまうぞ』
「しかし、私などでは、父上が守ってきたフォーマメントを統べる事が出来るとは思えません」
シリルから目を離し、膝に置いている拳を見る。
こんな小さな、頼りにならない手では、守れるものも守れない。
自分以外の人が王になった方がいいと、イルドリは本気で考えていた。
そんな時、シリルは歯を食いしばり怒りを噴出した。
『いい加減にせんかぁああ!! ばかもんがぁぁぁああ!!!』
廊下にまで響き渡りそうなほどの大声量に、周りの人は目を丸くする。
そんな中、一番驚き目を見張っているのは、誰でもないイルドリだった。
『俺は息子をここまで弱い者に育てた覚えはない!! 誠実で、人のために行動できる。努力家で、皆が付いて行きたくなるような。そんな息子に育てたはずだったんだが、それは私の幻想だったか?』
腕を組み、シリルは鼻を鳴らす。
今だ驚き、何も言えないイルドリの瞳は、徐々に光を取り戻していった。
『イルドリよ。まだお前は未熟者だ、それはしっかり胸に刻め』
「はい…………」
『だが、お前は人を引き付ける力がある。未熟者だと自覚し、助けてもらいながら強くなれ。使えるものは使え、視野を広くしろ。後悔があるのなら、同じ過ちを二度と行わないよう、普段から意識しろ』
力強く言い切られ、イルドリは目を大きく開いた。
何か言いたげに口を開いた時、スペクターが大きな息を吐いた。
「時間だ」
それだけを告げると、シリルの姿は半透明から透明になろうとする。
今にも消えそうなシリルの表情から見て取れるのは、不安。
イルドリからは何も聞かせてもらえず、このまま消えてしまうのかと、悲し気に眉を下げた。
だが、消える直前、イルドリは涙を流し腹から声を出した。
「父上!! ありがとうございました!!!」
口から出たのは、宣言でもネガティブな言葉でもない。ただのお礼。
でも、その言葉を聞いたシリルは、不安な表情から安心したような笑みに切り替わり、姿を消した。
カランと音を立てて落ちたのは、真っ二つに折れた二本の骨。
それをカケルが拾い上げ、イルドリに渡した。
「これからの道は決まったらしいな、王様」
「…………うむ。弱いところを見せてしまい申し訳ない。私は、父上に教えてもらった事さえやらずに諦めていた。父上が残したものを、私が消そうとしてしまった。それだけは、絶対にしてはならぬのだ」
ベッドから立ち上がり、カケルから渡された骨を受け取り、顔を上げた。
その表情には生気が戻り、口元にはまだ弱いが笑みが浮かぶ。
藍色の瞳に光が宿り、前を見始めた。
もう、心配はいらない。そう思わせてくれる表情を浮かべ、アンジュとアンジェロは顔を見合せ笑い合った。
重たかった空気が明るくなり、皆が笑みを浮かべた時、部屋の中にバタンと、誰かが倒れたような音が聞こえた。
後方を見ると、首羽骨の隣で倒れてしまっているスペクターが目に入る。
首羽骨も、主であるスペクターが意識を失った事により、体が薄くなり、消えてしまった。
「やれやれ、やっぱり死んだものを呼び戻すと、魔力が一瞬にして無くなるな」
「どういうことだ?」
カケルの言葉に、イルドリが問いかける。
「俺達人間は、魔法を使って生活をしているのは知っているか?」
この場にいる三人のアンヘル族は、カケルの問いかけに頷く。
「その魔法を使う為には、魔力が必要なんだ。その魔力が枯渇すると、今のスペクターのように強制睡眠に陥ってしまう」
「強制睡眠? それは、本当に言葉のままなのか?」
「そうだ。どんな状況でも抗う事が出来ず、眠り意識を失ってしまう。こうなると、スペクターの場合は、一週間は全く目を覚まさんな」
「よっこらせ」と、カケルはスペクターを米俵のように抱え、アンジュ達を見た。
「んじゃ、俺達を地上に返してくれるか? 用は済んだだろう?」
当たり前のように言われ、思考が追い付かなかったアンジェロ達だったが、イルドリがカケルに近付き、一つの提案をした。
「もしよかったらなんだが、まだ空き部屋がある。そこにその男を眠らせ、少し話をしないか?」
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