生き物はキレると何をやられるかわからない
魔法を唱えると、出てきたのは水の刃。
六本の刃を俺が背負う形で現れる。
それだけではなく、なに、日本刀?
水の刀が目の前に作られた。
握ると、自然と手に馴染み、違和感がない。
まじまじ見てみると、透き通るほど綺麗な水で作られていることはわかった。
これ、本当に斬る事が出来るのか?
いや、アビリティがおすすめしてくれたし、信じるしかないか。
フィルムの方を見ると、グレールが所々に傷を作りながらも頑張って耐えてくれている。
刀、扱ったことないけど、手に馴染んでいるし行けるだろう。
『こちらはサービスです。私が使っていた魔法になります』
アビリティが言うと、俺の右目に片眼鏡が作られた。
「――――すげぇ」
レンズを通している世界が、今まで見ていた世界とは違う。
グレールとフィルムの攻防は目を凝らしやっと見れる程度だったが、今は余裕で見る事が出来る、追いつくことが可能。
体も軽くなっているような気がするし、これならフィルムと互角に戦えそうだ。
気配をできる限り消し、二人に近付く。
気づかれないように、死角から。グレールが気を引いてくれているうちに。
刀が届く間合いまで、気づかれずにたどり着く。
こいつの後ろ、刀を振り上げ──……
「――――っ」
流石に風や空気の揺れで気づいたか。
拳を向けてきた。
だが、こっちはもう振り落としてんだよ!!
――――ガキン
「おいおい……」
拳で刀を受け止めるって……。
植物魔法が施されているから、不思議ではないか。
俺の方に視線を向けたという事は、グレールが無防備になる。
フィルムを間に挟み、グレールと目を合わせる。
頷きあうと、グレールの剣がフィルムに向けられ、勢いよく振りかざされた。
狙うは首。だが、それはひらりと簡単に躱され距離を取られちまった、ちっ。
「お前、魔法、知らない」
「いや、さすがに無知な俺でも魔法くらいは知っているぞ――あ、今俺が発動した魔法を知らないという事か。それは俺も知らんかったから仕方がないと思うぞ」
その言い方、俺達の魔法は共有されているのか?
なら、ここで新しい魔法を教えてもらったのは美味しい。
────体は自然と動く、軽い。
さっきまでの疲労などが嘘のよう。
「──っ」
地面を強く蹴り、一歩で距離を取ったフィルムに近付く。
拳を繰り出され、振りかざした刀は止められる。
上からが駄目なら右、駄目なら左から。
グレール程のキレはないかもしれないが、その分重さはある。
小さな体で受け止め続けているフィルムの身体は、徐々に後退し始めた。
苦い顔を浮かべ、地面に生えている雑草も操作し足に巻き付けようとしてくる。
「glace」
手を地面に突け、グレールが動き始めた雑草を凍らせてくれた。助かった……。
他にも周りの植物を操ろうとしたが、動き出す度にアルカが土の刃で切り、人形で踏みつけた。
身動きが取れなくなったフィルムは苛立ちで顔を歪め、舌打ちの回数が増える。
血管が浮き出てピクピクしている、相当怒ってるな。
普通に怖いが、今は気にしない。
というか、気にする余裕がない。
少しでも気が逸れたり、腕が鈍れば一気に畳み込まれる。
首を狙って、一発。
出来れば痛みを感じさせないように。
お互い引かない攻防、仕掛ければ避けられ、カウンターを繰り出される。
それをうまく促し回避、俺も仕掛ける。
くそっ、さっきからこれの繰り返し、刀だけではこれ以上押せない。
やっぱり、背中にしょっている水の刃を使うしかないか。
頭でイメージをすれば使えるとは思う。
でも、そこに意識を集中できない!!
くそ、くそ!
やっぱり、肉弾戦は苦手だ!!
動体視力がレンズのおかげで追いついて戦闘は楽になったけど、それとこれとではまた別の話!
……やるか、やるしかないのか。
この均衡状態を崩すには、やるしかないのか!
そんな事を考えていると、先に耐えきれなくなったのはフィルムの方だった。
「――――くっそ、うぜぇなぁぁ…………」
口が、ものすごく悪い。
いきなりどうしたというのか。
「うざい、うざい! うざいうざい!!! ほんとに、うざい!!」
な、なになになに!?
なんか、発作が起きた!?
思わず後ろに後ずさってしまった。
でも、距離を詰めてこようとはしない。
頭を抱え、苦しみ出した。
な、何が起きっ――……
「待て、待て待て待て……おいおいおいおい!!!」
魔力が、密度のある魔力が、フィルムの身体からあふれ出始めた……?
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