ヒーローは遅れてやってくると言うが、どうせ最悪な事態なのは変わらない
ウズルイフの背後に突然現れた砂時計。
何をする気かわからないアマリアは、何が起きてもすぐに回避できるように警戒を強めた。
「警戒しているだろうが、残念だったな。俺様の魔法は一度発動すると、もう誰にも止められない──俺自身でもな」
強気な表情で言い切ったウズルイフは、口角を上げ指を鳴らす。すると、背後に現れた砂時計はくるりとひっくり返った。
アマリアの心臓が大きく音を鳴らし、波打つ。
――――う、動けない。
突然拘束される体、痛いくらいに波打っている心臓。
何が起きたのか分からず唖然としていると、ウズルイフの足元の地面が妙な動きをし始めた。
ウズルイフを吸い込もうとするように渦を巻いていた地面、それが逆回転し始める。
「っ、なっ…………」
アマリアの魔法が逆再生のようになり、何とか逆らおうと魔力を込めようとするが体が言う事を聞いてくれない。
何も抵抗出来ないでいると、ウズルイフの身体は徐々に地面から抜け始めてしまった。
太ももまで埋まっていたはずだが膝まで低くなり、最後には足が出て渦を巻いていた地面はアマリアが魔法を発動する前に戻ってしまった。
――――パチン
また、ウズルイフが指を鳴らすと、拘束されていたアマリアの身体は解放される。
同時に、限界近かった体からは力が抜け、地面に落ちてしまった。
ウズルイフが近づくと、まだ息はあるが今にも気を失いそうになっていた。
そんな彼を、冷たい瞳で見下ろす。
「まったく、俺にここまでの魔法を出させやがって。これ以上魔法を発動できなくなっちまったじゃねぇかよ、どうしてくれるんだよ、糞」
――――ゲシッ
「グッ!!」
「アマリア様!!」
アルカがアマリアに気を逸らしてしまった瞬間、地面を蹴りフィルムが大きく動き出した。
拳を握り、アルカへと突っ込む。
すぐに意識を戻したが防ぎきれない。
少しだけでも衝撃を和らげるため、剣を構えた──だが。
――――ガシャン!!
「――――っ」
一発、もろに食らってしまっただけでアルカの剣は嫌な音を立て壊れてしまった。
地面に足を付き、膝を深く折る。
アルカの下から再度、一瞬で体勢を整え拳を付き出した。
――――――――避けられない
迫りくる拳を避ける事が出来ず、動けないアルカ。
そのままフィルムの拳はアルカをぶんなぐっ――……
――――ガシッ!!!
「――――なっ」
「っ!? な、にが……」
アルカに繰り出された拳は、ギリギリ当たることなく止められた。
炎を纏った手によって。
「――――やってくれたなぁ……」
「…………どうやって、出てきた」
「企業秘密」
不愉快そうに顔をゆがめている知里がフィルムから手を離し、アルカを一瞬で抱え、下がる。
後ろにはアマリアとウズルイフ――――と、グレールがいた。
グレールがアマリアを守るように前に立ち剣を構え、ウズルイフの腕には氷の刃が深々と突き刺さり血を流していた。
そんな彼の表情は、驚愕そのもの。
自身の刺された腕を見て、目を見開き固まっていた。
何が起きたのか、どこから湧いて出てきたのか。
アマリアに集中していたとはいえ、周りの気配や視線に鋭いウズルイフが気づかないなどありえない。
「な、なぜ。何も、魔力すら、感じなかったぞ…………」
「それは、貴方がアマリア様に集中し過ぎていたからなのか、それともチサト様の魔法が感じ取りにくかったのか。どちらかはわかりませんが、今はもう関係ありませんね──……」
グレールの口調は一定。
抑揚が無く、ただ静かに剣を構え目の前に立っているウズルイフを見据える。
だが、そんな空調とは裏腹に、ひやっと、辺りが寒くなり、地面は霜が張り始める。
グレールが吐く息も白く、髪の端が凍っていた。
「私のロゼ姫を傷つけたなんて……。そんなの、絶対に許せませんよ。本当に何をしているんですかなぜロゼ姫が気を失っているのですか何をしたんですか許しません許しません殺す殺す殺す殺す――……」
「……………………流石に、これはちょっと気持ちわりぃな。まさか、おめぇ、あの姫さんの事、好きなんか?」
「私がロゼ姫に好意を持つなどありえません。そのような卑猥な感情ではなく、純粋に従えているだけです。変な勘違いしないでください」
冷たい眼差しを送り、姿勢を低くする。
臨戦態勢になったグレールを見て、ウズルイフも右手を前に出し魔法を放とうとした。
──だが、放てない。
魔力が少なく、時魔法を放つことが出来ない。
「――――ちっ」
「魔力、無くなってしまったみたいですね。睡魔が襲ってこないみたいで羨ましいです」
嫌味を含め言い切り、グレールは地面を強く蹴りウズルイフへと走り出した。
剣をかざしウズルイフを襲う。
ひらりと躱されるが、グレールの追撃は止まらない。
上、左、右と。
次から次へと振りかざされる氷の剣に、ウズルイフは煩わしいと顔を歪め地面を踏みしめた。
「クッソうぜぇなぁ」
懐に手を入れ、ボール状の物を取り出しグレールへと投げた。
反射的に”それ”を切ると、中から出てきたのは黒い煙。
視界を遮られてしまい、グレールは咄嗟に距離を取った。
「ゴホッ、ゴホッ!! っ、アマリア様!!」
咳き込みながらも動けないアマリアを心配し、探す。
すぐに見つける事ができ、駆け寄り体を起こすと、気を失っているが息はあり安心する。
再度周りを見回していると黒い煙が晴れ、同時に最悪な事態になっていることに気づき、舌打ちを零した。
「――――申し訳ありません、チサト様。ウズルイフを、逃がしました」
ウズルイフの姿が、今の煙と共に消えてしまっていた。
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