選択肢なんて俺には存在しなかったんや……
「…………隠して、良かった。ここに、来る。準備」
水晶に手を添え、知里達を映像を通して見せていたフィルムは、一度目を閉じ胸をなでおろす。
すぐに水晶を消し、歩き出した。
「魔力、暴走、注意。戦闘、負けない」
再度開けた瞳の奥は黒い何かが渦巻き、黄緑色の瞳が濁っている。
黒いローブのフードを深く被り、カツン、カツンと足音を鳴らし、広場から姿を消した。
※
「はぁ、はぁ…………。ついた……のか?」
「みたいだな」
隣にいるアルカは息一つ切らしていないことに疑問を抱くが、今はどうでもいい。
崖下を真っすぐ走っていると緑が所々に見え始め、そのまま走り続けると目的の場所へ辿り着いた。
緑の生い茂る山。
見た目は普通の山だけど、これがダンジョン?
「入り口はあちらでしょうか」
グレールの指さす方向を見ると、遺跡への入り口と呼ばれていそうな小さな、古びた囲いを発見。
近付いてみると、暗い道が中に繋がってんな。
耳を澄ましてみると、水滴の音が聞こえる。
覗き込むと、風……か。
冷たい風、音。
中、水が通っているんか?
「それでは、行きますか?」
「う、うん…………」
うわぁぁぁ、ここがSSSダンジョンかぁ。
行きたくない行きたくない行きたくない行きたくない。
俺は、この中に入りたく、ない!
「顔が青いけど、大丈夫?」
「行きたくない」
「行かなければ、報酬の貰える依頼を受ける事が出来ないよ」
「行くぞ」
報酬のために、俺は行く。
SSSダンジョンだからとか知らん、俺は行く。
「そこは、もう少し成長した方がいいと思います、カガミヤさん」
「金が絡むと、いつも警戒心マックスのカガミヤが途端に緩くなるから不安になるよなぁ」
アルカとリヒトから冷たい視線を送られてきたが、もう慣れたぞ。
あと、不安にならなくてもいい。
俺は、報酬が絡んだ方がやる気の出る男だ。
ちなみに、報酬が絡んでいない依頼は全てに脱力です。めんどくさい。
二人の冷たい視線を無視して中に突入。
冷たい風が押し寄せて来るけど、体が冷える以外は特に困らない。
────ポチャン ポチャン
天井から水が落ちてるな、水溜まりが出来てる。
壁も湿っているから、正直言って触りたくない。
五人分の足音を響かせ歩いていると、洞窟内が徐々に暗くなっていく。
外の灯りが届かなくなってきたのか。
もう、魔力のコントロールは最初の頃と比べると慣れてきたし、簡単に手のひらの上に炎を灯す。
足元だけでも照らす事が出来ればいいし、先の方は何か気配を感じた時にでも炎を放とう。
「魔力のコントロール、上手く出来るようになってきましたね」
「グレールとの修行があってこそだけどな」
「ありがたいお言葉です」
いや、これはマジ。
グレールに出会っていなければ、俺は魔力のコントロールという事が出来ず、フィルム戦の時、確実に負けていた。
―――――――─ザザザザザザザザッ
「ん? なんか、水の音が聞こえないか?」
「確かに今、聞こえましたね」
リヒトも聞こえたらしいな。
――――――――ザザザザザザザザッ
耳を澄ませてもう一度聞いてみると、先の方から聞こえてきているのがわかった。
「先の方だな」
他の奴らも気づいたらしく、警戒を強めている。
今まで、何か変化があればすぐにモンスターだのなんだのって。
戦闘パートに入っていたからな、警戒するのは無理もない。
「グレール、モンスターの気配はありますか?」
「今のところ感じません。水の音だけですね」
グレールが言うのなら、間違いないな。
結構、グレールは小さな変化やモンスターの気配に鋭いし。
「この先に水が流れている所があるってことかな?」
「だと思うぞ、リヒト。飲み水として活用できればいいな!」
「そうだね!」
────え、飲み水?
アルカの言葉にリヒトは元気に頷いているし、誰も突っ込もうとしない。
え、マジで?
なんか、汚いとか、そういうのはないのか?
「どうしたの、知里」
「自然の恵みに感謝しているような会話が聞こえてきたなぁって思って」
「……………………ごめん。今回のはちょっと、理解出来ない」
「理解しなくてもいい」
この世界に馴染んできたと思いきや、まだまだ俺にはハードルが高かったらしい。
そんな事を思いながら歩いていると、大広場にたどり着いた。
ここまで何もモンスターの気配はなかったし、トラップもなかった。
本当にここはSSSランクダンジョンなのか?
────いや、ここで油断するのは良くない。
広場に出たという事は、中ボスが現れてもおかしくはない。
「周りは――――左右に天井から水が流れている以外は特に変化はないのか。苔がある程度」
…………ん?
グレールが周りを見回してる。何か、気になる所があるのだろうか。
「どうした、グレール」
「いえ、モンスターの気配が微かに感じますので、どこからかなと」
────確かに、微かにするな、モンスターの気配。
集中しないと感じないくらい微か、よく気づいたなぁ。
目を閉じて集中してみるが、モンスターの気配を感じる程度しか分からない。
四方から気配を感じるから、マジでどこに潜んでいるのか分からない。
これは、強いモンスターだから気配を消すのが上手いということなのかねぇ〜。
最悪、本当に最悪。
「アルカ、リヒト。俺達から離れないようにしろよ。リトスも」
「は、はい」
「わかったんだぞ…………」
リヒトに抱えられているリトスも何かを感じているのか、体がマナーモード。
震えるのは仕方がないが、勝手に離れるなよ。
抱えられているから逃げることは出来ないだろうけど。
「――――――――水属性のモンスターが現れそうですね」
「そうね。ここで水属性モンスター。SSSランクダンジョンの中ボスだと、SSランクでしょうか」
「その可能性があります、気を付けてください」
グレールとロゼ姫は、やっぱり慣れているな。
水属性モンスターか。SSランクと搾ると……。
「アルカ、水属性のSSモンスター、何か思い当たるモンスターってあるか?」
「そうだな……。ブレードフィッシュとか……?」
なんだ、その安直な名前。
強いのか? 強いんだよな?
だって、SSランクだし、ワイバーンより強いんだよな?
「確かにブレードフィッシュもSSランクだけど、オオザメもSSランクだね。どっちが出てきても厄介だけど」
「名前的にはオオザメの方がやばいな。出来ればブレードフィッシュの方が嬉しい」
「どっちもどっちだよ」
アマリアがなぜか呆れたような顔を浮かべた。
し、仕方がないだろう。
俺はモンスターの知識ゼロなんだから。
今までもアルカに教えてもらっていたし、呆れるなよ、少し悲しいじゃねぇか。
「まぁ、簡単に分けると、集団で襲ってくるか単体で襲ってくるか。どっちがいいかだね。ちなみに、単体がオオザメ」
「どっちも嫌だけど、オオザメかな。集団は、まぁ何とかなるだろう」
「選んでも意味はないけどね。僕達に選択肢なんてもの存在しないのだから」
・・・・・・・・・確かに。
ここはダンジョン、俺がどんなに嫌がろうとも出現するモンスターは決まっている。
「っ、きます!!」
グレールの声と同時に、目の前の水が膨らみ始めた。
────さぁ、何が現れる!!!
――――――――ザバァァァァァァァアアア!!!
水から姿を現したのは――――はずれの方。
「さいあっく!!!!」
現れたのは、俺の数倍の大きさはあるオオザメの方だった。
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