アマリア様の美声を無視するのは私でも許しません!
「ふぅ~。一度目を覚ました様子を見ると、もう大丈夫そうですね」
「そうみたいだね。今回は本当に助かったよ、ありがとうエトワール」
「アマリア様のお願いなのと、知里さんの危機だったので。仕事など全てほっぽいて、言葉のまま、飛んできましたよぉ~」
へらへらと手を振り、笑いながらエトワールはお礼を素直に受け取る。
リヒトとアルカは、まだ知里を心配しており、その場から動かない。
「それにしても、まさかこんなものが埋め込まれていたなんて……。心が壊れなかったのが奇跡かもしれないですねぇ」
言いながらエトワールは、取り除くのすら難しいと思っていた漆黒の魔石を手に持っていた。
魔石の大きさは親指くらい。
光で透かそうとしても、全て黒に染まってしまい何も見えない。
「その魔石について僕は詳しく分からないんだけど、知ってるの?」
「これは、私の元冒険者仲間である二人の死体にも埋め込まれていたものと同じ、夢魔法が込められている魔石ですね。ここまで濃厚なものとなると、数年この魔石に夢魔法を送り込めないと作れないはずなんですが…………」
色々考えるが、今のエトワールにもわからないことだらけらしい。
アマリアも考えるが、予想は出来ても確定出来るなにかがないため頭を悩ませる。
「…………まぁ、その夢魔法の魔石を作り出した方法は予想が出来るけど、それをどうやって知里の首に埋め込むことが出来たのか……」
「やはり、そこですよねぇ。この大きさなら、相手に気づかれずに埋め込むことは難しいでしょうし。何か裏技を使ったのか、それとも魔法か」
「わからない。けど、それは知里が目を覚ましたら新しい情報を加えてまた作戦を考えるとしようか。エトワールはいつまでここに居れるかな」
アマリアからそう聞かれ、エトワールは目を輝かせた。
『私! アマリア様に頼られている!?』と思っているのが目から伝わり、アマリアはげんなり。
「私はアマリア様のご命令なのならいつでもどこまでもお供しますともぉぉぉおお!!! 貴方の為なら私の魔法、頭脳、命!! すべてを捧げます! さぁ、言ってください! 私に鬼畜なご命令おぉぉぉおおお!!」
立ち上がり、くるんと踊るようにアマリアへと振り向くと、彼の『心底めんどくせぇ』と言う、今まで誰も見た事がないような表情を見てしまい、またしても胸キュン。
「はう」と、胸を押され床に倒れ込んでしまった。
目は、ハートのまま。
「か、変わった方がアマリア様の周りには集まるのですね」
「類ともの法則でしょうか。ロゼ姫、危険があるかもしれませんので壁の方へ避難しましょう」
「ロゼはひとまずいいとして、グレールのその言い方はさすがに傷つくからやめてほしいかな。僕は変人ではないから、類ともの法則は成立しない」
冷静に訂正を入れ、アマリアはため息を吐きながらリヒト達へ近寄って行く。
「二人とも、もうそろそろ君達も体を休ませた方がいいと思うし、寝る準備を始めなよ」
アマリアが言うが、二人はそこから動かない。
回りの声すら聞こえてないのかと思ってしまう程微動だにしないため、アマリアはため息を吐くしかない。
強制的に眠らせるか……。
そう考えた時、床に倒れ込んだエトワールがむくっと起き上がる。
「――――リヒトちゃん、アルカちゃん」
エトワールが名前を呼ぶが、二人は顔を上げる事すらしない。
それでも彼女は、笑みを浮かべながらその場に立ちあがる。
「知里さんが心配なのはわかるけど、今度は貴方達が体を壊してしまうよ。体を休めるのも冒険者として大事な事、これはわかっているかな」
スピリトとリンクが顔を見合せ、エトワールを見る。
だが、名前を呼ばれている二人は動かない。
「はぁ、エトワール。あの二人には何を言っても効かないみたいだし、今はっ――」
アマリアが諦めようと言おうとした時、エトワールはゆっくりと二人に近付いて行った。
そんな彼女の額には青筋が立っており、アマリアも言葉を繋げられない。
ロゼ姫とグレールも、微かに感じる怒りのオーラに口を閉ざし、顔を青ざめさせる。
「そんなに話を聞かないのなら仕方がありませんねぇ~。リヒトちゃん、アルカちゃん。貴方達は私の理想とする夢の世界へお連れしましょうか」
エトワールが手に持っている木製の杖に魔力を込めると、さすがこれは無視できないとアルカとリヒトは動き出す。
だが、もう遅かった。
「夢の中で幸せを――――somnium」
二人に夢魔法をかけると、抗うことなく床へと倒れ込んでしまった。
慌ててロゼ姫とグレールが二人に駆け寄り体を起こす。
「……寝息。寝ているだけ、ですか?」
「そうですよぉ~。まったく、アマリア様の言葉を聞かないなんて躾がなっていないですねぇ。アマリア様の素敵で美しく、通る声を聞き漏らすなど許せません。私は怒っているんですよぉ~。ねぇ、アマリア様ぁ~」
ニコニコと笑みを浮かべ、アマリアへと顔を振り向かせる。
なんと声をかければいいのかわからないアマリアは、苦笑を浮かべ顔を逸らした。
「…………とりあえず、僕が知里を見ておくから、他の人は自室に戻って大丈夫だよ。体をしっかりと休ませないといけないからね」
アマリアの気まずそうな言葉に、ロゼ姫はリヒトを、グレールはアルカを抱え部屋の中から姿を消した。
精霊二人もパッと姿を消し、残されたのはアマリアとエトワール。
後は、寝息を立てている知里だけ。
「…………やっぱり、魔法はその一つと癒し魔法しか使えないの?」
「そうですねぇ。この二つしか今は使えませんね。魔力が抑えられてますので」
木製の杖を持ち変え、エトワールは困ったよに眉を下げ笑う。
「でも、世界のバランスを崩してしまわないための処置なんだと、受け入れておりますよ」
「君は、それでいいのかい?」
「いいのです。望んではいけない命を手に入れる事が出来たと考え、時代の移り変わりをこの目で見る事が出来た。どの時代でも楽しいものがあり、好きになれるものがあったため、特に苦ではありませんでしたよ」
嘘偽りのない、心からの声だと、アマリアはエトワールの表情で察した。
「そっか、それなら良かったよ」
彼女からの返答を聞いて、安堵の息を漏らしたアマリアは、ベッドの隣に置かれている椅子に座る。
エトワールもせっせと貝殻の椅子をアマリアの椅子にぴったりと付け、座ろうとした。
だが、それをアマリアが「やめて」と離したため、エトワールは泣く泣く少し離れた椅子に座り、次の日を迎えた。
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