知里の弱点、みーつけた
「音魔法? どうすればいいの」
「……………………音属性の、基本魔法。それで脳を震わせ、強制的に意識をシャッドダウンさせる。そうすれば、夢すら見なくなり、幻聴も聞こえなくなるはずです」
力なく答えるスペルに、ロゼ姫が冷たく言い放つ。
「そんなことをすれば、チサト様が元に戻ることは出来ないのではないかしら。さすがに危険な事だと思うのだけれど」
「ですが、今はそれしかないかと思いますよ。このままであれば、確実に精神は崩壊し、意思疎通ができなくなる可能性がありますが……?」
一拍開け、スペルは自身を見る全員を見上げる。
その時ふとっ、アマリアが目に止まり、ニヤァと下品な笑みを浮かべた。
「先程の会話で、知里の地雷があったみたいね。残虐集団の一人、アマリア様? 貴方は、やはり残酷ですね」
「なにを、いきなり…………」
「貴方は、自分の命を繋ぎ止めてくださっている知里の精神を追い込めた。やっぱり貴方は最低で、残酷な人なのね」
スペルの言葉に、アマリアは歯を食いしばり眉間に深い皺を寄せる。
拳を強く握ってしまっているせいか、爪が食い込み血が流れ出た。
「い、今そんなことを話していても意味はないと思います!! 今は、カガミヤさんをどうにかする方法を考えてください!!」
「だから、さっきから言っているでしょう? 音属性の基本魔法を知里の頭に食らわせるです。そして、意識を強制的にシャッドダウンさせ、夢や幻聴を消すの」
「それは、さっきロゼ姫様が危険だと…………」
「生半可な魔法なら、危険かもしれないですね。生半可な、音属性魔法持ちの、魔法使いなら」
挑戦するような瞳をアマリアに向けながら、スペルは口角を上げ言う。
視線を向けられているアマリアは、悔しげに顔を歪め、知里を見下ろした。
「貴方しか、今は音魔法を使えない。まぁ、残虐外道集団に所属していたのです。人を助けたいなど、思わないかもしれないですね」
「……………………」
知里を見下ろし、アマリアは血が流れ出る自身の手を口元に持って行く。
「――――僕が、知里の意識を強制的に落とす。音属性の基本魔法で」
「音魔法の基本魔法でしか、そのようなことは出来ないはずよ。脳に直接魔法を食らわせるのだから」
口元に浮かべていた笑みを消し、スペルはアマリアを睨みつけた。
「絶妙な魔力のコントロール、調整が必要な、高等技術。今まで人を殺す事しか考えてこなかったあんたが出来るとは思えないけど」
「…………はぁ、さっきから、本当にうるさいね。少し黙っててくれないかな」
アマリアも殺気の込められた瞳をスペルに向け、黙らせる。
右手を動かし、知里の頭に添えた。
「やってやろうじゃん。絶対に、知里を殺させるわけにはいかない」
魔力を右手に集中し、基本魔法を発動した。
「――――――――sunet」
空気が揺れ、知里の髪を揺らす。
すると、今以上に彼が苦しみ出し、アマリアは汗を流しながら近くにいるアルカに叫んだ。
「アルカ!! 知里を動かないように固定して!!」
「っ、わかった!!」
もがき苦しむ知里を力で押さえつけ、アマリアが魔力のコントロールをし、脳死させないように気を付けながら魔法を発動し続ける。
『辞めろ、辞めろ!! なんで、なんで俺が、なんで!!』
憎悪の込められた叫び声、救いを求めるような言葉。
苦しむ知里の口から零れた、彼の本音。
今まで、知里から聞いたことがない悲痛の叫びに、近くで聞いているリヒトとアルカは涙を流しつつも、拘束する手を緩めない。
「カガミヤさん!! しっかりしてください!! カガミヤさん!!」
リヒトは自分のように胸が締め付けられ、何度も何度も声をかける。
だが、その声も知里には届かない。
『なんで俺が、望んでなんていなかったのに!! 許さない、殺してやる、俺が、殺してやる!!』
「しっかりするんだカガミヤ!! 頼む!! カガミヤ!!!」
アルカの、苦しむ知里を掴んでいる手は、ガタガタと震える。
アマリアも、魔力のコントロールや調整が難しく、息が徐々に荒くなり始めた。
「――――あと、もう少し………………」
アマリアが呟くと、知里が突如動きを止めた。
「っ、カガミヤ?」
「カガミヤさん?」
動かなくなった知里は数秒後、力なく倒れ込んでしまった。
アルカがしっかりと受け止め、慌てた様子で口元に手を当てる。
「――――――――息、してる」
微かだが、知里は息をしていた。生きている。
アマリアは、しっかりと成功させた。
「はぁ、はぁ。あ、あとは目を覚ますまで。待つしかないね」
「良かった、本当に、良かった……」
アルカとリヒトは涙を流し、気絶をしている知里に抱き着いた。
わんわんと泣き、アマリアも力を使った疲労感で空中から床に足を付け、しゃがみ込む。
ロゼ姫とグレールは、スペルを警戒しており、離れない。
「……………………本当に、目を覚ますまで待つしかないみたいね」
「そうですね。それまで私達はスペルの監視と、情報収集でも致しますか、ロゼ姫」
「そうね。今、チサト様に必要なのは私達ではなく、あの二人なのだから」
今だ泣きじゃくっているアルカとリヒトを見て、ロゼ姫は呟く。
グレールも二人を見て、小さく「はい」と頷いた。
・
・
・
・
・
・
騒ぎのあった部屋の空中、誰の視界にも入らない魔法を自身に付与している男性、ウズルイフが楽し気に笑いながら、知里達を見下ろしていた。
「アッハ!! 見つけた見つけたみーつけた。知里の弱点、みーつけたぁ〜」
ケラケラと八重歯を見せ、目を細めながら笑うウズルイフは、誰にも気づかれないうちにその場から姿を消した。
ここまで読んで下さりありがとうございます!
出来れば次回も読んでいただけると嬉しいです!
出来れば☆やブクマなどを頂けるとモチベにつながります。もし、少しでも面白いと思ってくださったらぜひ、御気軽にポチッとして頂けると嬉しいです!
よろしくお願いします(*・ω・)*_ _)ペコリ