もう、予想外な出来事はいらんて……
────なんだ、ここ。
俺は、体調が優れない内に魔法を使ってしまい、意識を失ったはず。
なのに、なんで、見覚えのある部屋に一人、立っているんだろう。
普通の平屋。
リビングには、お惣菜のパックが転がり、ビールの空き缶などが散乱している。
電気はついておらず、薄暗い。
カーテンは古くボロボロ、壁や床はシミだらけ。
ここは俺の、実家。
いや、実家と呼んでもいいのか分からない。
俺の記憶に刻まれた、最悪な場所。
なんで俺は、こんな所に一人で立っているんだろ。
────っ?!
後ろ、誰かの気配!!
『………………お、前……』
振り向くと、そこには無駄に着飾った女性。
黒髪に黒目、色白の、顔を俯かせた女性。
俺に──いや、俺が、あの女に似ているんだ。
だって、あいつは俺の──……
『なんで、なんで貴方が、生きているの』
一般女性より少し高い声。でも、それだけじゃない。
遺恨の念が込められているような、肌に突き刺さる感覚。
『あんたさえ、あんたが!!』
『────ぐっ!!』
――――バタン!
っ、しまった!
唖然としていると、首を捕まれ押し倒されちまった。
く、苦しい、息が、出来ない……っ!!
『あんたが生まれてこなければ、私はあの人に捨てられることは無かった! あんたが居なければ、私が一人になることはなかった! あんたさえ、あんたさえこの世に存在しなければ!!』
聞き慣れた罵詈雑言。
やっぱり、俺は存在してはいけないのか。
俺は、生きていてはいけないのか。
『あんたがいるから! 私が不幸になるのよ!!!』
俺がいるから、周りが、不幸になる。
そうか、そうだよな。
俺みたいな奴がいるから周りが不幸になる。それなら、いっそ。
────死んじゃおうか
・
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「――――――――っ、あ」
意識が浮上、部屋の中、暗い。
周りを見ると、それぞれがそれぞれに寝ている。
いない人は――――アマリアの奴……。
はぁ、なんか、嫌な夢を見ていたような気がする。
無意識に首に手が触れる。
特に、何も無い。でも、なんで首……?
いや、今は関係ない。
胸糞悪い夢を見ていたような気はしたけど、気のせい気のせい。
「────はぁ、体はだいぶ楽になったかな……」
んー、魔力に集中すれば、アマリアの場所ならわかる。
一応、スペルは――いたいた。部屋の奥に座って寝てる。
ベッドに顔を預け、寝ているアルカとリヒトを起こさないように降りて、廊下に出るか。
伸びている魔力の糸を辿れば、アマリアにたどり着くだろう。
「…………外か」
魔力を辿ると、そのまま城の外に出た。
空気が冷たい、魚がオスクリタ海底の外を優雅に泳いでいるなぁ。
海の中は薄暗いけど、ここはしっかりと光が灯っているから問題はない。
目を閉じ魔力を探知──あぁ、上か。
城の上に、アマリアがいる。どうやって行けばいいだろう。
周りを見回しても人っ子一人いないから、上への行き方がわからない。
空を飛ぶ魔法もないし、マジでどうしよう。
――――コツ コツ
考えていると、城の中から一人、俺の方に近づく影。
ちょうど良かったぁ、その人に聞こうか――――って、あ、あれ?
「グレール?」
グレールが、いつもの佇まいで立ってる。なんだ?
「体はもう大丈夫なのですか?」
「あぁ。さすがにまだ怠いが、普通に出歩けるくらいには回復した」
「そうですか、丸々三日間寝ていましたので少々心配しましたが、回復してよかったですよ」
え、そんなに寝てたの、マジ?
「それより、何か困っているように見えましたが、なにかありましたか?」
「あ、あぁ。上にアマリアがいるみたいなんだが、上への行き方がわからなくてな」
二人で見上げると、グレールがまた視線を俺に戻した。
「なるほど。城の上には空中魔法を持っている人しか行けない構造になっているんですよ」
「え、そうなの?」
「はい。危険なので」
あぁ、なるほど。
そこはしっかり考えられてんのか。
屋上的な場所はしっかり解放されて、主人公と相棒とかが話し合うための空間とかに使われるのをアニメとかでよく見るけど、現実ではないんだな。
一人で納得していると、グレールが一歩、俺に近づいて来た。
「上に行きたいのでしたら、お連れしましょうか?」
「え、グレールって氷魔法だろ? 空、飛べるのか?」
「飛べません。飛べていたら、今までの戦闘も幾分か楽に出来ていたでしょう」
それはそうだな。
なら、どうやって空中魔法が必要な場所に向かうんだ?
「少々乱暴ですが、お許しください」
「――――え、え?」
なんか、腰に手を回されたんだが?
なんか、抱きかかえられたんだが?
「え、何してんの?」
「口、開かない方がいいですよ、舌を噛みます」
「えっ――……」
――――ダンッ!!
っ!?!?!?!?
グレールが跳んだぁぁぁぁああ!?
え、え!? 城の壁を蹴って上に飛んでる!?
どんな筋力してんだこいつぅぅぅぅぅうううううううう!!!
・
・
・
・
・
・
・
――――ダンッ!!
「っ!? え、グレール? …………と、知里?」
城の屋上に、無事、到着……。
いや、無事ではない。
「ぎもぢがわるいぃぃぃぃ」
「えっと、大丈夫?」
グレールが俺を降ろしたのはいいが、自分の力で立つことが出来ない。
肩を借りて口を押えていると、アマリアがふよふよとこっちに飛んできた。
「なんでこんな所にそんなになってまで来たの」
「色々お話したい事があるみたいです」
「お話ししたい事?」
おい、勝手に話を捏造するな。
そんな事グレールに一言も言ってねぇじゃねぇか。
「では、私はこれで失礼します。帰りはアマリア様に送ってもらってくださいね」
「では」と、グレールは城から飛び降りた。
落ちている――――わけではなさそう。
あ、よく見ると城の壁が微かに濡れてる?
「グレールの靴の裏、氷魔法の気配がするね。何か細工をしてここまで来たんだと思うよ」
「なんだよ、筋力じゃねぇのかよ、つまらん」
「筋力だけで直立に近い作りをしている壁を蹴って上るって、普通に考えて不可能でしょ」
「まぁな」
ふぅ、なんとか気分は良くなってきた。
アマリアは俺の顔色を窺っているみたいだけど、特に気にせんでも良いと伝えると、元居た場所に戻って行く。
俺もついて行くと、城の屋上の端、オスクリタ海底全体を見回せる場所に辿り着いた。
「ところで、話って何?」
「あぁ、まぁ。うーん、まぁ、なぁ?」
「いや、なに?」
あ、アマリアに怪訝そうな目を向けられちまった。
だって、何から話せばいいのか迷うんだもん。
いきなり本題に入ってもいいのか、何か前振りは必要か。
…………いや、本題に入ってもいいか、入ろう。
「聞きたい事があるんだが、いいか?」
「いいけど、どうせスペルのことでしょ?」
「おう、聞かせろ。なんで、あんな事になった」
遠慮なく聞くと、アマリアは何から話そうか迷っている様子。
「うーん、そうだね。それじゃ、まず必要なところだけを伝えようか」
「わかりやすく頼む」
「スペルはね、カケル=ルーナと同じ冒険者の仲間だったんだよ」
「…………そうだったな、そう言えば…………」
アルカが俺が寝る前に微かに言っていたな。
頭、強制的に働かせよう。
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