違反者の巣窟
世界で一番広いと言われている山、ナチュール山。
緑で生い茂っているナチュール山に一人、黒いローブを羽織っている人物がゆっくりと歩いていた。
パキッ、パキッと。
枝が折れる音や、カサカサと葉が重なる音が響く。
歩いている黒いローブの人物を導くように木が立ち並び、道が自然と作られていた。
青空が広がり、日差しが降り注ぐ中歩いているのは、ダンジョンを管理している女性、フィルム。
向っている先には一つのダンジョンがある。
フィルムが前だけを見て淡々と歩いていると、突如上から自身を呼ぶ声が聞こえ足を止めた。
『フィルムフィルムー、なにしてんだぁぁぁあ??』
高くもなく低くもない声。
この声に聞き覚えがあり、フィルムは片眉を上げ、木の上を見上げた。
「ウズルイフ、用」
上を向くと木の枝に座り、笑顔を浮かべ手を振っているウズルイフの姿があった。
黒いローブを身に纏っているが、フードは取っているため紫のウルフカットが風に吹かれ揺れている。
「──よっと」
木から降り、フィルムの目の前に着地。
八重歯を見せニヨニヨと笑っている彼を見て、フィルムはむっと唇を尖らせた。
「その顔むかつくんだけど。いつもいつも、私を利用してるその顔」
「おいおい、口調口調。昔のようになっているが、大丈夫かぁ? 感情を表に出すと魔法が暴走するんじゃねぇの?」
「っ、…………大丈夫、問題、ない」
被っていた黒いローブのフードを深く被り、フィルムは誤魔化した。
フィルムは、感情が高まると周りに生えている植物が自然と伸び暴走してしまう。
フィルム自身も抑える事が出来ないため、感情を高まらせないよう、口調を単語で話すようにしていた。
言葉を発する事で、感情が高まる。
だから、少しでも感情が高まらないため口調を変える。
これは、ウズルイフが提案した方法だった。
必死に取り繕っている彼女の姿が面白く、ウズルイフはケラケラと笑った。
「はーあ。おもちゃがいなくなって暇だったんだよ。俺様の暇つぶしに付き合ってくれねぇ?」
「監視」
「飽きた」
「…………嫌」
「そんなつれねぇこと言うんじゃねぇよ。んで、今向かっているのって、数あるダンジョンの中でもお前が一番気に入っている所だろ? 俺様も行くぜ」
「来るな」
「行く行く~」
まったく話を聞いていないウズルイフにフィルムは青筋を立て、頭に肘を乗っけてくる彼を睨みつけた。
そんな視線など気にせず、ウズルイフはフィルムを置いて歩き出す。
頭の後ろに手を回し、「行かねぇの?」と問いかけた。
これ以上何言っても時間の無駄だと思い、フィルムは怒りを抑え歩き出した。
「それで、これからそのダンジョンに行くって事は、何か企んでいるのか?」
「関係、ない」
「管理者としての仕事をするのなら、俺様も関係者だぞ? お前を見つけたのは、クロヌ様ではなく、俺様だ。関係ないなんて寂しい事言うなよ?」
――――ゾクッ
ウズルイフは隣を歩くフィルムの肩を掴み、顔を覗かせにやりと笑った。
藍色の瞳は細められ、放たれる視線は冷たく体に悪寒が走る。
少し見つめられただけでも、フィルムの身体はこわばり足が止まってしまった。
「――――クククッ、そんなに怖がるな。さすがに手は出さねぇよ。お前が俺達管理者を裏切るようなことをしなければ――な」
「あーはっはっはっはっ」と笑い声を響かせ、フィルムから離れる。
自然と体が硬直し、自然と息を止めていたため、彼が離れた事でやっと呼吸ができた。
深い息を吐き、汗で張り付いた服を掴み空気を入れ替える。
「…………ウズルイフ」
「あ? なんだ?」
「知里、どうする。アマリア、どうする」
「あぁ、あの二人なぁ~」
問いかけられ、ウズルイフは空を見上げ考えた。
「うーん。カケル解放するためにダンジョン攻略は必須だし。今も、ダンジョン攻略のために色々していたんだよなぁ」
「…………」
顎に手を当て考え込んでいると、何か思いついたのか。八重歯を見せ、にやりと笑いだす。
このような表情を浮かべた時は、大抵ろくでもないことが思いついた時。
今回も、近くにいたフィルムは嫌な予感が走り、無表情のまま顔を真っ青にした。
「そうだ、いい事思いついた! あのダンジョンにいずれは行くことになるだろうし、あのバカ二人を仲間にしているから余計なことに手を伸ばすはず。仲間運が無いあいつに、いいプレゼントを送ってやろうか」
「なに、する」
「確か、今まで世界のルール違反をしてきた冒険者は、一つのダンジョンに封じ込めていたはずだよな? それはフィルムが管理している。その中から一人、貸せ」
「…………意味」
「あいつがどのような反応をするのかを見るだけだ。暇つぶしだよ」
悪魔のような笑顔を浮かべているウズルイフを見て、何か企んでいるのをフィルムは感じ取った。
「なに、企んでる」
「楽しむためだぞ? 何も企んではいないさ。それじゃ、早速行くぞ。おめぇがいねぇと違反者の巣窟に行けねぇんだからよ」
「……………………わかった」
なにか解せないが、フィルムには付いて行くしか道はないと諦め、二人はその場から一瞬のうちに姿を消した。
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