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004 虐殺

 その威容は、まばゆい陽光を浴びて宝石のごとく輝いていた。

 国王自らが総大将を務め、名誉の戦死を遂げた魔法使いマティアスの遺志を継いで王子が加わった勇者パーティを中核戦力とする、王国軍の最精鋭部隊である。


「誇り高き戦士たちよ、勇敢なる戦友たちよ! 思い起こしてみよ、邪悪な魔族によって受けた苦しみの数々を。しかし! 使い古された言葉だが、正義は勝つのだ! その証拠に、我らはここにいる! 魔族との戦いに終止符を打つために! 諸君らのいさおしは、とこしえに語り継がれる新たな伝説と……」


(よくもまあ。ああいう腐れ外道に限って外面だけはいいんだな)


 使い魔が送ってくる魔法の映像と音声――最終決戦を前にした国王の演説は、兵士らの士気は高めているようだが、俺の目には大根役者の大袈裟な芝居にしか見えなかった。


 ともあれ決戦の幕が上がる。


 もはや僅かな数しか残っていないとはいえ、窮鼠は猫を噛む。城を枕に討ち死にの覚悟を固めた魔王軍は、一人でも多くの敵を道連れにせんものと、まさに死に物狂いの抗戦を見せる。俺は複雑な心境でそれを見守っていた。


(もし追放されてなければ、俺もあの中にいたのか。あんな奴らのために命を張っていたなんて後悔しかないぜ……だから過ちは正さないとな。待ってろよ腐れ外道ども。もうすぐだ、もうすぐ俺を敵に回したことを後悔させてやる)


 ━━━━━


「ゆ、勇者殿ぉっ……! ご武運を!」

 全身を串刺しにされ将軍が討ち死に。とはいえ王国軍は既に城門を突破し、魔王がいる玉座の間をめがけ殺到しつつある。まだだ、まだ早い。


「おのれぇぇっ! 人間どもよ、呪われよ!」

 魔王の右腕、魔宰相が呪詛の言葉を吐きつつ事切れる。決着はほぼついた。が、まだだ。


「魔王! 今日がお前の最期だ!」

 ついに勇者が玉座の間に到達。文字どおり最後の決戦だ。


 光の魔力を身にまとい、聖なる剣を振るう勇者。

 しかし魔王も、四天王をも上回る魔界最強の戦士。


 それは神話伝説が現代に甦ったかのような壮烈な死闘であり、世界に天地が生まれて以来、いつ果てるともなく続いてきた光と闇との戦いの終焉を告げる弔いの鐘でもあった……。


 魔王の火炎魔法が、玉座の間の石柱を焦がす。しかし勇者は魔法の障壁でこれを防御。ならばと魔王は分身魔法で勇者を翻弄する。しかしここで勇者パーティのメンバーが合流、形勢が逆転した。

 聖騎士は己の体ごと魔王の分身を刺し貫き、王子は的確に属性魔法を使い分け相手の術を破る。エルフは正確無比の弓矢で、僧正は防御や回復の魔法でこれを援護。徐々に、しかし確実に魔王は追いつめられていった。

 そしてついに、最後の時が訪れる。


「魔王! お前の負けだ! 俺には仲間たちがいる! 守るべきものがある! それがある限り、俺は何度でも立ち上がれるんだ! これが……最後の一撃だぁぁぁぁっ!!」

 勇者の聖剣が、魔王を両断した。


 ━━━━━


「勇者様ばんざーい!」

「王太子殿下ばんざーい!」

「国王陛下ばんざーい!」


 魔王城の中庭。首級を挙げて凱旋した勇者パーティと国王を囲んで、生き残った兵士たちが大歓声をあげている。


 よし、ここだ。


 やつらは二階どころか、天にも昇る心持ちだろう。梯子を外すにはいい頃合いだ。

 俺は必殺技たる雷撃の魔法を唱え始めた。お前らがサポートしなかったから、ほとんど使う機会がなかった魔法だ。とくと味わいな! 最大出力の出血大サービスだぜ!


「な、なんだ? この魔方陣は!?」

「まだ魔王軍の生き残りがいるのか!?」


 魔方陣が完成した瞬間、轟音が鳴り響いた! 着弾地点周辺にいた兵士たちが、文字どおり物理的に吹っ飛ぶ。

 俺は追撃の手を緩めない。次は火炎魔法だ。先ほど魔王が使ったのと同じものだが、あれほどの威力はない。というか必要ない。要は瀕死の兵士たちを絶命させられればいいのだ。


 兵士たちといえば、プロパガンダを真に受けて俺のことを名誉の戦死を遂げた英雄と思ってるお花畑がいるかもしれん。そいつには少々気の毒だし、配下として隷属させたい気持ちはあるが……現実問題として隷属魔法は手間がかかる(正確には知能が高い相手ほど魔法をかけにくい)ので、今はその暇がない。

 なので兵士もろとも全滅させる。大事の前の小事だ、許せ。せめて死体は使い魔のエサにして有効活用してやるからな。


 魔王を討ち取り、有頂天になっていたところへの奇襲である。王国軍は大混乱、応戦どころか身を守ることも、それどころかこちらに気づくことすらままならない。これでは戦闘ではなく、虐殺だ。


 虐殺。そうだ、それでいい。そのために王国軍の消耗を、緊張の糸が切れるのを待っていたのだ。


 これは復讐なんだ。お互いに命と誇りをかけてぶつかり合う、正々堂々の「戦い」であってはならない。猫が獲物をなぶるように、強者が弱者を一方的に蹂躙する「虐殺」でなければならないのだ。


 俺が勇者たちに、弁明すら聞いてもらえず一方的に追放された時のように……!

石柱を「溶かす」ではなく「焦がす」という表現から察しがつくかと思いますが、実は魔王も勇者もそんなに強くないです(少なくとも魔法の一発で大陸を消し飛ばしたりとか、聖剣の一太刀で惑星を両断したりとかはできません)。主人公も故郷を滅ぼした魔王が追いつめられたことに多少は感慨めいたものを感じて、無意識に大げさな表現になったのでしょう、たぶん。

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