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第八話 炎竜

 

『お母様っ! いきなり何をするのですか! この者どもはぐぅっ!?』


「いとも簡単に竜が吹き飛んだ…」


「記録水晶がないのが悔やまれます。」


『その方ら、案外余裕があるのだな?』



 振り返りもせずに、紅き竜は白き竜の頬を尻尾ではりとばす。

 当たる位置の違いか、バシーンという様な軽い音と、ズムッという重い音とが混じり合って聞こえてくる。

 むぐっ、ぎゃうっと口答えをする度に、いわば往復ビンタをかまされ、白き竜はやがて大人しくなった。



『ごめんなひゃい…おひぁふまゆるひれくらひゃい…』



 すっかりしおれた白き竜を二人は見やる。

 そこかしこにやわらかな光が浮き、回復魔法が発動しているのが見て取れる。



(人知を超えた圧倒的な魔力量だな、うらやましい。)



『遠見で見ておった、この者らは盗賊…とでも呼べば良いのか? そやつらから幼子を護ったにすぎん。それをお前は仲間割れと早とちりして襲いかかるなど。わらわが干渉せねばどうなっておったか!』


『でもお母様、その子は結界でも護っていたわけですし..』


『あ゛ぁ?』



 グチグチと責められ、一回りは小さくなった様に見える白き竜。

 何度もはり倒され、傷は癒えつつあるものの土埃で汚れている。



「(すべてをあるべき清らかさに)クリーン。」


『おや。重ねて迷惑をかけてすまぬな。優しきヒトの子よ。』



 竜の足下に描かれた魔方陣が立ちのぼり、すっと消え去る。

 また、身体がだるくなる…もうすぐ枯渇するだろう。

 自らの身体には、侍女が清浄魔法をかけてくれ、返り血が消える。

 だが、先ほど噛み破った口元からは新しい血がにじむ。



『もう限界が訪れているのか?』


「せいぜい子供なみの魔力量しか残ってないのです。一晩眠ればもとに戻るのでお気遣いなく。」


『(懐かしき気配?) ふむ、そんな事は…? まあ詫びはせねばなるまいて。娘よ?』


『ひぁいっ!?』


『粗忽者のお前を赦し、あまつさえ清めてくれた心優しき者だ、強き加護を与えるぞ、良いな? もっとも、異論は認めぬが。』


『ぅ゛ぅ゛ぅ゛… わかりました。』



 ズシンと大地を揺らしながら白き竜が一足飛びにこちらへ寄ってくる。

 紅き竜は正面を譲り、傍らに立つ。



『宝鱗を。ほれ、早くしろ。』


『ぅ゛~ 初めてなのにぃ…』


『何をヒトの生娘くさい事を言っておるか。バカ娘。』


「なんですか、このやりとり。なんかいやな予感がしてムカつくんですが。」


「もう何が何やら…」



 正面に来た白き竜が身を伏せる。



『優しくお願いします…』


「キ゛キ゛キ゛…この駄竜は何を言うかと思えば…『サイレンス』むぐぐっ」


『すまぬがちょっと静かにせい。』


「君たち、だんだん砕けてきてない?」



 ひとりおいて行かれている気がする。



『宝鱗を現わせ。』


『はいぃ…』



 少し鼻先を引き、額を突き出す様に白き竜が身構える。

 その額の中心部から、闇をのぞき込むかの様な深く濃い紅の鱗が、パキパキと音を立て、周りの鱗をかき分けて浮かび上がる。



「これは…?」


『我らが魂の根源、とも言い換えても良いがな。細かい説明は後でしてやろう、さっさと手で触れるが良い。ヒトの力でどうこうできるものではないが、あまり表に出すものではないし、邪魔者がおるのでな。』



 次の瞬間、飛んできた魔力矢から主を突き飛ばしてかばい、侍女は帯剣の鞘に装備していた細身のナイフを投擲して反撃する。

 立ち直った賊が、また少女をさらうべく、無謀にも襲撃をかけてきたのだ。

 警戒に散っていた者も集めて人数も増えており、人が投げるもので制圧できる距離でもない。

 次々と飛んでくる魔力矢をショートソード二刀で破壊しながら、このままではじり貧となると焦燥が増す。



『愚か者が。』



 目の前が薄暗くなる。



『わらわの前でそんな狼藉がはたらけるものかよ。』



 我が身を護ってくれたのは、紅き飛翼。

 紅玉の瞳からは金色の魔力が放出される。

 魔法としての形をなすまでもなく、いわば気合いや威圧ともとれる御業。

 それだけで賊は意識を刈り取られる。



「大丈夫ですか!? あ、話せます。」


『とうに解除しておるわい。さて。』



 紅き竜に告げられて振り向くと、突き飛ばした先で白き竜の頭を抱きかかえた我が主。

 そして、蕩けた瞳の白き竜。

 よく見れば主は宝鱗へと口づけている。



『ふむ? これはもしや…娘よ、さっさと宝鱗をしまえ。しまえと言うに。』



 いやいやと言う様に、ばさっと翼で頭と青年を包みこみ、もじもじと身悶える白き竜。



「竜が内股で悶えている…? 炎竜様、これは…? いやな予感と脂汗がとまらないのですが。」


『どうやら婚いでしまったとみえる。加護を与えるどころか経路を開きつないでしまうとはな。いやはや。』


「それはつまり…?」


『ヒトで言えば結婚という事になろうか。』


「それは私の役目(妄想)なのに…」


『それはすまなんだ。』



 崩れ落ちた彼女を見ながらうれしそうに、だが厳かに紅き竜はそう告げた。

 ちらりと、流し目で青年を抱きしめたままの娘を見やる。



『やれやれ…今宵は酒が美味そうじゃ。』



 今度は目を細め、思念で配下に連絡を行う。

 同時に、不思議な動きをはじめた。

 何やら、宙に指を躍らせている。






さあ、ここからタイトル回収へと動き始めます~

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