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第七話 迫り来る絶望

プロローグはここの前段です。


 その炎は、今はまだその力が魔力球の中に封じられ、内部で回転しているだけにすぎない。

 その魔力球がわずかながら、収束をはじめた。内部で圧縮された炎と熱が、お互いに干渉し、さらなる温度の上昇を促している。



"まずい、吹き飛ばすものではなく、圧縮して解放爆散し消滅させるタイプのブレスなのか!?"



 ブレスにも種類がある事を今更知った。

 知ったところでどうなるものではないし、過去においても知った者はすでに神の御許のはずだ。



"土魔法でも使えれば、このスキにこの子だけでも土中深くに匿えたかもしれないものを!"



 生活魔法程度のものしか使えない、おのが魔法の才能のなさに唇を噛んだ。

 斬り込む時に信号魔弾は上げているが、この途方もないエネルギーでは巻き込まれて消えてしまう。その信号の色とて、最悪の事態を知らせる色と組み合わせだ、駆けつけてくれる者がいるかも怪しい。



「お供しますよ。」



 それでも。駆けつける者がいた。声とともに、ほんの少しではあるが圧が減る。その声の主もまた、障壁を展開したのだ。

 ふわっと、かぎ慣れた香りが鼻孔をくすぐり、ついでさらりと頬を髪がくすぐる。



「バカな…なぜこっちの領に。」


「お姉ちゃんはずっと一緒にいますからね。」



 ポンポンと、場にそぐわない調子で背中に回された小さな手が踊る。


「バカだな。」


「ふふ。姉は弟を護るものなのです。あの日拾ってもらった命、終い果てるときは大切なあなたとともに。」



 こんな終わりに巻き込んでしまった、そんなつもりではなかった。彼女には、ただ穏やかに生きてもらいたかったのに。

 おのが運命を憎悪した。18年生きてきて、これほどまでに自らの力のなさに憎しみが高まった事などない。

 二人を生き延びさせたい、自らへの憎悪の中でただひたすらにそう願った。






 ◇




『 あわてるでない。』



 ゆったりとやわらかく、深い艶のある声が響く。

 いつの間にか、周囲に響いていたキインという高周波音も消えている。

 何が変わったという訳でもない。ただ身体にまとわりつく、おかしな感触のものはある。



「なんだ、温水の中にいる様なおかしな感覚は…いや、圧が減ってる?」


「楽になりましたね、もう死んだのかしら?」



 時間の感覚などとうにおかしくなっている。

 おそるおそると背後をうかがってみると、竜の顎の中では炎が勢いをなくしている。その先には驚愕に見開かれた瞳が見えた。



 ぽふんっ。


 間の抜けた音とともにブレスが消える。

 畏怖されるべき存在と、矮小であるべき存在が、理解できないとばかりに互いを見やる。

 先に立ち直ったのは竜。それならばと言わんばかりに、あらためて竜の顎に魔力が収束する。先ほどとは違い、炎はらせんを描き、まっすぐこちらへと向けられる。



"今度は吹き飛ばすタイプか。"



 見つめる先で、今度はしゅぽんっと音を立ててブレスが消えた。



『なら物理で弾き飛ばしてあげるわ!』



 似てはいるものの、先ほどより高い声、最初の声が響き、竜がくるりと身体をひねった。先端近くでも、人の太ももほどはあるムチがしなり襲いくる。



『やめんか、馬鹿者が。』



 パーンと音を立てて、竜の尻尾が跳ね上げられる。

 まわる勢いはそのままに、力のベクトルを変えられ、竜が背中からもんどり打って倒れた。そのまま二度三度と地響きと土埃を立て回転し、やっと動きが止まる。



「「…すごいものを見た…」」


『すまなんだな、ヒトの子よ。』



 二度ほど羽ばたいて、高さを調整した後、地響きを立てて、もう一体の竜が降り立つ。

 その身体にまとう色は。



「緋色の鱗…」


「火竜の王…炎竜が人の前に姿を現すなど。」



 また一体、絶望の象徴が二人の眼前に現れた。






短いですが、今日はもう一話更新します。

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