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第六話 戦闘

 馬車の周りには血だまりが出来ている。

 だが、重傷者はいるものの死んだ者はいなかった。

 賊はご丁寧にも負傷にとどめ、その上麻痺と睡眠の魔法をかけ、追跡を難しいものにしたらしい。

 息がある者がいれば、その介抱のために捜索隊は人数を割かれる事になるのも狙っているのだろう。

 キャビンの中に従妹の姿はなく、彼はぐるりと周りを確認した。



「…これか。森の奥へ入って逃げる気か。無謀な事を」



 サーチは使えずとも、冒険者としての経験から逃走経路を割り出すのは造作もない。

 大人数の足跡で場は乱れているが、折れた樹木の枝や踏まれた下生えなど、ヒントは多い。

 魔獣や野の獣を追う方が難しいくらいだ。

 どちらにせよ、馬ではここまで。

 後から来るであろう捜索隊へと印を残すと、携行丸をいくつか飲み込み、水を少し飲んだ。

 音がしない様に装備を点検した後、彼は痕跡をたどり、森へと分け入っていった。






 ◇




「…見つけた。」



 そう口の中でつぶやき、殺気は押し込めたまま、静かに深く長く息を吸い、しばし息を止める。今度はゆっくりと吐き、同様に止める。

 何度も同じ様に呼吸を繰り返し、身体に酸素を取り込む。

 それは少しでも長く動き続けるため。


 幸いにも、従妹は少し離れた場所で縛られて眠らされている。

 ゆっくりと迂回して、従妹の背後の茂みへ回り込む。

 魔獣討伐と同じ要領だ。

 見張りは一人、うかつにもこちらへ背中を向けている。



(一呼吸では二人…そこから先は成り行きか。)



 音を立てない様、剣をゆっくりと抜いた。

 左手に持ち替えた。

 両手とも投擲はできる様に訓練はしているが、今回は万が一にも外す事がない様に利き手を使う。

 鞘に装備してある片刃で細身の投げナイフを一本口にくわえると、腰の後ろへ手を回す。

  スナップを外し取り出したのは、広げた手のひらよりやや大きい、複雑に枝分かれした刃を持った物。

 禍々しい形状のそれは、当たれば刺さるか肉体を切り裂く事になる。

 運悪く柄が当たったとしても、その重量による衝撃でダメージを与えることができる。



(殺す。)



 そう定めた後は早かった。

 信号魔弾を前方上方へ打ち上げ、皆の視線がそちらへ向いた隙に、中央の頭目らしき男に凶悪なナイフを投擲する。

 柔らかく、それでいて威力が乗る様に。



「まず一人。」



 それなりに腕の立つ頭目も、侯爵家影の頭領に鍛えられ、気配を消す術を持った男にかかってはひとたまりもない。

 放たれたナイフは肩甲骨の間に突き刺さった。革鎧のせいで刺さり方は浅いが、その重量と勢いで昏倒させることはできた。

 次いで走り出しながら口にくわえていた細身のナイフを投擲し、それは過たず見張りの延髄を貫く。



「二人。」



 人を殺す事は初めてではない。

 領主一族としても、冒険者としても、同じ様に盗賊討伐に関わった事はある。

 殺すと定めたら迷うな、容赦はするな、迷いは身体を硬直させ、隙と死を呼び込む。

 それは二人の師の教え。



「三人。」



 頭目へと一気に駆け寄りながら、一人を斬って仕留める。

 足は止めない、動き続ける。

 駆け込む勢いそのままに、頭目の頸部へ踵を落とし、骨を折る。

 集団の頭を潰すのは鉄則だ。



「四人。」



 右横から襲いかかってきた賊を、膝を抜き身を沈めながら躱し、返す剣で喉を裂く。



「五人。」



 逃げだそうとした賊へ、立ち上がりざまに頭目から引き抜いたナイフを投げつける。

 たまたま掲げた剣で防御したものの、ぶつかった剣を支点にしてナイフの軌道が変化するとは賊も思わなかった。

 みぞおちを狙って放たれたナイフは、やや上の胸元に当たり、それでも止まらない回転は、大きく喉元にかけて肉を切り裂いた。



「ひっひっヒィィィィィィ! お頭がぁ! なんだてめぇはぁ がっ!?」


「六人…」



 従妹をかばう様に戻りながらもう一人首を横薙ぎに斬る。

 名は名乗らない。

 逃したら、後が面倒だからだ。

 まだ5人の野盗が残っている。

 賊が緊張し逡巡している間を突き、また深くゆっくりと息を吐き、肺の反射作用を利用し、素早く酸素を取り入れる。

 斬り込むには距離があり、投擲武器は使ってしまった。



(さてどうするか…やはり来たか。)



 何人かの賊が、火魔法と矢魔法の詠唱を始めた。

 間合いを計りつつ思考する。



(二つまでは斬り落とせるとして、背後に人質を抱えては。守りの一手か。)



 ファイヤーアローとマジックアローがこちらへ向かってきた。

 ほんのわずかな時間差を捉え、袈裟斬りと横薙ぎで迎撃する。



「ちっ ファイヤーボールか。」



 舌打ちをしたのは、タイミングをずらして放たれた三の矢、腕が伸びきった体勢からは切り返しが間に合わない。

 飛んできた火球を、付与が施されている外套を信じ、背中で防ぐ。



「いつまで耐えられるかなぁ? ひゃはははは!」



 多勢に無勢。

 手慣れた戦法に勝利を確信した賊が、ひげ面から唾を飛ばしながら勝ち誇って叫ぶ。

 その時、空が暗くなった。

 耳をつんざき、身の毛もよだつ咆吼の後、威厳に満ちた声が降ってきた。



『虫けらよ。この地へ足を踏み入れた以上。死は覚悟できているのであろうな?』



 声の感じでは、若い女。

 だがこの羽ばたきの音。

 見上げた先には。



「…竜……」


「どどどどドラゴンだぁ! にに逃げろ! はひぁ!」



 賊は散り散りに逃げ出した。

 何人かの股間が濡れ、点々と逃走経路を示している。


 だが、こちらは眠ったままの従妹を放り出すわけにもいかず、彼は外套の中で彼女をぎゅっと抱きしめた。






本日二話目の更新です。

戦闘については、他にいい表現が思いつけば改稿するかも。

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