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第四十九話 言祝ぎ

 



「義姉上、色々とありがとうございました...でも、本当に良かったのでしょうか? 私などが、その...」



 王都の領主タウンハウスのサロンにて、一族の主立った者が揃っている。

 王家よりクリステイアの降嫁について、内々に申し込みがあり、全員がフレアの助力で王都へ転移し、諸々を詰めた後にとりあえずここへもどってきた。

 宮廷にはクマが大きくなったギュンター王と、やつれた宰相がおり、さすがに気の毒になったラッセルが大量に薬を置いてきた。


 " よろしいですか? くれぐれも過度な使用はお控えください "


 そんな言葉に、気苦労をかけているのはお前の一族ではないかと愚痴をこぼしたくなったが、フレアの手前そうもいかず、ため息と共に用件を切り出し、辺境伯側もそれに応じた。

 数代前にも王女の降嫁を受けた家である、いわば当代は縁戚とも言えるが、血が濃いわけでもないのでその辺りは問題ない。

 クリステイアの侍女達も、希望者は辺境伯領へ移住しても良いとの条件で人選を進めているが、これが案外希望者が多い。

 しかも圧倒的に護衛の家系を持つ侍女達と言う事から、武家同士のつながりを得たいのかと思えば、フレアによると悪意は持たずに純粋に王女と共に移り住みたい者ばかりなのだそうだ。

 ここはクリステイアの人徳と、フラム家が今までつちかってきた実績と評判が一役買っている。

 そしてフレアが呆れた様に口を開いた。



『フェルド? 良いに決まっているでしょう? あなたたちはわたくしとだんなさまの様に、運命をたぐり寄せたのよ。何も恥じる事はないわ。』



 フレアがラッセルの腕をそっと取ると、ラッセルは優しく微笑み返し、空いた手でバイオレットの肩を抱く。

 バイオレットのしっぽは一度ぴんっと立った後、くるりとラッセルの腰に沿ってまわされた。



「そうさ、誰もが運命の相手を持つが、必ず巡り合えるとは限らん。だが、今はわかる。始祖から連綿と続く加護のおかげで、我らの家は失敗する事がなかったのだと。」



 フレアの言葉に義父バーンが重々しくうなずき、壁のフレイアの肖像とラッセル、フレアとを順に見やって言葉をかけた。

 思えば二家は直系の男子が相続を続け、一度も途絶える事がなかった。

 それが千年の永きに渡り、王朝は変わろうとも家は続いているとなれば、何者かの意思が働いていると思った方がむしろしっくりとくる。

 そして何者であれ、自らと妻を娶せてくれた事に心から感謝した。



「だがのぅバーンよ...またやっかみが酷くなるぞ。」


「父上、それは今更ですよ。そうだろう?バーン?」


「ヴェルク? ああ、そうだな。」



 辺境伯は沈んだ声で訴えるが、子供達世代はもう少し気楽だ、自信の表れでもある。

 次期辺境伯であるヴェルクは王都にいることも多い、そのため他家とのやりとりにも慣れている。

 今までもあれこれとやっかみや嫌がらせに対処してきたのだ、ちょっとやそっとではゆるぐはずもない。

 あと10年もすれば息子ヴォルクに王都を任せ、自らは父の後を継ぎ辺境伯領へ戻るつもりでいる。

 その頃は息子もまた運命に導かれて妻を得ていよう、孫の顔を見ることが出来れば万々歳だ。



「はぁ...しかも転移で移動させてもらえるからと王宮内にフェルド専用の隠し部屋まで作るとは、こっちも同様に客室を置いておかねばならぬではないか。」



 それでも辺境伯はしつこく愚痴をこぼす。

 その諦めの悪さに男衆は少々あきれはじめ、バイオレットの目つきがきつくなっている。

 そしてフレアのこめかみは少々ひくつきはじめた。



『それに関しましては、おじいさま。』


「なんですかな。」


『クリスのお部屋は火竜城に用意します。警護もその方が万全です。 フェルドと会うときも基本的には火竜の里で。』


「........はぁ...よろしく頼む。 もうわしは疲れた。」



 いらつきながら、いささか語気荒く告げたフレアの言葉でやっとブレイズが白旗を揚げ、いつの間にか席を外していたバイオレットがお茶と菓子を持って部屋に入ってくる。

 成人済みメンバーの紅茶にはブランデーを入れ、気がやわらかくなる様に。

 パウンドケーキはラムレーズンとクルミ、これもまた疲労回復に合わせた組み合わせ。

 一番感性がまともなヴェルクは、バイオレットが予知能力でも持っているのではないかと疑いつつパウンドケーキを口にした。



 翌日、宮廷のプライベートゾーンにおいて、あらためて顔合わせが行われる。

 騎士服に近い盛装でフェルドが待っていると、クリステイアはやや控えめなシンプルなドレスで現れた。

 エスコートは第二王子ギュスターヴが務め、心配なのか伏せ気味の彼女の顔色は少々青白い。

 家同士ではすでに確定済みの話ではあるのだが、彼女としては王家からの申し込みと言うこともあり、フラム家は渋々従ったのではないかとの懸念がいまだに払拭できていない、そこに愛はあるのかと。

 もちろん杞憂なのだが、いざとなると思考がまとまらず不安だけが先に立つ。

 それでも意を決して恐る恐る顔を上げると、そこにはやわらかく微笑んだフェルドが立っていた。



「...ぁ」



「その様な顔をしなくとも、自分はどこにも逃げませんよ? クリス...いえ、ティア殿下?」



 泳ぐ瞳をじっと見つめながら、おだやかにフェルドが口を開き、彼女の前に静かに膝をつく。

 差し出された手を、淑女としてははしたないとは思いながらも、彼女はその小さな両手のひらで挟み込む様に迎え取った。



「... はい...はい......どうか幾久しく...」



 愛しさと豊穣祭での思い出がその脳裏に駆け巡り、両の瞳からは涙がとめどなく流れ、フェルドに優しく拭い取られてもなお、しばらくの間とまることはなかった。

 平地でも初雪が降ったこの日、内諾ではあるが二人の婚約が整った。












ちょっと短めです。

年末年末...

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