第三十二話 それぞれの竜
Family is forever.
火竜城の最上階。
やや広い部屋の中央に大きな遠見水晶が4つある。
火竜女王は一人がけのソファに身を投げ出し、その一つを見つめている。
その脳裏へと、声がかかる。
『それで姉上? 先代火竜王の想いをつけ継ぐヒトとやらが、火竜公女の良人となると? 』
『そうじゃ、氷竜よ。兄上が生涯をかけて追い求めた想いの行く末。その叡智も継承しておる。』
竜同士での会話は念話でできる。
姿は見えないので、遠見水晶の助けを借りての会話。
その向こうには、どこかフレアを思わせる髪色の青年。
だが、フレアの髪が先端へ向かうにつれて濃くなるのに対し、彼は紫がかった青から白へと変化する。
青年とは言ったが、それはそう見えるだけであり、実際には数千年を生きる者。
『私はかまいませんが、他のお三方は?』
火竜女王はやれやれと言った顔を見せた。
『好きにしろという感じじゃな。と言うよりも、フレアたちを実験体として見ている節がある。』
『上手くいったら、自分たちもと?』
『何事にも無関心な土のじーさんはともかくとして、風と水には、その思惑があるであろう。でなければ反対か嫌みの一つも言ってきたはず。』
『姉上も、現在進行形で嫌みを言ってるではありませんか。同族嫌悪は『あ゛ぁ?』…』
氷竜と呼ばれた竜は冷や汗をかいた。
そう、古今東西、弟とは姉に逆らえないものなのだ。
回復魔法を取得しているだけマシではあるものの、フレア同様往復しっぽビンタを食らった事は数知れない。
まだフレアが知らないスペシャルフィニッシュホールドも食らった事があるのだ。
『まあ、彼奴らが手を出すとしても、結果が出るのはまた千年の長きに渡りし後。その頃にはフレアの子等…可愛い盛りであろうのぅ。』
満面の笑みとニタニタ笑いとを行ったり来たりしながら、もう孫バカの片鱗を見せている姉に、氷竜はまなざしを柔らかくする。
姉が子供好きである事を、彼はよく知っているのだ。
バーミリオンを助けたのも、不埒者をシメるという目的もあったにせよ、幼子を拐かすとは何事か!と言う意識が大きかった。
『楽しみですね、姉上。 何か準備しておきましょう。大事な義甥っ子にもね。』
『その事で、義息子については頼みがある。』
そして二人は何やら相談をはじめた。
しばらくの後、遠見水晶の向こうで氷竜は大きく、そしてやりがいに満ちた顔でうなずいた。
手まで打ちつけて、歓喜している事がよくわかる。
『それはいい。姉上、最高のものにしますよ。そしてこの件、我が力を頼っていただき、ありがとうございます。』
『なに、我らが大好きだった兄上の遺産のためじゃ。迷う事も遠慮も必要ないであろう?』
氷竜は炎竜の言葉に、変人(竜)ではあったが、この世界を、あまねく生き物を愛した兄に思いをはせた。
◇
「お披露目…ですか?」
『うむ。ヒトの間でも婚約式というものがあろう? まぁそんなものだと思えば良い。まだ先の事ではあるがな。』
「はぁ…」
『神代から続く竜の歴史の中で、初めての事だ、次第も何もあったものではない。』
戸惑うラッセルを尻目に、フレアは小さくガッツポーズを決めた。
バイオレットは焼き菓子を作るため、この場を離れている。
パティシエールの鬼人族女性が弟子入りを志願したほどであり、すでにフレアも火竜女王も、彼女の作るお菓子に虜となっている。
『氷竜は別にどうでも良いが、他の三種族には知らしめねばならん。』
『氷竜さま、かわいそうに…』
「義母上、氷竜様とは?」
『ただのバカじゃ。』
お母様!と叫ぶフレアを尻目に、火竜女王は続ける。
『我らが一族、火竜とは熱を操る権能を持つが、兄上とわらわたちは上げる力と消す力を持つ。故に全てを焼き尽くす事も消す事も意のままにできる。』
これはうなずける。
実際に目にしているし、名は体を表す、そのものだ。
『逆に氷竜は下げる力を持つ。故に万物を凍らせる事ができる。あやつの役目は北の地において、世界の氷の量を調整することよ。』
「世界の氷の量…?」
『それはまだ知らずとも良い。話しを戻すが、熱を操ると言う点で、炎竜と氷竜は同じ一族という事になる。』
「そこは理解しましたが…」
『だが、他の四大竜。土竜・風竜・水竜は別の一族。それぞれに違う権能を持ち、この世界の調和を保っておる。別に我ら火竜と険悪と言うわけでもないが、次代を担う者として、いずれ面通しはしなければならん。』
口元を隠し、しばし考え込むが、もとより拒否権などない話し。
それよりも。
「フレアはいいのか『もちろんですとも!』い?」
はりきって被せてきた。
ふんすふんすと鼻を膨らませながらフレアは続ける。
胸元に拳を寄せているが、あいにく一緒に寄せられるものは少ない。
『わたくしの幸せを見せつけてやるのです!!』
『フレア…そなた、性格変わったのう。』
母の台詞に、フレアは顔を赤くし、てへへ…と、ラッセルの肩にのの字を書いていた。
ハッ!? (しっぽ&耳ぴーん)
どうしました? バイオレット様。(怪訝な顔の鬼人)
抜け駆けされている気配がする! (耳ぴこぴこ)
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