表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/52

第二十七話 愚か者

Ignorance is bliss. (Thomas Gray)

 

 脂肪で潰れた声が響いた。



「それでは!これからはこの力を持って周辺国へにらみをきかせられるということですな!いやはや大陸の統一さえも夢ではない!」



 太鼓持ちの声に、雰囲気は二つに分かれた。

 何をバカな事を言い出したのだと思う者。

 確かにそうだと思う者。

 だが圧倒的に多いのは前者だ。

 特に武門の家は竜が力の強大さを知っている。

 ゆえにその力が人間ごときにどうこうできるものではない事などわかりきった事なのだ。

 先ほどの言葉を肯定する者は、愁嘆場に出た事もない、腐りかけた法務貴族に多かった。

 ラッセルは横に来た父と目線で会話した。



「クーズ伯爵よ…」



 父が口を開く前に、怒気を孕ませて低い声がかかった。

 王弟だ。



「貴様、この国を滅ぼす気か?」


「何をおっしゃりますか! 私はこの国をおも「黙れ! 不忠義者!」 ヒッ!?」



 王弟は続ける。



「よいか? 皆もよく聞け? 竜とはこの世界の調停者。基本的には人間の世界に関わって来る事はない。だが、太古の昔より、分を超えた侵略国家や非道な行いを行った者には、神の代行者として鉄槌を下してきたのだ。貴様の浅慮な発言は、この国の行き先を昏いものにするやもしれんのだぞ!」


「そこまでだ。」


「兄う…陛下。」


「先ほど、ラッセル殿も、フレア様もおっしゃられた様に、われらが真っ当に生きておれば、なんら問題はないのだ。」



 その言葉に国の中枢部にいる者は大きく安堵し、またうなずいた。



「そしてラッセル殿はカーマイン侯爵家を継がぬと聞く、先ほどの言葉も真実であろう。ならば自由に暮らしてもらえばそれでよいではないか。宰相?」


「は。ラッセル殿、これを。」



 侍従から何かを受け取り、宰相がラッセルに歩み寄る。



「これは、通行証でございますか?」


「その通り、竜をこの国の法でしばる事などできませぬ。ですがラッセル殿はこの国の民で、貴族籍もある。故にこの国の中と出入りでは不自由を感じませぬ様、王家の名において通行証を出させていただき申した。受け取っていただけますかな?」



 先ほどから、国王も宰相も若輩者に敬称をつけて呼んでくれている。

 ならばその気持ちには応えねばなるまい。



「ありがたく、頂戴いたします。」



 両の手で推し戴き、深く頭を下げた。

 後ろに控えるバイオレットへ預ける。

 そのバイオレットは、これって魔法銀じゃないですか!? と驚愕していた。



『さて、ギュンター陛下?』


「なんであろうか? フレア様。」



 フレアは、いたずらな微笑みを浮かべた。

 先ほどの様に、バカな貴族が出ない様に釘を刺すためである。



『我ら火竜の力。その一端をご覧に入れましょう。最後にこの王都に現れたのは千年より前のはず。もはや伝承も廃れておりましょう。記録水晶はすでにお使いの様ですから、そのまま後世にお伝えくださいませ。』



 国王は冷や汗が止まらなくなった。



『筆頭宮廷魔法師の方はこれに。』



 恐る恐る、壮年の男が出てきた。

 先ほどの転移と錯視魔法を見せられて、もう気絶せんばかりである。



『貴方の他に、もっとも魔力の流れを見る事に長けた魔法師を呼んでいただけますか。』


「かしこまりました。」


『あとは近衛の方、ここから見える噴水前に、鎧を立ててもらえるでしょうか。高いものはダメですよ? もったいないですから。』



 やがて準備が整った。

 その間に、各自飲み物を取り、少し楽にしている。

 淑女たちは憧れと嫉妬のまなざしで、紳士たちは熱と劣情をはらんだまなざしでフレアを見つめている。



『鎧はもう少し前に。はい、離れてくださいまし。 残る宮廷魔法師の方は、わたくしが合図をしましたら。あの鎧の周りに、全力で障壁をはっていただけますか?』



 その様にした。



『では、お二人は、魔力の流れをよく見てください。』



 フレアが人差し指を立てる。

 本人的にはほんの軽く、指先に魔力を集中させると、光球が現れた。

 だがそれは、近くで目をこらして、やっと視認できるほど小さなもの。


『この魔力球は、あなた方から見て、どのくらいの魔力だと思われますか?』



 二人はじっと観察して、小声で意見を交わすと。



「1にも満たないと思われます。」


『見た目ではそうでしょうね。さて、ではこれをあの鎧の上へ移動させます。見てきていただけますか。』



 すいっとフレアが指を動かすと、すーっと魔力球が飛んでいった。

 追いついた魔法師に。



『変化はありませんか?』


「はい。問題ございません。」


『ではあなた方も下がってください。魔力の流れを集中して追ってくださいませ。』



 魔法師はその言葉に従い、距離を取る。



『では、他の皆様は全力で障壁をはってくださいませ。』



 10数名の魔法師たちが、魔力を振り絞る。

 すでに筆頭魔法師から、後の事は考えるなと言われているので、枯渇など気にしないで全力だ。

 フレアはうなずくと。



『では行きます…リリース!』






精神的ざまぁのはじまり。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ