第二十二話 謀
「だが、これからは忙しいどころの話しではなくなるぞ。なにせ竜を妻にするという事は、言うまでも無くこの国どころか世界の最高戦力を得るも同義。まずは王都へ出向き、陛下へ謁見を願い出なければならん。」
「バーン。その事だが、すでに宰相から至急フレア様においでくださる様にと緊急通信にて連絡がきておる。くれぐれもそそうがない様にお願いしたいとの注釈までつけてな。宰相の慌てふためく声などはじめて聞いたわ。逆にこちらからフレア様に対して余計な策謀はするなと釘を刺しておいた。」
「王都貴族はプライドだけは一人前だからな。ああ、強い酒をくれ、飲まねばやっておられん。」
「そもそも我が息子ラッセルに嫁いでいただくのだ、なぜフレア様を名指しするのか、あの宰相は。」
「ああ、それも言ったが、馬の耳に呪文だったぞ。」
愚痴をこぼしつつ、真っ昼間から蒸留酒をあおって話し合う辺境伯家と侯爵家の三人。暗い顔の三人を尻目に、窓から見える庭園では、バーミリオンがフレアを案内し、日傘を持ったバイオレットが付き従っている。
キンッと甲高い音が聞こえた。
音がした方へ振り向いた三人の眼前で、宙に光の言葉が走る。
ラッセルの父バーンにとっては初めての事だ。
<我が娘、火竜公女フレアは、カーマイン侯爵家が長子ラッセル殿以外には嫁がせぬ。その意を破ろうとする者。魂まで炎獄の炎に焼かれると知れ。>
読めるだけの時間をたっぷりと与えたあと、光は霧消する。
次いで、もう一文が浮かび上がる。
<先ほどの文を、王とやらの前にも出しておいた。今頃腰を抜かしているやもしれぬな。王都へはわらわが転移させてやろう。>
「まったく人が悪い...だが、いい手だ。転移ならば彼奴らの予想以上の早さで参上できよう。策謀など企てる間も与えず速攻戦と行こう。義父上。」
「よかろう。我らが両家の本気、見せてやろうぞ。」
辺境伯が目の前にグラスを掲げる。
息子たち二人も同様に掲げ、合図と共に飲み干した。
◇
翌日早朝。
王都にいる全ての貴族当主登城の布令が出され、すわ戦かと、王都は大混乱に陥った。
愚痴る中間管理職。
元々閑話の予定でしたので短め。
今日はもう一話投稿します。