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第十六話 竜の城 - 明くる朝 -

 翌朝。

 プンスカと頬を膨らませていた火竜公女(フレア)が、ラッセルの朝食室への入室とともに機嫌を直す。



『おはようございます。だんなさまっ!』


「その、なんだ、旦那様と言うのは…まだ結婚もしていないわけで。」


『だんなさまはだんなさまですのでっ!』



 押し切られた。

 隣のバイオレットはジト眼で主を見、ため息をついた上で向き直った。



「朝からテンション高いですね。フレア様。」



 心中では「駄竜」と変換されている。

 その気配を敏感に察知したのか。



『名前で呼んでくれたのはありがとう? でもケンカ売ってる? 売ってる? 買うよ? 高値で。』


「ご冗談を。トカゲならまだしも。猫が竜に勝てるわけがございませんでしょう?」



 身を乗り出してくるフレアに、すました顔でバイオレットが返している。

 そんなバイオレットに、フレアはズビし!とばかりに指を突きつけた。


『やっぱりケンカ売ってるー!』


『やめぬか、朝っぱらから。』



 いつの間にか魔力によるバインドを口にかけられ、ふたりが火竜女王を見やる。



『「むぐー!」』



 この二人案外仲が良いのではないか?

 苦笑しながら、バーミリオンをメイドに渡し、席に座らせたのを見届けてから、ラッセルは自分も席に着いた。



「この様な、人が食べる食物だけで竜は身体が維持できるのですか?」


『それについてはな。』



 フォークを回しながら火竜女王が答える。

 行儀が悪い。



『端的に言えば無理じゃ。』


「すると?」


『我らにとって、この様な食事とは嗜好品にすぎぬ。いくら全てをエネルギーに変えられ、ほぼ排泄の必要がない効率を持つ身とは言え、こんなちっぽけなものでは足りるわけがない。故に力はこの世界に満ちる魔力でまかなう。逆に言えば世界から魔力がなくなる時が、我らが滅ぶ時。実際、ヒトにはわからぬレベルで魔力は減っておる。世界の調停者たる我らがおらぬ世。それは我らが不要となる事なのか、この世界の終わりとなるのかはわからぬがな。』


「想像もつきませんね…」


『だがこうやって食事につきあう事はできる。我が娘フレアにも食事の楽しみを教えてやってくれ。』


「はい。バイオレットは料理の腕もマスター級です。ご期待に添えるかと。」


『それは重畳。フレアでは全て焦げた物体にしかならぬ。くっくっ』



 ふふん、としたドヤ顔で返すバイオレット。

 フレアは頬を膨らませていた。

 その手がちょんちょんとつつかれる。



「フレアお姉様? 一緒にお料理お勉強しよ?」


『あーもうミリィったら可愛い!』



 いつの間にか愛称呼びをされている従妹に頬をすりつけているフレアを見やり、まぁこっちも焼くか煮るだけしか知らないしな。

 と、冒険者な考えをしながら、火竜女王へと向き直る。



「昨日の炎の色についてなのですが?うかがっても?」


『そうであったな、忘れておったわ。』



 出された珈琲を一口飲む。

 どうやら彼女はストレート(ブラック)派らしい。



『炎色…と言う言葉を聞いた事があるか?』


「いえ、寡聞にして。申し訳ございません。」


『よい。とはいえドワーフや鍛冶屋辺りなら知っている事ではあるのだがな。』


「と言うと。」


『お主たちでは、炎とは焚き火や魔法で見るだけのものであろう?』



 こくりとうなずく。



『炎とは、温度が高ければ高いほど、わらわの様な色から蒼いものに変わる。すなわち、炎の力に限って言えば、フレアの炎はわらわより熱く、力強い。』


「次代にはふさわしいと?」



 目を伏せ、ふるふると火竜女王が首を振る。



『残念ながら、こやつはまだ未熟者。ブレスを放てば焼け野原どころか、そこら一面が煮え立つ事となる。ぶん殴って止めたのもそれゆえよ。』


「なにか、てへっとか言いたそうな顔をしてますが…フレア様?」


『ごごごごめんなさいだんなさま。あと…様は外してくだしゃいませ…おねがいしましゅ』


『まあ、そなたのためであれば、修行にも身が入ろう。抱いてやらぬぞとでも言えば必死になろうて。』


「だっ!?」


『お母様っ!!』


『ふたりそろって真っ赤になるとは、愛いのぅ』


「下品ですよ、皆様方。バーミリオンお嬢様の教育に悪いです。」


「ハグしてもらえないのがそんなにいやなのですか? フレアお姉様?」


「言わんこっちゃない…」


『ままままあ良いではないか、うん。さて、ラッセルに渡さねばならぬものがある故、サロンで待っておれ。ああ、バーミリオンは誰かメイドと庭園でも散歩しておいで。』


「逃げましたね……」






 ◇




 岩山をえぐって作られたこの城の、さらに岩盤をくりぬいた先にある宝物庫。

 最も堅固で厳重な場所である。

 それは手に取った、この宝箱を護るために作られた。

 感慨深げに箱の中身を見ながらつぶやく。



『兄上…これも想定しておられたのか? 一千年を超え永きに渡る願いの成就…果たして成るか否や。』



 この箱だけは自ら持ち、いくつかの宝物を選んだ後、それらは執事に持たせ、火竜女王は宝物庫を後にした。






ラッセル君は流され体質です。

フレアと出会わなければ、間違いなくバイオレットに押し切られていたでしょう。

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