第十話 鬼人族
閑話的なお話。短めです。
『まずは湯浴みでもすると良い。部屋へ案内させよう。挨拶はその後でかまわぬ。』
「お気遣い、感謝いたします。」
『ふむ。なんのかんの言ってもどうやら上級貴族の様であるな、その礼にも隙がないわ。侍女もな。』
ホールへ入ると、デコピンをする様に空をはじく。
魔力が放たれ、振動となって伝わっていく。
執事姿の鬼人が1人。メイドの鬼人が3人現れた。
『客室へ案内してやれ。眠っている少女はこやつの侍女と一緒の部屋で。鎮静用のハーブを忘れるなよ。侍女の意見も聞いて決めるが良い。』
「かしこまりました。では皆様方、こちらへどうぞ。」
少し前を歩く執事の足下をじっと観察する。
(マスタークラスか…隙がないな。)
「こちらでございます。私に何か粗相でもございましたでしょうか?」
つと、下げていた目線を上げる。
破顔一笑。
「いや、すまない。見事な足運びだったので、つい観察してしまった。」
「とんでもございません。あなた様こそ体幹がたわまない見事な歩法。敬服つかまつりました。」
「ありがとう。部屋の説明をお願いできるかな。」
「かしこまりました。侍女の方はこちらへ、浴室が広めの部屋をご用意してございます。お嬢様とご一緒に入られてください。」
「ですが私は「今日はお客様として振る舞うんだ、いいね?」」
主から強く言われては致し方ない。
しぶしぶとメイドに従って、室内へと入っていく。
「ドレスも既製品ではありますが、取りそろえてございます。」
「あ、ありがとうございます…」
「さあ、むさ苦しい冒険者服など脱いでしまいましょう、お嬢様が目覚めるまで、ゆったりとした部屋着にお着替えください。この艶やかな黒髪、しなやかな身体の線。磨きがいがありそうで楽しみですわ。」
わきわきと指を動かしている侍女たちを見て、狙われる側とはこんなに恐ろしいものかと彼女は冷や汗をかいた。
◇
「外套をこちらへ。」
「ああ、ありがとう。」
「ほう、これはしっかりした付与がなされておりますな。公女様の熱にしばし耐えられたのも、これがあっての事ですか。」
「高名ではないが、領都へ立ち寄った父の友人がかけてくれた。大切なもののひとつだよ。」
剣は自分でラックにかけ、革鎧と道具類もその下にしつらえられた棚に置く。
清浄魔法はかけてあるが、刃の状態は確認した上で手入れの必要がある。
「ブラシはかけても支障ございませんか? 清浄魔法はかけておられる様ですが。差し支えなければ装備の手入れもおまかせください。」
「ああ、問題ない。お任せする。」
「ではお預かりいたします。湯浴みの間に衣服は準備させていただきますので。終わられましたらお呼びください。」
「置いておいてくれればかまわない。着替えくらいは手を借りる必要もないよ。」
「かしこまりました。お飲み物はこちらのベルで呼んでいただければお持ちいたします。」
「あと。」
「お一人で大丈夫なのでございましょう? 湯浴みの介助にメイドなど入れようものなら、私どもが公女様の手によってこの世から消されてしまいます。」
(意味ありげな笑みが隠せてないぞ、こっちは修行不足か。)
wktkしている執事にひらひらと手を振って退出を即す。
気を使って損をした、そんな心境だった。
今日はもう一話。
こちらも短いです。