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第九話 竜の城へ

 

「それで、何がどうなってこうなったんですか?」


「いや、オレのせいじゃ「口答えしない!」」


『楽しい主従だこと。』



 もはや威厳などあったものではない。

 むしろ気の良い近所のおばちゃんと化した紅き竜。

 もたげていた頭をすっと上げ、クイっと促す。



『それはわらわが説明してやろう、こんな場所では差し障りもある、場所を移そうではないか。迎えも呼んである』


「まさかワイバーンに乗る日が来るなんて…」



 見上げた空には濃紺の翼をはためかせ旋回している飛竜。

 先ほど、紅き竜が思念で呼び寄せている。

 火竜にはかなわぬまでも、この種もまた竜である事に変わりは無く、人族にとってみれば驚異の塊。



「いや?掴んで連れ去られるのか?」



 視線を向けると、人(竜)の悪い笑みを浮かべた火竜の王がいた。

 白き竜はもじもじちらちらと、自分に乗ってもらいたさそうに彼を見ている。






 ◇



 ほんの数分の空の旅。

 子供は睡眠魔法で眠らせてある。

 先ほど魔法を使い、辺境伯へは簡単な文言で無事を知らせている。

 代々の当主だけは、火竜たちから一方的な連絡がある事を知っているのだそうだ。

 居城の前に、何もない広場がしつらえてあるのが見える。



『このままでと言うわけにもいかぬのでな。』



 そこへ降り立つ。

 飛竜は案外優しく下ろしてくれた。

 ホバリングは魔力操作でできるものらしい。



「鳥とは違うのだな。」


「ワイバーンのドヤ顔…」


『さあ、少々熱を伴う、離れるとよい。念のため、障壁も張っておけ。』



 そんな言葉に従い、10歩ほど下がる。



すべてを通す事なかれ(ガードウォール)


「いや、代わりにやってくれるのはいいけど。わざわざ手をつなぐ事はないんじゃ…後ろで竜もにらんでるし。」



 熱を伴った呼気がぐるるという音とともに流れてくる。

 障壁は正面だけなので、じわりと汗がにじむ。

 いや、これは冷や汗か?

 怖くて後ろを振り返れない…


 紅き竜の足下から螺旋を描きながら炎が立ち上り、天へと昇っていく。

 すべてが消え失せたとき、目の前に現れたのは美しき女性の姿。



「ほわぁ…」



 口元を押さえながら、侍女が同じ女性として感嘆する。

 やや薄い褐色の肌に、腰を越える緋色の髪。

 高貴さを感じさせる切れ長の眼に収まる瞳は、竜の時と同じルビーレッド。

 バラ色のドレスを身にまとい、デコルテからは強烈に母性(おっぱい)が主張している。



「これは着付けたい、ヘアーセットしたい…お飾りの色はあれで、肩にかけるショールは、いや違うこの組み合わせではない…」



 侍女魂に火がついて、ブツブツと独り言をつぶやいている姿を、炎をまとった扇子で隠しながら火竜の王が、いや女王がくすくすと笑って見ている。



『さて、次は愚娘(バカむすめ)じゃ。ほれ、こっちをにらんでなどおらずに早うせい。』



 仇を見る様に、扇子でこちらを指し示す、母の胸元を見つめながら数歩下がる。

 同じ様に炎が立ち上るが、こちらは蒼き炎。



「なぜ違いが?」


『それはあとで教えてしんぜよう、今は我が娘の晴れ姿を見てやってくれ。』


「晴れ姿?」


『ふふっ 相当気合いを入れておるぞ。わらわの時より時間がかかっておるであろう?』


「確かに炎が滞留していますね。」


『回転が速くなってきた、気が急いておる様じゃの、来るぞ。』



 わずかに縮まった炎が、次の瞬間にはゴッと広がり、立ち上るのではなく消え失せた。

 熱膨張した空気がはじかれ、破裂音と共に髪をゆらす。



「さて、どうであろうかな?」



 意味ありげな含み笑いを扇でかくす火竜女王。

 そして目の前に現れたのはまだあどけないながらも絶世の美少女。

 先ほどまで盛大に侍女魂を燃え上がらせていた侍女も目を見開いたまま石像と化している。



『言葉も出ぬか? くくく。』



 顔立ちは火竜女王に似ているものの、こちらの肌は白く、輪郭も幼い。

 鼻筋はほど良くすっと通り、小さな唇は桜色に染まっている、よく見ればえくぼまである。

 紅玉を思わせる瞳を収めた目元も母に比べれば少々柔らかく、今は上目遣いで戸惑っているが、微笑んで目尻が下がれば、これはとてつもない破壊力を持つであろう。

 そんな少女が指をからめてもじもじさせながら。



『ど、どうでしょうか…だんなさま?』


「ぐはぁっ!」


『侍女の方が身悶えしておるではないか。』


『あ、あの…?』



 小首をかしげると、背中の中程まである髪がさらりと揺れる。

 竜であったときの体色を想起させるプラチナブロンドから、グラデーションを描きつつ髪先は先ほどの炎と同じ蒼に染まっていく。


 ドレスは白なのだが、陽の角度によっては真珠の様な光沢を放つ。

 指先を覆うレースの手袋から透けて見えるのは、ピンクスピネルの爪。



「欠点がない…磨く余地がない…胸が残念なだけ…」



 また侍女が崩れ落ちた。

 やれやれとため息をつきつつ、火竜女王がパチンと扇を閉じると、羽根飾りの様にゆらめいていた炎が消えた。



『さて、ついてくるが良い。ホールまでのエスコートはまかせたぞ。』



 彼がギギギとさび付いた様にぎこちなく見やると、そこには顔を真っ赤にしつつも、期待を込めてちらちらと見ている白き竜あらため火竜公女がいた。



『(種としての長き悩みもこれでひとまず安心か? あとはあやつら次第かの。)』



 ほくそ笑みながら、回廊を歩き出す火竜女王であった。






ヒロイン登場。

表現不足なのは、追々改稿かな。

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