君の好きなところなら幾つでも挙げられるよ
思い付き短編です。
恋愛ものですが、ちょっとした細工を仕込んであります。
どうぞお楽しみください。
……やぁ。君から会いに来てくれるなんて嬉しいな。
何か聞きたい事でもある顔だね。
……そりゃわかるさ。
君の事なら大抵の事はわかるよ。
それで何が聞きたいんだい?
……随分と唐突だな。
君を好きな理由、か。
ふむ、一言では言い切れないが……。
まずシンプルに顔だね。
意外かい?
初めて会った時から君の顔は目に止まった。
……そうだね。例えばだけど、河原の小石に金塊が混ざっていたら目立つだろう?
私にとって君はそれくらい特別に見えたのさ。
ははは。確かに社会一般的に君はイケメンとは呼ばれない顔立ちだろう。
でも私にとってはこの上なく魅力的に見えるのさ。
……急に顔を隠さなくてもいいじゃないか。
照れているのかい?
外見で、というのが気に入らないのならば、その優しさを挙げるとしよう。
……謙遜する事は無いじゃないか。
私は知っているよ。
足の弱いお爺さんが横断歩道を渡るのを手助けしようとして、中央分離帯に取り残された事。
迷子の子どもの親を探していて講義に遅刻した事。
女の子が川に落としてしまったアクセサリを、ずぶ濡れになりながら見つけてあげた事。
……ふふっ、私が知ってるのが意外かい?
君の事なら何でも知りたくてね。
君の友人知人から情報収集したんだよ。
他にも友人のレポートの手伝いをして間に合わせてあげた話とか、手が足りないと頼まれて女装してメイドカフェで仕事をした話とか……。
おっと。すまない。
褒めたつもりだったのだが……。
私は人の心の機微に疎いとよく言われるので、気をつけていたつもりだったのだが……。
謝罪させてほしい。すまない。
……ありがとう。
そんな寛容なところも君の美点の一つだな。
それと、自分の大切なものを守るために、恐怖に敢然と立ち向かう姿勢、かな。
あれには惚れ直したよ。
いずれ君に守ってもらいたいものだ。
……ははは。そう言うなよ。
確かに口調は可愛くはないし、武術も多少かじってはいるが、私だって女だ。
好きな男性に守られたいと願う事もあるよ。
……ははは。確かにな。
なら私が君を守ろうか?
それが許されたなら、私が死ぬまで君を死なせないと誓おう。
……ふふっ、これじゃあまるでプロポーズだな。
……目を逸らすくらいには意識してくれているのかな?
君のその可愛らしさも、私の好きなところの一つだよ。
……おっと、もう時間か。
君と話していると時間が経つのが早いね。
続きはまた今度。
……まだあるに決まってるじゃないか。
君の好きなところなら幾つでも挙げられるよ。
だからまた来てくれるのを待っているよ。
できるだけ早く来てくれると嬉しいな。
……じゃあ、また。
アクリル板越しに彼の背中を見送った後、私は刑務官に促されて面会室を後にした。
読了ありがとうございます。
驚いてもらえたなら嬉しいです。