お湯を入れた、それは誕生の三分間。
カップラーメンは蛇口を緩めた。
ザアーッ、と水道管から勢いよく流れた水が、口を大きく開けた電気ケトルへと流れていく。
電気ケトルの中で、水は何度も何度も餌を食べる魚群のように飛び跳ねて、白い泡を吹き出した。
大きな口をカパっと閉めて、カップラーメンはケトルの電源を入れた。
グツグツと音を立てながら水はケトルで歓声を上げていた。
十回裏のストレート!最後の三振バッターアウト!!
歓声は最高潮。最後の投手は、チームメイトに胴上げされている!実況も観客も選手達もその光景を忘れないだろう!!
カチッ。
お湯ができた。
その子が、大きく口を開けたのでお湯を注いだ。何かが揺らぐように中からふつふつと音がした。カップラーメンは頬にキスをしながらそっと目を閉じた。
…思えば色々あった。
春の始まり、夏の青春、秋の豊穣、冬の別れ。
きっとこれは道だ。永久永遠に終わらない。
嗚呼、草花が芽吹くように、どうか無事に辿れますように。
でも、夏の蝉が鳴くように、なにかに向かえますように。
だから、秋の落ちる紅葉のように、いつでも変われますように。
さいごに、冬の朝霜に、別れを寂びる愛しさを持つように。
この子が大きくなりますように。
三分、経った。
蓋を、開けた。
カップラーメンが、できた。
お目通しありがとうごさいました。