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7 家に帰ろう

 私の叫び声で、家族が部屋にやってきた。エルベルト様は両親とお兄様に今回の騒動を詫び、自分が不甲斐ないので彼女を傷つけてしまったと床に頭がつくほど謝ってくださった。


「俺はクリスティンのことを本気で愛しています。もう彼女を二度と傷つけないと誓います。どうか……もう一度やり直すチャンスをください」


 鬼の辺境伯エルベルト様のそんな姿を見て、みんな驚いていた。そりゃそうよね……このキャラ変更は戸惑うわ。


「ふふ、エルベルト様が娘をそこまで想ってくださっているとは。ありがたいことですわ」


 ポカンとする男性陣を無視して、お母様は嬉しそうに微笑んだ。


「クリス、あなたはどうしたいの?」


「もう一度、彼と頑張りたいです」


「なら、彼の元に戻りなさい。エルベルト様、娘はまだ子どもっぽいところもあるのでご迷惑をおかけすると思いますが……守ってやってくださいませ」


「ありがとうございます。でも、いつも彼女は私を支えてくれています。俺には勿体無いほど素晴らしい女性です」


 エルベルト様はそう言って、頭を下げた。私はそんなことを言われて身体中が真っ赤に染まった。


「まあ、ここまで言われたらクリスも女冥利につきるわね。ね?あなた」


「コホン……あー……うむ。セルバンテス辺境伯、娘を頼みます」


「私も今回は許します。でも、次クリスを泣かせたらすぐに迎えに行きますから」


「はい!ありがとうございます」


 エルベルト様はお礼を言い「俺達の家に帰ろう」と私の手を引いた。体調を崩していたことを心配され今夜は泊まっていけばいいと言われたが、彼は「クリスティンに逢ったらすっかり元気になりました」と現金なことを言っていた。


 彼は愛馬で夜通し駆けてきたらしく、馬車はないので相乗りで帰ることになった。


「紹介したことがなかったな。俺の愛馬のステラだ。いつもは騎士団の宿舎にいる」


 繋がれているその子は真っ黒ですごく大きくて、目がつぶらだ。


「可愛い……」


 私が撫でるとヒヒィンと小さく鳴いた。気持ち良いのか私の頬に鼻を擦り付けた。


「ステラが甘えるのは珍しい。さあ、行こう」


「はい。お父様、お母様……お兄様!お騒がせして申し訳ありませんでした。帰ります。次は戻る時はちゃんとお土産を持ってきますね」


 私がステラの上から手を振ると、みんなも笑顔で振り返してくれた。


「では、失礼します」


 彼はステラを走らせ、どんどんと風を切って進んでいく。馬車に比べたら倍以上早い。


「きゃあ!は、早いです」


「怖いか?大丈夫だ。私が君を落とすはずがない」


 私はエルベルト様に後ろからガッチリと腰からお腹を抱かれており、少し恥ずかしい。かなり密着しているのでドキドキしてしまう。


 そして所々で休憩しながらも、ハイスピードで駆け抜けて……夜遅くにはなっていたがその日のうちに家に戻ることができた。


「ステラ、よく頑張ってくれたな」


 彼がステラを撫でるとヒヒィーンと嬉しそうに鳴き声をあげた。


「乗せてくれてありがとう」


 私にもペロリと舐めて愛情を示してくれた。今日は宿舎でなくここで休ませるらしい。


 そして私達が部屋に入ると、遅い時間にもかかわらず……使用人達がみんな総出で出迎えてくれた。


「旦那様、奥様!お帰りなさいませ」


「ただいま。皆に心配をかけてすまなかった」


「私も……そのごめんなさい」


 二人で謝ると、みんなうっうっと涙を堪えながら喜んでくれた。


「旦那様がヘタレだから、もう奥様帰って来られないかと心配で心配で……」

「そうですよ。旦那様酷すぎます」

「好きなくせに……あんな態度をとって!あり得ません」


 使用人達から口々にエルベルト様の悪口が飛び交う。彼は気まずそうな顔で黙っている。


 普通なら使用人が主人にこんなことを言うのはあり得ないことだが、セルバンテス家ではこれが普通のようだ。みんな家族みたいで、エルベルト様が小さい頃から働いている人も多い。


 ちなみに彼が三年の片想いの末、私と結婚したことを実はみんな知っていたらしい。だからみんなあんなに優しかったのね。


「参ったな。この家はもう君の味方ばかりだ」


 私はエルベルト様を見つめて、くすりと笑った。


「では私を大事になさいませ。そうすれば、使用人もついて参りますわ」


 彼は「そうしよう」と優しく微笑んだ。そして、軽くご飯を食べてお風呂に入った。疲れたのでそろそろ寝ようかなと思っていると……私の部屋の扉がノックされた。


 ノエルだろうと思って何も考えずに「どうぞ」と言うと、そこにはエルベルト様が立っていた。


「エ、エルベルト様っ!?どうされましたか?」


 私は慌てて夜着にガウンを羽織り、彼の傍に行った。エルベルト様は頬を染めながら、私をじっと見つめた。


「一緒に寝たい……んだ」


「へ?」


「あ……違う!また間違えた……その抱きたいというわけではなくただ隣で寝たいんだ!」


「ええっ……!?」


「だ、抱きたいとか表現が悪いよな!違う……こんな事が言いたんじゃなくてだな……あの……愛したいけど、愛するのは今じゃないとわかっているから安心して欲しいというか……その……あー……何言ってるんだろ。俺は……」


 彼はガシガシと頭を掻きむしり、項垂れた。かなり取り乱しているらしい。


「落ち着いて下さい」


「あ、ああ。あの、つまり……今夜は君と離れがたくて。一緒に過ごしてもらえないか」


 彼は勇気を出して誘ってくれたに違いない。私が「はい」と照れながら言うと、彼はパァッと嬉しそうな顔をした。


「じゃ……じゃあ、寝室へ行こう」


 私はこくん、と頷き彼に手を引かれながら夫婦の部屋のベッドまでたどり着いた。なんか、お互いとても気恥ずかしい。


「クリスティン、愛してる。ここに帰ってきてくれて本当にありがとう」


「はい。私もエルベルト様をお慕いしております」


「……キスしてもいい?」


 私は返事の代わりに、そっと目を閉じた。すると、ちゅっと彼の熱い唇が私に優しく触れた。彼は私が寝ている時に何度もキスをしたと言っていたが、私の記憶にあるのは今回で三回目だ。


 お互いじっと見つめ合い、先程より少し長めで濃厚なキスをかわす。彼のウッド系の香水がふわりと香り、とてもセクシーでドキドキしてしまう。


「ふっ……んん」


 自分の口から変な声が出て、恥ずかしくなった。彼は私をギュッと抱きしめ「可愛い」と耳元で甘く囁いた。


 ドキドキドキ……胸が高鳴ってすごく苦しい。好きな人にキスされると、こんな気持ちになるのか。


「これ以上はだめだ。俺の理性がもたない。もう寝よう!」


「は、はい」


 私達はベッドに並んで横になった。ベッドが大きいので大人二人が寝ても十分に余裕がある。二人の間に隙間が空いているのが、少し寂しかった。


「手を繋いでもいいですか」


「あ、ああ。もちろん」


 彼は大きな手で、私の手を包み込んでくれた。とてもポカポカして気持ちがいい。ああ、なんか長旅の疲れも出て眠たくなってきた。


「エル……ベルト様……おやすみ……なさい」


「ああ、おやすみ。良い夢を」


 私が深い眠りに落ちかけている時、チュッと柔らかい何かが唇に触れた気がするが私は心地よくて目が開けられなかった。


「クリスティン……愛してるよ」


 彼の優しい声を聞きながら、私は完全に眠りについた。

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