親友⑦
「しょうがないから、そろそろ帰ってやるか」
ジェフのその言葉に、俺は自然と嬉しい顔をしてしまった。
「そんな喜ぶの酷くないか?今夜はお前の金で街の高級ホテル泊まるからな!」
「いいぞ、そうしろ」
こいつがいなくなれば、今夜はクリスとゆっくりできる。明日から仕事だが……俺はそんなの全然問題ない。
「そんで、明日お前の騎士団連中を冷やかしてから王都戻るわ。エドは強くなった?」
「それは助かるな、鍛え直してくれ。エドは前より強くなったよ。今は隊長してる」
「そうか。ガキだと思ってたけど、成長が早いねえ。男前で強くてモテる男はしめとかねえとな。俺とキャラ被るなんて許せないぜ」
そんなことを言っているが、実際はエドを可愛がっていることを知っている。
「被ってない。エドのが人懐っこくて素直で可愛いぞ。お前みたいに捻くれてない」
「馬鹿だなぁ。男はミステリアスで、少し悪い方がモテんだよ。エドは顔と性格が良いだけ……女は物足りないはずさ。だから、あいつはまだまだだな」
ジェフはニヤリと笑い、荷物をまとめて帰り支度をしている。帰ると決めたら行動は早い。
「ジェフ様、帰られるのですか?お怪我されているのに大丈夫でしょうか?」
クリスが気が付いて、心配そうに駆け寄ってきた。パタパタと走る姿が可愛い。でも、そいつの傍から一刻も早く離れてほしい。
「クリスティンちゃんの可愛い顔見たら、痛いの治った」
「……っ!そ、そんなはずありません」
「ふふ、本当だよ。騎士はこれくらいではなんてことないんだ。世話になったね、ありがとう。クリスティンちゃんに会えてよかったよ」
「はい、私もジェフ様にお会いできてよかったです。またいつでも、遊びにいらしてください」
彼女はふんわりと、美しく微笑んだ。それを見てジェフも嬉しそうに微笑んだ。
「次はエルが長期遠征中に来るよ」
そんなとんでもないことを言って、クリスのおでこにちゅっとキスをした。クリスは何をされたのかわからず、ポカンとしている。
「ジェフ!何してんだよ!!」
これから俺がいない時は、絶対こいつを家に入れるなと使用人達に徹底させよう。俺は怒りでわなわなと身体中が震えている。あいつ……俺のクリスにキスを……!おでこでも許せない。
「ただの別れの挨拶だろ?怒んなよ。じゃあ、失礼するよ。エル、また明日な」
そして、嵐のように去って行った。クリスはやっと何をされたのかわかったようで、ポッと頬を染めた。俺は不機嫌に彼女のおでこを、自分のシャツで擦ってからチュッとキスをした。
「気をつけてくれ。俺はたとえおでこでも……君が他の男にキスされるのは嫌だ」
「は、はい」
俺は彼女をひょいと横抱きにして、夫婦の寝室のベッドに優しくおろした。オリバーには隣の部屋に軽食と飲み物を用意してもらうように言い、その後は朝まで誰も近付くなと指示してある。
――つまり、そういうことだ。
「今からクリスを愛したい」
「えっ!?でもまだ夕方ですし……」
「夕方だね。俺の愛を伝えるには、時間が足りないくらいかも。クリス不足で死にそうだから助けてくれ」
俺は甘えるようにそう言って、熱く濃厚なキスをした。
「ま、待ってください。先にお風呂……入らせてください」
「これ以上待てない。大丈夫だよ、俺は試合の後シャワーしたから安心して」
「私が困りますっ!だ、だめ……!出掛けて汗かいてるから近付かないでください。汚いから」
「どこも綺麗だ。それに君のいい匂いがする。どうしても君が嫌ならやめるけど……俺はこのまま愛したい。だめかな?」
俺はずっとこうしてみたかった。嫌がるかなとずっと言い出せなかったけど。だってこの方が君の甘い香りがするから。
俺は懇願するように甘く潤んだ目で、彼女をじっと見つめた。
「その顔はずるいです」
「後で一緒に入ろう」
「そんな……無理で……す……あっ……」
了承されたと都合よく解釈して、結局そのまま愛し合った。数日ぶりの触れ合いな上に、いつもよりまだ明るい外やお風呂に入っていないという羞恥心も相まって……お互いいつもの何倍も盛り上がってしまった。
「可愛い。好きだ……愛してる」
なんて可愛いのだろう。可愛いのに綺麗で……俺の前では色っぽくもなるクリスが堪らない。今もとろんと蕩けた顔で、俺を見つめている。
その顔をみるとまた欲望がむくむくと出てきそうになるが、一度お風呂に入れてあげないと……と自分にブレーキをかけた。
「なんだか……ジェフ様にエルを盗られたようで寂しかった」
「……え?」
「だって……あなたは一晩中ジェフ様と一緒にいるから。久々に戻って来られたのだから、私だってかまって欲しかっ……た」
まさか、彼女はジェフ相手に嫉妬しているというのか?な……なんてことだ。
「かまって欲しかったのか?」
「はい……ご、ごめんなさい!私が別に寝ると言ったのに我儘ですよね。しかもあなたの親友の方に嫉妬するなんて、変ですよね」
彼女はオロオロと視線を彷徨わせた後、恥ずかしかったのかシーツを被った。それをゆっくりめくって、顔を覗き込んだ。
「変じゃない……なんて可愛いんだ。悪かった、せっかくの休みだったのに君と過ごせなかった。お詫びに……もっと俺に愛を伝えさせて」
「愛してる」
「君だけだよ」
「可愛い」
結局彼女を風呂に入れてあげれたのは、朝方だった。疲れて俺に身を任せてる彼女の身体を、丁寧に洗っていく。これも幸せだが、今度は元気な状態の時にイチャイチャしながら一緒に入りたいなと思った。
彼女を拭いて、夜着を着せて……俺の部屋に運ぶ。夫婦の寝室のシーツが汚れているからだ。
「おやすみ」
俺は仕事までのあと僅かな時間、彼女を優しく抱きしめて眠ることにした。なんて心地よくて幸せなんだ。
扉のノックの音で目が覚めた。いつもなら朝の準備に入ってくるオリバーも、今朝は勝手には開かない。
「旦那様、おはようございます。そろそろお時間です」
「おはよう。ありがとう、一人で準備できるから入って来ないでくれ」
「かしこまりました」
優秀なオリバーはスッと離れて行った。俺は隣で眠る彼女の寝顔を別の男に見られたくない。例えそれがオリバーでも。だから、二人で寝た翌朝は侍女に世話を頼んでいた。
「無理をさせたね。まだゆっくりおやすみ」
俺は唇に軽いキスをして、身なりを整え部屋を静かに出た。ノエルに「クリスは俺の部屋にいる。起きたら何か食べさせてやって欲しい」と伝え、朝食を食べて仕事場へ向かった。




