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12 証

 エルに強引に馬車の椅子に座らされ、グイッと顔を近付けられた。


「クリス、どうして俺に内緒で他の男と二人きりでいたんだ」


「え?ああ、彼は学生時代の同級生で、久しぶりにお会いしたのでお茶でも飲もうと誘われたのです」


「……誘われたら、誰でもついて行く?あの男は君に気がある。そんなこともわからないのか?」


 エルは不機嫌にギロリと私を睨みつけた。は?トムが私を好き?そんなことはありえない。


「彼はただの友人です」


「友人と思っているのは君だけだ」


 エルに不機嫌にそう言われて、私は腹が立った。元はといえばエルが彼女とイチャイチャしてたのではないか!私は友人とお茶を飲んでいただけなのに、なぜこんなにも責められないといけないのか。


「ではお言葉ですが、あの女は誰ですか!?自分の執務室に呼んでイチャイチャと……職場で密会なんていやらしいです!」


「は?なんの話だ?」


 私は怒りを隠すこともせず、感情を露わにした。


「惚けないでください。不潔です!私はあなたを見損ないました……他の女を囲うなら私と別れてからにしてくださいませ」


「女を囲うっ!?別れるって……ちょ、ちょっと待ってくれ」


 エルは意味がわからないとでもいうように、私の手を握って気持ちを落ち着かせようとした。私はそれを払い、キッと睨みつけた。


「私は直接見たし……聞いたんですから!黒髪で巨乳のセクシーなお姉さんがあなたと『愛し合っていた』って言っていたのを」


 うっ……うっ……自分で言ってて辛い。よりにもよって、私より巨乳な女を選ばなくてもいいではないか。酷すぎる。


「黒髪……もしかして君はバネッサのことを言っているのか?誤解だ。彼女と俺は何の関係もない」


「嘘よ。だってあの人あなたの胸に手を当てて、至近距離で話してたもの!」


「バネッサは懇意にしてる酒場のお抱えの踊り子なんだ。騎士団は男所帯だから大きな任務の打ち上げに……その……女性のいる店も使うんだ。もちろん俺はやましいことなどしていないし、本当に飲んでるだけだよ!」


 私は疑惑の目でジーッと睨みつける。


「あんな魅力的な女性を前に、飲むだけで済むのかしら?そのお店で彼女といい仲になられましたの?いやらしいわ!」


「違う!バネッサは職業柄、どんな男とも距離が近い。彼女は俺の部下と付き合っていたんだが、少し前に別れたんだ。彼はもう貴族の御令嬢と結婚したから……可哀想だが、諦めろと話していただけだ」


 ――え?じゃあ浮気じゃないってこと?


「そう……なのですか?」


「そうだ。俺がクリス以外を好きになるわけないだろ!?しかも浮気なんて死んでもありえない」


「でも……あの方はお胸が……大きいし……すごい色気だし……セクシーだし……私が勝てるところないです」


 私は自信がなくなってもじもじと、ボソボソと小声でそう言った。


「馬鹿なこと言うな!俺は君以外は女に思えない。それに……俺にとってはクリスの方が色っぽい。胸も……信じられないくらい綺麗だし、その……大きさも俺の手に収まるクリスの方が好きだ!」


 収まるというのは若干失礼だと思いながらも、はっきりそう言い切ったエルを見て、私は安心してポロリと涙が出てきた。


「ああ、泣かないでくれ。これからは絶対君以外の女性とあんな近距離で話したりしないと誓うから」


「……エルは私のことだけが好き?私のことをだけ愛してる?」


「クリスだけを愛してる。この気持ちが変わることなどないよ」


 彼に耳元で甘く囁かれてながら強く抱きしめられ、濃厚なキスをされた。


「可愛い」


 ちゅっ、くちゅ……とキスをされ、あむあむと唇ごと食べられるような激しい口付けが繰り返される。


「誤解は嫌だけど、クリスが妬いてくれたなんて嬉しい」


「ん、ごめんなさい。勝手に……んっ……怒って……子どもみたい」


「嬉しいよ。俺のこと好きだから怒ってくれたんだろ」


 彼は目を細めて、愛おしそうにじっと私を見つめている。


「ふっ……うん」


「可愛くて堪らないな。でも、俺は反省してる。君に浮気を疑われるなんて……夫として俺の愛がまだまだ足りなかったんだなって」


 ん?それはどういう意味だろうか?彼の愛は充分すぎるほど伝わっている。


「だから、帰ったらずーっと君に愛を伝える。俺以外の男とお茶してたお仕置きもあるし覚悟して?」


「えっ……」


 私はサーっと青ざめた。お仕置きって何なんだろう。怖すぎる。


「安心して。クリスを傷つけたりはしないから。ただ君は()()()だって、心と身体に刻みつけるだけだよ」


 ニッコリと微笑んだ彼の顔は、天使ではなく明らかに悪魔だった。


「い、いえ。遠慮します。あなたの愛はもういっぱいいただいていますから」


「クリス、愛してる。さあ、家に着いたよ」


 彼は絶対に逃がさないつもりらしく、拒否する私をひょいとお姫様抱っこして家に帰りあっという間に夫婦の寝室のベッドにおろされた。そしてあっという間に押し倒された。


「クリス……君が浮気を疑う隙もないくらい、俺が狂おしい程君を好きなこと証明する」


「いや、もうわかったから大丈夫よ」


「いや!君はまだ何もわかってない。じっくり……ゆーっくり伝えるから」


 そう言ってからは本当に凄かった。いつもより丁寧なのに情熱的に愛されて、頭のてっぺんから足の先まで全部にキスをされた。彼の熱はなかなか冷めず、夜が明けるまで何度も求められた。


「クリス……愛してる」


「エルっ……わたしも……愛してる」

 

「他の男なんて見るな。君をこんなに愛せるのは俺だけだ」


 どうやら彼もトムに妬いているらしい。彼はただの友達だ……妬く必要なんてないのに。


「私もあなたしか見てないわ」


「君は可愛いし良い女だ。結婚していても邪魔な虫が群がって来るから不安だ。でも……君は俺の物だ。絶対に誰にも渡さない」


 彼はジュッと強めに胸元に吸い付いた。少しチクッとした後、彼は満足気に微笑んだ。これはキスマークというものだろうか。初めて付けられた。


「白い肌に映えるな」


「恥ずかし……です」


「俺のって証だよ。愛してる」


 そして私が意識を失うまで、彼は私にずっと愛を伝え続けた。

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