第一話 第二の脅威
二日に一回以上は投稿したいと考えています。
読んでいただけたら嬉しいです。
「おはようございます」
目を覚ますと、目の前には一人の少女がいた。
「現在の状況が分かりますか?」
声を出そうとするが、出ない。何だったら身体も動かない。
痛みがあるとか、そう言うわけでは無い。ただ、身体中に異常な倦怠感と疲労感があるのだ。
取り敢えず、返事をする為に万力の力を込めて僅かに首を振る。
「では、簡潔に説明させていただきます。ここは封鎖都市『フリー』、体に特殊な欠陥を抱えて生まれてきた少女達が暮らす街です。貴方は、ここで発生する四つの問題を解決するために特殊機関『コード』から送られてきた機関員でしたが、二つ目の問題解決に失敗して命を落としました」
命を落とした?ならば、今の俺はどうして意識があるんだ?
俺の疑問を察したのか、目の前の少女が微笑む。
「貴方もまた、欠陥を持つ者の一人であるということです」
「?」
「どうやら蘇生時にほとんどの記憶を失ってしまったようですね・・・ですが、すみません。今はゆっくり話している時間が無いんです。もう、彼女達も保たない」
直後、ガラスの砕け散るような音と共に世界が砕けた。
病室の窓から覗く青空が血のような色に染まり、一気に世界の彩度が落ちていく。
「どうやら、見つかってしまったようですね。行きましょう、肩を貸します」
ほとんど動かない体を引きずられるようにして部屋から連れ出されると、廊下にはまた別の少女がいた。
「シンシア、次は私だ」
「・・・分かりました。よろしくお願いします」
今度の少女は小柄ではあったが、信じられない力で軽々俺の身体を肩に担ぐ。
「私がお前を次の潜伏場所へ連れていく。シンシアへ言い残す言葉はあるか?」
「ステラ、今の彼は声を出せません。それに、出せたとしても記憶を失っていますから・・・」
「はあ!?どういうことだよ、お前!」
耳元で叫ばれたせいで耳がキンキンする、何だったら目の奥までガンガンするほどだ。
「やめてください、彼は生まれつきの『エラー』ではありません。記憶の保持も私達と違う可能性があります」
「・・・むぅ」
「それに、そんな暇もなさそうです」
シンシアの視線の先、薄暗い廊下の奥から三体の化け物が壁や天井を蹴りつけながらものすごい速度では襲い掛かってくる。
逃げろ、そう言いたいが声を出すことはまだできない。
何とか動こうと体に力を込めようとした時、シンシアと呼ばれた少女の腕が閃き、三発の銃声が響いた。
彼女の手に握られた大型ハンドガンから硝煙が立ち昇っているのを目で見た時には、頭を打ち抜かれた化け物たちの死体が廊下を滑って行った。
「では、また後で会いましょう。その時にはゆっくり紅茶を飲みましょうね。勿論、ステラも」
「余計な気ィ使うな・・・じゃあな」
ステラと呼ばれた少女が胸ポケットから取り出した銀色の鍵を適当なドアにぶつける。
すると、アルミ製のスライドドアが木製のドアノブ付きのドアへと変化した。
ドアを開けて中に入ると、そこは今までいた建物とは全く違う、別の部屋になっており、その部屋の窓から見える景色もまるで違っていた。
「これでしばらくは見つからねえ」
俺をダブルサイズのベッドに投げ捨てたステラがドアを閉じる。
ログハウスの一室を思わせるその部屋には俺とステラ以外は誰もおらず、気まずい空気が流れるが、声を出すことも、動く事も出来ない俺にはどうする事も出来ない。
「ちょっと待ってろ」
そう言ってステラが奥のキッチンへ向かう。
彼女が戻ってくるまでの間、何とか眼球の動きだけで部屋を見回す。
とりあえず目につく物は、色とりどりの華の飾られた花瓶や大人数で座れる半円型のソファ、ロングチェアに大型のログテーブルといった大人数が暮らしている様子がうかがえるものばかりだ。
しばらく見回していると、いくつかの写真立てが目に入った。
そこには笑いながら写る数人の少女達や、大勢で撮ったであろう集合写真が見える。先程の少女、シンシアやステラも笑いながら写っている。
そんな少女ばかりの集合写真には、男性がたった一人だけ困ったように笑って立っていた。
「少しは思い出したか?」
突然、視界外から声をかけられる。
視線をずらすと、そこにはお盆を持ったエプロン姿のステラがいた。
「少し身体動かすぞ。これ、飲めるか?」
ベッドの背もたれに上半身を預けさせてもらってから、彼女の持ってきた飲み物を飲ませてもらうと、不思議なことに体中に活力のようなものが湧いてきた。
「魔女の薬は万薬に勝るってな、もう声くらいは出るだろ?しばらくすれば身体も動くようになる筈だ」
「あ・・・・り・・・が、と」
「おう、感謝しまくってくれ。貸し一な」
ステラは空になった俺のカップに新たな薬湯を入れてくる。
それも飲むと、更に力が湧いてくる。
「飲み終わったら、移動するぞ。詳しい説明はその時してやる」
「・・・ああ」
薬湯を飲み切った頃にはほんの少しだけ動くようになった身体に鞭打って立ち上がろうとすると、ステラにまた担がれてしまう。
「遅い」
家の外に出ると、そこは小さな湖畔の近くだった。
だが、そんな景色に見合わない無骨なマシンが一台家の側に停められている。
「バイク?」
「・・・その記憶はあんのか。ま、乗りな」
小柄なステラが大型バイクに乗ると、地面にギリギリ足が着くかどうかといった所だが、本当に乗れるのだろうか。
「早く乗れよ」
エンジンをかけた少女が自分の背中を肩越しに親指でさす。
「あ、ああ」
困惑しつつもステラの背後に乗ると、彼女がバイクのスタンドを蹴り上げた。
バイクが倒れそうになり、咄嗟に足を伸ばしてつっかえにするが、目の前の少女はその細い足を伸ばす事すらしてない。
すると、少女は楽しそうに笑う。
「いやー、助かるぜ。あんたと一緒じゃ無いと乗れねえんだ、これ」
「は?」
俺が尋ねるより速く、少女はギアを回すとそのままバイクを走り出させた。