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強欲な宿屋の主人

 宿に着くと小太りの主人がカウンターに立っており、泊まりたいと言う申し出を、嬉々として受け入れてくれた。

 現在、他に客がおらず、部屋は空いているということらしい。そもそもライライ村は小さな村なため、旅人も多くは訪れない。また、村に住んでいる人はまず利用しないため、基本的に繁盛することがない。どうやって生計を立てているのかと思ったら、どうやら宿自身は副業らしく、基本的には農業と兼業することで収入を得ているらしい。家の部屋が余っているため、宿としても自宅を貸し出すことにしたのだそうだ。


 質問したわけでもないのだが、手続きの最中に主人がベラベラとそんなことを語り出した。さして興味もないのだが、宿がないと野宿をせざるを得なくなるためそこは助かる。俺はナイーブな性格なため、外で寝るのは極力避けたかった。虫刺されで痒くなるのはご免だ。


 ただ、困る人がいるかもしれないからこの副業を始めたと主人は語っていたが、それは表向きの理由だろう。単に金が欲しいだけだろうと俺は睨んでいる。その証拠に二人で一〇〇フォルツと結構な金額を要求された。一晩だけだし渋々了承することにしたのだが、朝食はその金額には含まれてはないらしい。素泊まりでこの価格設定はやはり高いと思う。食事もしたいと思い金額を尋ねてみると、追加で二〇フォルツ必要だと言われた。


 合計一二〇フォルツ。アルタイルにある宿の平均が五〇フォルツ位だと考えると、相当な暴利だといって良いだろう。足下を見られているかのような絶妙な価格設定だ。とはいえ、朝抜きは正直きつい。諦めて、俺は朝食もつけてもらうことにした。


「はーい♪ それではお二人様、ご案内〜♪」


 俺が金を払い終えると、主人は意気揚々とそう言って、俺たちを二階へと案内した。もし、この先俺が隠居して、誰かが魔王を倒した暁には、暴露本を執筆してここの宿のことも書いてやろうと心に決めた。俺は根に持つタイプなのだ。


「手前と奥のお部屋、二部屋ご用意しましたー! それではごゆっくりー♪」


 二階に上がり、そう説明した主人は、鼻歌交じりで再び下へ戻っていく。腹の立つ後ろ姿を眺めていると、二度とここで宿泊したくないと思わせてくれた。明日は早いところライライ村を出発し、即座に次の街へと向かうことにしよう。


 主人の姿が完全に見えなくなり、手前の部屋の扉の前へ行く。ノブに手をかける。

 とりあえず、今日は色々あったため疲弊してしまった。城で行われた長々とした会議に、広野でのちょっとした戦闘。ライライ村での種渡しといった精神苦痛や、民家への訪問。複合的な疲労により俺の身体は休息を必要としていた。


 ドアを開けると大きめのふかふかのベッドが目に入った。横になればすぐに夢の中へ誘われてしまいそうだ。

 しかし、俺が室内へ踏み入れようとしたところで邪魔が入った。ミランダに声をかけられたのだ。


「勇者、この後、私の部屋にきてもらってもいい?」


「なんでだよ?」


 俺は不機嫌に問い返す。ようやく彼女から解放され一人の時間が作れるというのに、再び二人きりになるなんて拷問に近い。冷淡な口調から察するに、何らかの文句があるのは明白だった。


「ちょっと話をするだけよ。いいからすぐに来て」


 彼女はそう言い残すと、奥側の部屋へつかつかと向かい入っていた。やや荒めにドアを開放しそして閉める。


 正直行きたくなかったし、鬱陶しくてかなわなかったが無視するわけにもいかないだろう。今朝のように魔法が飛んでくるのはご免だ。俺は自分の部屋に荷物を投げて、仕方なく隣のミランダの部屋に向かうことにした。

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