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青い悪魔との遭遇!

 数百年も昔。

 魔王とモンスターが多く蔓延っている時代に、一人の青年が世界を平和にするために旅立った。彼はたった一人で、手強いモンスターを次々と倒していき、最終的に魔王を討伐することに成功したと聞いている。その功績を称えられ、青年は勇気のある者、『勇者』と名付けられることとなった。名はアグストリア。俺の遠い祖先だった。


 彼の活躍は世界各国で語られ、伝記として多く著書が残されている。そういった訳で俺も、小さい頃に母親に彼の活躍を度々聞かされたものだ。彼の勇敢なる行動に心が躍り、モンスターに囲まれピンチになる話などはハラハラしながら話を聞いた。一人の男として尊敬はしている。彼がいなければ、魔物に支配され、人間は存在していなかったかもしれないのだ。


 だが、彼は彼で、俺は俺なのだ。無理なものは無理なのだ。

 実のところ、現在、勇者と言われているのは俺一人ではない。アグストリアは平和になった後、子孫を残していき枝分かれして、至る所に彼の末裔が存在していた。そのため『勇者』というのは特別な存在ではなく、言わば称号みたいなものだった。


 実際、俺の前に、既に三人の勇者が旅立っている。いずれも強く、勇敢な戦士だったと聞いている。それでも失敗して命を落としているのだ。


 現魔王は強すぎる。長いこと力を溜め続けた魔王は、異様な強さを手に入れ、世界中に廃退をもたらした。その配下も驚異の強さで、俺の前に旅立った三人の勇者も、魔王に到達する前に息絶えている。


 前に旅立った三人よりも弱い俺が討伐しに行ったところで、結果が目に見えていた。俺は魔法も使えなければ、剣術もそれなりだった。小さいころから無理やり訓練をつけられたせいで、剣は城の兵士並みには使えるが、アルタイルにも俺より強い奴は存在する。逆に、これでどうやって魔王が討伐できると思うのか聞いてみたいくらいだ。まあ、皆、深いことを考えずに現実逃避をしているのだろう。

 とにかく、勝手に期待され、勝手に討伐してこいと言われても困る。適当なところで、見切りをつけて逃げ出す気でいた。



 アルタイルから街の外へ出ると、広野が広がっていた。青い空に、陽の光を反射した植物が青々と輝いている。これがただのピクニックだったら、どれだけ気分が弾んでいたことだろう。


 俺の気分は美麗な景色とは裏腹で、これから待ち受けるであろう困難に気分は暗澹としていた。途中で遭うモンスターに対しても気が抜けないし、コミュ障の俺にとってはこれから出会った人々と会話していくことも難題だった。


 何よりも、後ろから付いてきている幼馴染みから妙なプレッシャーを感じている。一定のリズムで地を鳴らす足音は、兵隊の行軍を思わせた。何かおかしな行動をとれば、即座に怒声が飛んできそうな空気を感じる。そのため、俺は早くも背中に冷や汗をかいていた。このままいくと、三日と持たずに精神が崩壊してしまうかもしれない。


「勇者! いよいよ私たちの旅の始まりね。必ず魔王を倒し、この世界に平穏な時代をもたらしましょう!」


 早速ミランダが、抱負みたいなものを語った。この日を待ち受けていましたとばかりの士気の高さだ。これから世界を平和にしようとする高い志を感じる。意識高い人間としてのお手本のような奴だった。俺はげんなりしながらも、無難に「そうだな」と小さく頷いておいた。



 広野を歩いて行くと、草地に青いゼリー状の物体が目に入った。透明な青い物体はぷるぷると震えている。俺はそれが何かすぐにわかった。スライムだ。


「勇者、敵よ! 気をつけて!」


 ミランダも気がつき、そちらに視線を向けた。本来、スライムはかなりの雑魚モンスターに属するのだが、彼女は気を抜く様子は全くない。


 もっとも俺もしっかりと警戒態勢を取る。剣を鞘から抜き、スライムに相対した。こいつは突然飛びかかってくるから油断ならない。痛いのは嫌だし、うっかり目にでも向かってこられたら失明する可能性もある。


 だが、こいつの本当の怖さは、こちらが無防備でいる時だった。スライムはジェル状の液体生物であり、油断していると簡単に人の住家に侵入してくる。そして、寝静まっている住人にそろりと近づき、口の中に入り肺の中で爆発するのだ。


 こうした事件は、毎年のように世界各国で起こっている。繁殖力も高いため、気がつくとどんどん増えるため、対応がなかなか追いつかない。人々はこいつのことを本当に警戒しており、通称『青い悪魔』と呼称されていた。


 うちアルタイル王国でも、兵士達が集められ、スライムを減らすために月に一度討伐隊が結成され、狩りに行くことになっている。しかし、倒しても倒してもきりがなく、気がつくといつの間にか増殖しているため、人々は皆辟易していた。


 スライムもこちらを認識したようで、ぷるぷると震え出した。

 そうして、バネのように跳ねて、俺の顔目がけて飛びかかってくる。だが、動きは緩慢で素早さはさほど感じない。俺はなんなく攻撃を躱し、スライムが着地したと同時に攻撃を仕掛けた。


 こいつの外郭はほぼ液体といってよく、そのためいくらそこを削り取ろうとも倒すことはできない。スライムの中心部には核といわれるものが存在し、そこがスライムを動かしている中枢神経系となっている。つまり核さえ破壊してしまえば、簡単に始末することができるのだ。


 俺は、銅の剣を振り上げ、スライムの中心に向かって剣を振り下ろす。斜めに斬った剣は、ぬめりと入っていき、その後に確かな手応えを感じた。核は破壊され、液体状のスライムはその場にヌメッと広がった。地へと吸収されていく。姿は完全に消滅してしまった。


 あっけない勝利。

 しかしこれが、俺の旅が始まってからの初めての戦闘勝利となった。


 どうも俺は、スライムとの戦闘は好きになれなかった。手応えを感じづらい相手であったし、倒した後も消えてなくなるため、討伐した実感がいまいち湧きづらい。また、油断していると、口の中に入ってこられ、うっかり命を落としてしまう可能性もある。毎年討伐に参加した兵士がごく僅かではあるが、こうした事例により犠牲になっているのだ。気の抜けない緊張感があるのも、こいつを好きになれない理由であった。


 初勝利だからといって、特に感慨深いというわけでもない。俺は無心で剣を鞘にしまう。

 すると、ミランダが感想を洩らした。


「やったわね勇者! これで少しでも、街の人の脅威を取り除けたかと思うと誇らしいわ」


 彼女らしい意識の高い言い回しで、今の戦いをそう評する。毎回モンスターを倒す度にこんなことを言われたら、俺は疲れてしまうかもしれない。


 俺は、特に感想を言うことなく、広野の道に戻っていった。ミランダも後ろからついてくる。続けて北へ進んで行くことにした。

 その後は、追加でスライムが二匹ほど出ただけで無難に歩を進めていく。道に迷うこともなく、最初の目的地、ライライ村に辿り着いた。

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