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気弱な勇者は断れない

 さらに二時間が過ぎ、ようやく会議が終わった。


 旅立つ前であるにも関わらず、既に俺のHPはごっそり持っていかれた感じがしていた。いらんことをミランダが発言し、回りの奴らが賞賛していく流れが続いた。一応主役の俺は無言で下を向いていただけだ。

 一体、この会議はなんだったのだろうか。魔王についてはそれほど言及せず、各国での注意点ばかりが具体的に話し合われ、そのまま終了した。特攻して、死んでこいとでもいうことなのかもしれない。


 とりあえず俺は疲れた。今すぐ家に帰ってベッドに横たわりたい気分だった。もっとも、ある奴が部屋に大穴を開けたせいで、落ち着くこともできないと思うが。


 会議室を出て、俺とミランダは玉座の間に向かう。渡したいものがあるということだ。目的の場所に着くと、王様は玉座にふんぞり返っていた。自己の無能さを隠すために、態度だけデカくしてしまう奴の典型だ。


「勇者よ。これから旅立つにあたり、様々な困難に立ち向かうことであろう。だが、ここアルタイルで学んだ数々のことを生かし、世界に秩序と平和を取り戻して欲しい。きっとそなたなら可能なはずだ。また、旅で出会った人々に感謝を忘れず、献身の心を持って接するべきだとわしは思っている。若い者にはありがちだが、決して一人の力が全てだと思わぬように。以上だ。横にある宝箱を開け、旅立つがよい」


 王は俺に向かって、出発へ向けての心構えを語った。


 一見、無難な見送り言葉で、立派なことを言っているように思える。

 が、俺には突っ込みどころが満載に思えた。第一に、王は俺のことをほとんど知らない。どうして魔王討伐が可能だと思っているのか。勝手な願望を勝手に語っているだけに思える。

 第二に献身の心を持てというがこれは意味がわからない。そもそも俺は魔王を討伐しに行くのであって(それすら途中で投げ出す気でいるのだが)、街の人を救えなど王が勝手に言っているだけだ。大体が、救ってあげた相手に対し、どうして感謝をしなければいけないのか。表向きで、薄っぺらい言葉だけを並べたに過ぎないのではないかと俺は感じてしまった。


 話が終わり、俺は玉座の横にある宝箱の前へ移動する。

 無駄に豪華な、金の装飾を施された真紅色の宝箱。見るからに中に、良い物が入っていますよと言わんばかりの見た目だ。少しだけ期待して中を開ける。だが、中身を確認すると、俺は思わず顔をしかめてしまった。


 中には320フォルツ(※通貨の単位)と銅の剣が一本だけ入っていた。この額じゃ、防具を少々買って薬草でも買ってしまったらあっという間になくなってしまうだろう。やはり、最初から、俺たちには全く期待していないのかもしれない。


 形だけの旅立ちの言葉を王に述べ、玉座の間から出た。その後、兵士に城の外まで送ってもらう。途中で兵士は、「この程度のお金しかお渡しできずにすみません。うちも財政が厳しくて……」と申し訳なさそうに言った。


 だが、俺は知っている。王が最近、中庭に自分の石像を造らせたということを。

 先ほど城内からチラッと見えたが、威圧感のある精巧な王の石像は、この国の悪い部分を象徴しているかのようだった。大きさは等身の約五倍サイズという巨大さで、光沢のある素材から察するに、希少な鉱石である白魔石を使っているのは間違いない。目算で、俺に渡した額の百倍以上はかかっていると思われる。


 石像は芸術として価値が高いのかもしれないが、基本的には意味がないものだ。本当に世界の平和を望むのであれば、そんなところに金を使わずに、俺にもう少し回して欲しい。魔王討伐を丸投げするわけだから、それくらい協力して欲しいと思ったが、王はそう思わなかったようだ。端から期待はしていなかったが、期待が下へと裏切られるとガッカリ度はより高くなる。元々低かったモチベーションがさらに下がる思いだった。


 大扉から出て外へ。送ってもらった兵士と別れ、跳ね橋をミランダと共に渡って行く。すると後ろから駆け寄ってくる足音が聞こえてきた。


「勇者様! お待ちください!」


 声に反応して振り向くと、初めに会議室まで案内してくれたテンションの高い兵士が、走って向かってきていた。彼は、パンパンに何かが詰め込まれた袋を手にしている。それを見た瞬間、彼が何をしに来たのかがわかった。


「勇者様! 王様よりこれを渡せと仰せつかりました。アルタイルの種でございます! いや〜、お話を聞きましたが、世界中の民達にこちらをお配りになるとのこと。お若いのに、ご立派でいらっしゃる!」


 彼は会議室にいなかったから、王か誰かに話しでも聞いたのだろう。息を弾ませ、アルタイルの種の入った袋を、俺に差し出してくる。パンパンに詰められた袋は、見るからに旅の邪魔になりそうなアイテムだ。


 俺はすぐに受け取らなかった。自分が発案した訳でもなかったし、こんなものを受け取ってしまったら、旅の先々で苦労することは目に見えた。

 断ってしまおう。今さっき、自分自身が変わると決めたばかりなのだ。そう思って、受け取りを躊躇していると、兵士は怪訝そうな顔でこちらを見ているのがわかった。横からはミランダからのきつい視線が注がれているのを感じる。

 非常に気まずい空気が流れた。


「…………」「…………」「…………」


「ああ、ありがとう。わざわざすまないな」


 結局二人からの視線に耐えかねて、アルタイルの種を受け取ってしまった。そうして兵士を背に向け、二人で再び跳ね橋を渡っていく。ミランダは意気揚々と、俺は下を向き絶望した雰囲気を感じながら歩いて行く。

 人間というものは、性格というものは、そう簡単に変われる訳ではないらしい。

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