暗影
さらに数時間が経過した。
一向にルーラン草が見つかる気配はなく、俺たちは焦り始めていた。
モンスターとの戦闘はないわけでもなかったが、どれも楽に戦える魔物ばかりだった。それほど強い敵はおらず奇襲の末あっさりと倒すことができていた。
しかし肝心のルーラン草が見つからない。
俺が丘の一帯を探していると、離れた位置にいるミランダから怒声が飛んできた。
「勇者、そこはさっき探したわ! 効率よく探さないと駄目よ!」
俺は「はい!」と言って、他の丘へとすっ飛んでいく。だが、すでに彼方此方探し回っており、どこを探索したのかも覚えていない状況だった。
そういうわけで、ミランダに全員徴集され、少し議論を交わすこととなった。
「まだ明るいけれど、そろそろ徐々に暗くなっていくわ。これから暗くなるに当たって、二人の心構えや意見が知りたいのだけど、聞かせてくれる?」
意識高いミランダは、議論が大好きだ。
丘の上でやることもないとも思うが、彼女は方針を決めておきたいのだろう。
「意見と言ってもな。とりあえず、完全に見えなくなる夜までは探して、真っ暗になったら、テントでも立てて、また朝に備えればいいんじゃないのか?」
さすがに一日で諦めるのは早すぎるだろう。まだ探そうという意思を見せるための発言だったのだが、ミランダにキツい視線を向けられる。
「勇者。そんないい加減な計画を立てていたら駄目よ。暗くなるに当たってその詳細を考えるべく、話し合おうという場なんだから、もう少し建設的な意見を出して頂戴」
普通に怒られた。
どうやら俺の意見は、適当すぎたらしい。次にアイリが意見を出す。
「そうですね。暗くなると奇襲を受ける可能性が高くなると思いますので、バラバラで探すのは危険だと思います。これからは三人で一緒に動いていくのがいいと思います。テントの場所も、ミンクの丘から少し離れた位置に設置した方が安全だと考えます」
「テントの場所を離れた位置にするのはどうして?」
「今はまだ大丈夫ですが、ミンクの丘は危険な魔物が多く出ると聞きます。そうなると魔除けも効きませんし、休息する場所としては不適切だと思います」
「アイリさんは、テントの設置場所はどこが適切だと思う?」
「はい。理想的なのは昨日テントを立てた場所ですが、そこまで戻ると時間的に勿体ないです。ですので、今日私たちが休憩した森の前辺りまで移動して、休むのがいいのではないでしょうか」
ミランダは満足げに頷く。
アイリの意見に好感を抱いているようだった。
俺はさすがアイリだなと思いつつ、二人がなんだか面接でもしているようで嫌だった。
ミランダは俺を見て、「これよこれ」とでも言わんばかりの目を向けてくる。
「アイリさんの言ったとおり、これからは段々視界が悪くなるだろうから、共に行動する必要があるわ」
「そうかよ」
「アイリさんの意見に付け加えるなら、ミンクの丘から離れるのは、陽が沈みきる前でいいと思う。暗くなってからの移動はやはり危険だと思うわ。これからは三人で移動して、頃合いを見て、さっき休憩していた場所まで戻る。勇者、それでいいわね?」
結局、俺はほとんど意見を挟めないまま、決められたような形になる。まあ、別に構わないのだが。
「ああ、わかった」
特に問題ないと思った俺は承諾する。そうして今度は三人で丘を探して歩いていくこととなった。
俺が先頭で、ミランダ、アイリと続く。
単独で捜索していた時は清々として気楽だったが、再び後ろにミランダが付くことで、一気に心に重圧がかかる思いだった。
辺りをしっかりと見回し、サボっていると思われないように、ルーラン草を探していく。朝から歩きっぱなしで、さすがに疲弊してきているのだが、そうも言ってられない。いい加減に捜索していることがバレて、また夜にテント内で反省会とか始められたらたまったものではない。
だが、同時に動くことで効率も悪くなった。見落としは少なくなるのかもしれないが、やはりバラバラで探した方が効率はいいのだ。
結局三人で歩いて探索していくが、見つけることができない。
特に会話もなく更に二時間が経った。
辺りが夕日によって赤く染まっていく。丘陵地帯から見える夕日はより神秘的に映り壮観ではあったが、それは我々の活動時間限界の合図でもあった。
「ミランダ、そろそろ戻っ……」
俺がそう言い、後ろのミランダに目を向けると、ミランダは遠くの方に視線を向けて硬直していることに気がついた。アイリも同様に、ミランダと同じ場所に視線を固定させていた。二人共、顔が若干恐怖の色に染まっているように感じた。
一体何事かと思って、俺も同じように視線を凝らしてみる。
すると……。
夕日に染まった上空に、黒い生物が羽ばたいているのが見えた。その黒い生物はこちらに近づいているようで、徐々に正体が明らかになっていく。
横に長い翼を羽ばたかせ、真っ黒い硬質で強靱な皮を纏った巨大な生物。赤い目は無機質に俺たちを見ており、真っ直ぐこちらに向かってきている。
俺たちが最も遭遇したくなかった魔物。俺はその名を口にする。
「ブラックヒドラか……」
これまで遭遇したどの魔物とも比べるべくもない。規格外の大きさに威圧感。俺はどこか現実ではないかのように、ただその近づいてくる黒い物体を眺めてしまっていた。




