アウェイ&ヒット作戦
テントを撤収し、俺たちは再びミンクの丘へと向かうこととなった。
朝陽は輝かしく、平原に落ちた陽光が、鮮やかに草花を映し出していた。同じ場所であるはずなのに、夜に感じた不気味さは一切感じず、今日もまた清々しく一日冒険が始まるのだと感じさせてくれた。
先頭は変わらず俺。二番目に目を光らせたミランダが並び、最後尾がアイリだ。
前日にあまり眠れていないようだったアイリを心配でチラリと見たが、見る限り彼女が疲れている様子は感じられなかった。冒険による気分の高揚なお陰なのか、あるいはここで頑張って俺たちに付いていきたいという現れなのか、いずれにしても精神的にも充実しているのだろう。この分だと今日一日、体力的には特に問題ないように思われた。
ミランダはいつも通りやる気満々の様子だった。テント撤収の際にも張り切っており、ペグ回収の時や、テントの折り畳み方までも厳しく口出ししてきて、俺は早朝から疲れてしまった。
「勇者。いよいよ今日はミンクの丘に着くはずよ。昨日まではそれほど凶悪な魔物とは出くわさなかったけれど、ミンクの丘ではそうはいかないはず。昨日以上に引き締めていかないと駄目よ」
テント撤収後、旅立つ前にミランダは声高だかに言った。基本的に手を抜きがちな俺は、必要以上にミランダに釘を刺される。余り信用されていないのかもしれない。
とはいえ、さすがの俺もミンクの丘ではある程度の緊張感を保っているはずだった。いつブラックヒドラに遭遇するかわからないし、それ以外にも危険なモンスターは徘徊しているのだ。
ただ、ミランダは、前日の俺とアイリの会話に関しては特に言及してこなかった。俺たちの会話を間違いなく聞いていたはずなのだが、まるで知らないという風に黙認してくれている。規律に厳しい彼女は、交代時間を無視して会話しにいったアイリを叱責してもおかしくはなかったが、その様子は全くない。むしろアイリを気にかけている様子で、前日と比べてもどこか優しさすら感じてしまうほどだ。
アイリは前日に悲愴な過去を語り、その上で俺たちと共に魔王を討伐したいと語った。もしかしたらミランダは、そんな彼女に感銘を受けたのかもしれない。動機としてしっかりしているし、アイリは人格としても文句なしだ。彼女を仲間にするのを否定する要素は何も無いように思えた。
「さあ、勇者、必ずルーラン草を手に入れて、アイリさんの父親を救って差し上げましょう。三人が力を合わせれば不可能なんてないはずよ!」
草原を歩いている彼女は、俺たちを鼓舞するかのように言い放った。やはりいつもより張り切っているように思える。新たな仲間の予感に心が勇んでいるのかもしれない。俺としては、単なる精神論に過ぎない気がして、げんなりするばかりなのだが、ミランダは異様にハッスルしている。こういう体育会のノリは勘弁して欲しい。俺は陰キャなため、暑苦しいのは勘弁だ。
「はい、頑張ります!」
アイリは俺とは違い、ミランダの言葉を受けて力強く返事を返す。俺より眠っていないはずだが、俺より元気に見える。
自分で言い出した手前、ある程度は頑張るつもりでいたが、二人の気力に圧倒されていた。なんだか場違いな場にいる気がして、虚空を感じてしまっていた。
平原を歩いていく俺たち。すると、魔物が目に入る。
手に槍を持った緑色の肌をした小さな魔物。コボルトだ。
コボルトは、四匹ほどが並んで二百メートル程先の方を歩いている。どうやらこちらのほうにまだ気がついていないようだった。
そこで俺はミランダに耳打ちをし、遠隔攻撃による炎魔法を次々に繰り出してもらった。無数に飛んでいく魔法はコボルトに向かっていき、無防備な体や頭部に当たる。
直撃した三体は倒れ、一匹にはぎりぎり躱されてしまった。一匹だけになったコボルト。どうするのかと思いきや、不意を喰らったためか、恐れ戦いた表情でこちらを見た後、いそいそと逃げ出した。いきなり仲間を倒され、勝てる見込みはないと判断したのだろう。
だが、そのまま逃亡を許すほど俺はお人好しではない。必死に逃げるコボルトを追って行き、ツーハンデットソードを背中に向かって振り下ろした。逃げに徹しているコボルトは反撃することもままならず、俺の攻撃によってその場に卒倒する。さらに、その剣をコボルトの心の臓に向かって突き刺して絶命させる。
「これがグレイブ・アグストリアの戦い方だ!」
なんで叫んだのか自分でもよくわからないが、高らかに勝利宣言をする。正攻法で倒そうとも、卑怯な戦法で倒そうとも、同じ勝利だと思っている俺は、勝ち方には拘らなかった。
その後先ほどミランダの炎によって倒れたコボルトたちにもトドメをさしていった。残酷だと思われるかもしれないが、仲間を呼ばれると非常に面倒な事態になりかねないし、背後から急に襲われてはたまったものではない。
平原のような広い地帯では、今後こうした戦い方が主流となっていくだろう。基本的に遠隔攻撃によって弱らせていき、向かってくれば、全員で下がりつつ魔法を打って近づかせない。逃げだし始めれば、今度は俺が追っていき背中を剣でたたき切る。こうすればほとんど危険に合うこともなく倒せるはずなのだ。
名づけて『アウェイ&ヒット作戦』。レッドオオバリバチのように大群で現れない限り、この作戦でほとんど危なげなくいけるはずだ。
その後も似たようなシチュエーションでどんどんと敵を倒していく。俺たちは三人が三人とも緊張を張り詰めて歩いているため、まず俺たちが先手を取ることができた。
アイリが、若干引いていたような気もするのだが、手を抜くわけにはいかない。魔物と正々堂々と戦う気は、俺にはさらさらないのだ。
危なげなくもなくも着実に進んで行く。
短い洞窟を通り、橋を渡り、再度平原を歩いていく。会話らしい会話も特になく、周囲をギョロギョロ三人が見回しながら歩いている様は、端から見れば異様に映ったことだろう。
その状態でしばらく歩いていると、ミランダが「ここで少し休憩をしていきましょう」と見通しの良い木陰を指さして言った。戦闘を何度かこなし、歩きつづけていたため、疲れていた俺は「そうだな」と同意する。アイリもどこか安堵した様子だ。木陰まで移動し、そこで休憩を取ることとなった。




