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レッドオオバリバチとの遭遇

 三人で平原を歩いていく。これまで、ずっとミランダと二人での旅だったため、仲間が増えると新鮮な気持ちだ。


 正直なところ、アイリと仲良く会話をしながら、冒険をして行きたい気分ではあったが、今は叶わないだろう。ミランダが目を光らせているため、無駄口を叩こうものならば、すぐさま叱責が飛んでくるのだ。


 かつて学舎に通っていた頃に、授業中雑談をしようものなら、終わったあとに廊下に呼び出され、教師ではなくミランダから説教を受けた。ミランダと同じ教室にいた生徒も、不幸だったように思う。彼女が教室に入ってくると、ピリッと緊張感が広がり、ざわついていた室内が静寂へと変わった。教壇の前に教師が立つと、授業を受けている者の背筋はピンと伸び、誰も会話をしようとしない。統制された秩序に、静々と受ける生徒達は傍から見ると模範生そのものに見えただろう。


 だが、俺にはその光景は異常に思えた。大半の人間は、そこまで真面目くさって、生きていたくないと思うはずなのだ。教師達はそんなミランダの姿勢を称賛し、頼りきっていたし、異様な緊張感こそが正しいという空気が学舎内には流れていた。


 他の生徒からミランダの評判を表立って聞いたことはなかったからわからないが、俺と同じように思っていた人は絶対にいたはずだ。


 しかし、陰口さえ許されない雰囲気に、表面上はミランダを慕っている人が多かったように見えた。確かに勉学や戦闘面では非常に頼りになるし、畏敬の念を抱く人が出るのもわかる。とはいえ、それで全ての人間を従わせるのは如何なものだろうか。俺は、真面目なミランダと共に生きてきたため、自分自身が間違っているのではないかと考えることも多々あった。周りの大人はミランダを賛美するし、実際に周りの成績も飛躍的に伸びている。だが、俺はずっとそんな環境が息苦しいと感じてしまっている。


 俺がぼんやりとそんなことを考えながら先頭を歩いていると、叱責が飛んできた。


「勇者、ぼんやりしないで。もう、いつ魔物が出てもおかしくないわ。警戒を怠らないで」


 俺の意識が余所へ向けられていたことが悟られたのだろう。普通に怒られてしまった。

 俺は、即座に周囲に気を配る風な動作を見せた。


 先ほど「頑張るから」とミランダは言っていたため、いつも以上に張り切っているようだ。普段より語調が厳しく、今回の旅での意気込みを感じられた。正直疲れるから、あんまりやる気を出さないで欲しい。


 あるいは、アイリという新しい仲間が入ったことにより、秩序の乱れが起こるのを危惧しているということもあるのかもしれない。

 ミランダの厳しい命令を聞いた俺とアイリは、俺と同じく周囲を目ざとく見回し、警戒しながら歩いている。


 早速、ミランダの異様なまでの真面目さに当てられたアイリはどういう思いでいるのだろうか。チラリと後ろの彼女を見やると、特に不満そうな様子は感じず、緊張感のある様子で歩いていた。今回のことで旅嫌いにならなければいいのだが。


 冒険や旅と聞くと楽しいイメージが湧く人も多いように思う。

 果てしのない大地に、広大な海。青々と輝く植物や珍妙な動物たち。新しい街の壮観な景色。新たな出会いに焦がれる人もいるかもしれない。夢や希望を抱き、変わらぬ日々から抜け出したくて旅へ出発するものも多い。


 だが、実際は命の危険が伴うサバイバルだ。

 街から街へと移動する際に、方角を間違えたりすると大変だ。道に迷い、人気がない場所で誰も助けが来ずに餓死してしまうこともあるかもしれない。


 また、気象による突発的な災害に見舞われることもある。地震や雷、ハリケーンや台風。いずれも巻き込まれてしまえばただでは済まない。夏場は熱中症の恐れがあるし、冬場は凍傷に気をつけなければならない。過度な高温や低温により体力が奪われてしまうため、その辺りも事前に予測に入れて準備をしなければならない。


 特に魔物の増えた今では、少し街の外を出るだけでも大変な苦労を強いられてしまう。突然襲いかかられることもあるし、ちょっとした油断が死に直結する恐れもある。


 そのため、ミランダはこうして外を歩いているときは、常時集中しているようだ。また集中しているために、俺が気を抜いていることに気がつくと、さっきのように怒声が飛んでくる。


 三人が三人とも周りをぎょろぎょろと見回し、いつ闘いが起こって大丈夫なように臨戦態勢が敷かれている。これだけ警戒していれば、仮に盗賊がどこかに隠れて俺たちを狙っていても、返り討ちにできるだろう。


 折角、アイリという美しい女性が仲間に入ったのに、胸をときめかすイベントが起こりそうもない。こんな感じで、ミンクの丘まで会話は殆ど発生しないだろう。そんなことを考えていると、沈黙は突然破られた。


「勇者っ!」


 ミランダが大きな声を上げたのだ。

 俺はビクリと身体を震わせる。後ろに歩いている彼女を見た。

 今度は警戒心を解いていなかったはずだ。一体どんな理由で怒られるかと思っていると、彼女は遠くの方を指さしている。


「あそこ、何か飛んでいるわ。モンスターじゃないかしら」


 彼女は険しい視線で目を凝らしている。アイリもそちらの方に目を向け、それを確認したようだ。


「赤く飛行している生物が見えますね。あれは、もしかしたら……」


 離れた距離に、確かに何かがいるのが俺にも見えた。数は一体ではなく複数いるようだ。形態は判然としないが、鳥系かあるいは大きな虫か……。


 その飛行している生物は、こちらの存在に気がついているようで徐々に近づいて来る。俺たち三人に、より緊迫感が走る。


 近づいてきて、その存在が明らかになる。今回の旅で出くわしたくなかったモンスターのうちの一種——俺はその名を口にする。


「レッドオオバリバチか……!」


 数は十体以上……二十はいるだろうか。レッドオオバリバチの群れは俺たちを認識しているようでこちらに向かってきている。


 名前の通りレッドオオバリバチは、普通の蜂に比べ随分と大きい。一般男性の握り拳よりやや大きいくらいだろうか。頭部は真っ赤で、腹部は赤と黒の縞模様。見た目からも不気味さを醸し出している。


 習性は蜂に近く、集団で襲ってくるのが特徴だ。ただレッドオオバリバチの厄介な点は、巣が近くになくても人を見ると襲ってくる点。そして、非常に毒性の強い針を持っている点だ。


 アイリの父親が現在苦しんでいるように、刺されるとしばらくの間、倦怠感、発熱、吐き気、咳など風邪と似たような症状が現れる。


 今、万が一刺されてしまうと、レッドオオバリバチの毒に効く毒消し草はない。しばらく旅ができなくなる魅力は捨てがたいものはあるが、心情的に刺されたくなかった。レッドオオバリバチで苦しんでいる人間を救うために旅へ出たのに、本人が同じ病状に犯されてしまっては洒落にもならない。


 こいつは大きさ故に、動きは通常の蜂と比べても緩慢であるという点が弱点だ。アイリの父親は珍しい植物に気を取られているところを刺されたと言っていたが、恐らく存在に気がついていれば避けることは可能だったのだろう。


 向かい合っている場合であれば、回避したり撃退することはそれほど困難ではない。さらに熱にも弱く、ミランダの炎魔法の餌食だ。上手く立ち回ることができれば、一撃も攻撃を喰らうことはなく始末できるだろう。


 俺は、ツーハンデッドソードを背中の鞘から抜き、戦闘態勢に入った。


「俺が囮になる! ミランダ後方から支援を頼む。アイリも後方に下がって、俺の背後を見ていてくれ!」


「わかったわ!」「わかりました!」


 そう言った彼女たち二人は、俺から離れた。俺はまず持っていた、大きな荷物をその辺に投げ捨てる。


 そうしてツーハンデットソードを構え、レッドオオバリバチ群と対峙した。

 早速この長剣を試せるときがきた。戦闘狂というわけでもないが、新品の武器はやはり心が躍る。特に小さな頃から、憧れていた長尺武器だったため尚更だ。


 レッドオオバリバチ群は、俺に向かって真っ直ぐ飛翔してくる。

 戦闘が始まるのだった。

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