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心が荒んだ番兵

 グラリア王国から門の外へ。


 すると番兵二人が立っているのが見えた。片方の男から声をかけられる。


「ほう。お前が、本当に勇者だったとはな」男からは蔑みを向けられているような目を向けられた。「人は見かけにはよらないということか」


 開口一番、嫌味を言われる。一々こいつは、人に悪態をつかないと気が済まないのだろうか。特に俺の方から何かした覚えはないのだが、一方的に文句を言われるのはさすがに気分を害する。とはいえ、ここでこいつと口げんかをしている暇もない。


「今から、ミンクの丘へ行ってくる予定です」


「ふんっ、ミンクの丘ね」


 俺が目的地を告げると、馬鹿にしたように鼻で笑う。


「お前ら二人でどうこうなる場所じゃないとは思えないがね」


 あからさまに、俺たちでは無理だと思っているようだ。

確かに危険なことには変わりないのだが、一々気に障る言葉を投げかけてくる奴だ。俺もやる気満々というわけではないが、これから旅立とうとしている人間の腰を折るような言動は控えて欲しい。


このやる気のない番兵については、後々王様にでも告げ口をすることにしよう。王様などの身分の高い人間と話すのは苦手な俺だが、そこは頑張るつもりだ。


「厳しい旅になるということは理解しています。ですが、必ずルーラン草を持って帰り、この街の人々を救って差し上げるつもりです」


 俺の代わりに、今度はミランダが強い口調で言葉を返す。さすがのミランダも少しだけ苛ついているように見えた。やる気になっているところに、水をさされば当然かもしれない。


 少女の年齢とは思えない迫力に、番兵二人は多少たじろぐ。


「ふんっ、まあいい。行ってくるがいい。だが、ブラッグヒドラには気をつけることだな」


 仕切りなおすかのように、彼はそう言う。

 こいつと長話はあまりしたくないが、仮にもここでずっと番をしている人間だ。何か知っていることがあるのではないかと思い、俺は質問をしてみた。


「ブラックヒドラに関して、何か情報はありますか?」


「この街から、ミンクの丘へ向かった人間はそう多くはない。だが、たまに素材屋や旅人などが、貴様らと同じ動機で向かったのを見てきた。そして、そのほとんどの人間がブラックヒドラに阻まれて命を落としている。それほど危険でヤバいドラゴンだということだ」


 その程度の情報は俺も知っている。ブラックヒドラは、普通の雑魚敵とは訳が違う。巨大で翼を持ち炎まで吐いてくる。正攻法で行って、勝てるかどうかは正直五分五分というところだろうか。それにしても、こんなありきたりな情報しか出せないとは、役に立たない奴め。そう思っていると、彼は追加で情報を出した。


「だが、全ての人間が生きて帰ってこなかったわけではない。ミンクの丘は、貴重な素材が多く存在している。その素材を持ち帰ってきた奴らは、ブラックヒドラに出会わなかったか、上手く立ち回って逃げ出すことに成功したようだ。お前たちも、まともに戦うことは考えずに、逃げることを考えた方が懸命だろうな」


 端から俺たちに、討伐は無理だと言わんばかりの口調だった。


 しかしこれに関しては、多少は有益な情報なのかもしれない。確かに俺たちは、ブラックヒドラを倒すことが目的ではない。ルーラン草を持って帰ることだけが目的なのだ。現状、ブラックヒドラを倒したところで、得るものは少ない。ドラゴンの尻尾や皮は高く売れるというのは聞いたことがあるが、馬車も持たずに、ミンクの丘から素材を持ち帰ってくるのは困難だろう。すでに俺はデカい鞄やらツーハンデッドソード、アルタイルの種やらで荷物が一杯なのだ。彼の言うとおり、最初から逃げに徹していれば、生存確率は大分上がるかもしれない。


「有り難うございます。それでは行ってきます」


 心にもないお礼の言葉を口にして、出発することにした。


「せいぜい、生きて帰ってくるがいい。勇者ともあろうものが、こんなところで死ぬようじゃ、笑い話にもならないからな」


 喋れば喋るほど、性格の悪さが露呈するような奴だった。

 それでも死ぬなと言っているあたり、心が荒んでいるだけで、悪人ではないのかもしれない。


 俺は早口で「これ、昨日言っていた種です」と言い、彼らの胸当たりにアルタイルの種を投げつけた。そうして、急いで平原の方へ歩いて行く。番兵二人は「うぉっ」と驚愕していたが、完全に無視だ。


 そのまま門を出て平原へ。

 すると、後ろから付いてきた真面目なミランダに、お叱りを受けた。


「ちょっと。ちゃんと渡してあげないと駄目じゃない」


「いや、まともに渡そうとしても、受け取ってもらえないと思ってな」


 と誤魔化しておく。正直、アルタイルの種はできるだけ早く消化しておきたかった。昨日、アルタイルの国をあちこち周り種を渡し歩いたものの、まだ半分以上は残っているのだ。憂さ晴らしもしておきたかったし、丁度いいと思って投げつけたのである。少しばかりスカッとした気分だ。多分、あいつらは即座に種をその辺に投げ捨てるのだろうが、知ったことではなかった。


 俺たちはミンクの丘へと向かい、平原へと歩いていくのだった。

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