放埒だった三番目の勇者
武器屋、道具屋と周り、次はミランダの提案で、街を散策し人々と会話しようということになった。情報収集をしたいとのことらしい。
見知らぬ人との雑談が苦手な俺は、ほとんど黙ってミランダと街の人が会話をするのを見ているだけだ。とはいえ、ミランダが「こちらが勇者です」と勝手に紹介するために、多少参加せざるを得ないのが辛かった。愛想笑いを浮かべ、どうでもいいような会話に混じる。そうして、最後にミランダが決まり文句のように言うあの言葉が辛かった。
「勇者、あれを!」
いちいち会う人の別れ際に、種の説明をして渡さなくてはならず、苦痛を強いられた。種は受け取ってくれるが、みんな当惑気味のように感じてしまう。早くこんなこと止めてしまいたいのだが、袋に入った種は未だにパンパンで、まるで減っていなかった。
アルタイルの門にいた兵士が、あんな張り切って種を渡してこなければ……と思うと腹立たしい気分にさせられた。今あいつが目の前に現れたら、反射的に殴ってしまうかもしれない。
種はともかく、グラリア王国の民は俺たちに対して少し冷たい印象を受けた。ライライ村とは対照的で、歓迎されていないような心象を受けるのだ。ミランダが『勇者』と名乗った後に、露骨に表情が変わる人までいた。一瞬、俺のやる気がないことを見抜かれて、白々しい気分にでもなっているのかと考えたが、こんな短時間で感づかれるわけもないだろう。俺も、愛想笑いを頑張っているのだ。
何人かに声をかけ、冷ややかな対応が続いたため、心が折れかけていた。そんな折りに比較的に親切にしてくれるおじいさんがいた。種を渡した時も好感触で、笑顔で受け取ってくれたほどだ。思い切って、街の人が『勇者』になぜ拒絶反応を起こしているのか聞いてみた。
「昔、この街に勇者が住んでおっての。粗暴な性格で、民から物品などを巻き上げて行ったんじゃ。散々せしめておいて、魔王討伐に失敗。この街に住む者は、勇者という人物に良い印象をもっておらんのじゃろう」
この話を聞いて、俺は思い出す。
昔——といっても五年くらい前だが、グラリア王国には勇者がいたらしい。俺と同じでアグストリアの遠い子孫だった。俺の一つ前で、三番目の勇者に当たる。そういうわけで、彼も王様から命じられ、魔王討伐に行くこととなったのだ。
だが三番目の勇者は、随分と独善的な性格だったらしく、やりたい放題していたと聞いている。民家に勝手に入り箪笥を開けたり、壺を割っていく。民から金が必要だと言って無理やり徴収する。若い女性を強引にパーティーへ加えて連れて行く……など。
自分たちの街から誕生した勇者ということもあり、当時は温かく見守り、魔王討伐を信じて疑っていなかった。人々は未来の英雄に逆らうことはできず、王様も罪科を咎めることはしなかったとのことだ。
それだけ好き勝手やっておいて任務は失敗。勇者という存在を忌み嫌うようになるのは当然の帰結であるといえた。四番目の勇者も、同様の過ちを犯すのではないかと疑念が生じているのだろう。
街の人の気持ちもわからないでもないが、俺は、三番目の勇者を強く非難をすることができなかった。非業の死を遂げてしまったというのもあるが、無理に討伐を命じられ、自暴自棄になってしまうことに多少なりとも共感したためだ。
アグストリアの血族が旅立つという現行の制度は、不幸な人災であると思う。勇者一人を旅立たせるという、古いしきたりから逃れることができない民達も悪い。初代アグストリアやその後の勇者達が、少人数で行って犠牲を少なくすると言いだしたことから、ずっとその言葉に甘えてしまっている。
いつまでも過去の成功に固執するのは問題だと思うのだが、当事者から一緒に死にに行くぞという発言は、中々口に出せるものではなかった。また、ミランダ自身がやる気一杯であるがため、俺まで鋭気ある若者と見なされていることも、不幸な要因の一つであったのかもしれない。
いずれにしても、この街で俺たちに対し、なぜ拒絶反応が出ているのか知ることができた。そのことに謝意を述べると、おじいさんは意外なことを言いだした。
「けれど、お主なら魔王の討伐が可能だと思っとるんじゃ」
これまで、散々無責任な言葉を投げかけられてきた。それに対してイライラしていた俺だが、不思議とおじいさんの言葉からは重みが感じられ、腹が立つことがなかった。年の功というやつだろうか。おじいさんは真っ直ぐ俺を見据えている。俺は申し訳なくなってしまう。いつもの俺なら適当に誤魔化して、御茶を濁すだけだ。しかし、純粋に応援をしてくれていることが伝わったため、つい本音が漏れてしまった。
「でも、俺は不安なんです。魔王は強く、過去にも三度失敗しています。俺は、前の勇者達に比べてずっと弱い。そんな人間が、世界を平和にすることなんてできるのかなって」
あまり直情的に会話をしない俺の初めての本意だったのかもしれない。さすがに、逃げ出すとまでは言えなかったが、弱音を吐いてしまった。このおじいさんには不思議と、人に気を許してしまう力があるのかもしれない。
すると、おじいさんは破顔を崩し言った。
「かっかっか! 正直な男じゃな! 安心せい。わしはこう見えて、勘の鋭い男なんじゃ。昔から大事な読みは、外したことがなくての!」
弱気な俺の発言にも、笑って返された。
とはいえ、今度ばかりは、その鋭い勘も外れてしまうなと俺は思ってしまう。今も、我が身可愛さに、逃げ出してしまおう画策しているくらいなのだ。
申し訳ない気持ちがありつつも、おじいさんに激励を受け、その後去っていく。
後ろから、そんな会話を聞いていたミランダ。じと目で見られている気がしたが、俺は無視した。




