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目標設定(PDCA)

 店を出ると、再び活気のある喧騒が耳に流れ込んでくる。

 結局、武器屋の店主は、戸惑いながらも種を受け取ってくれた。俺的には迷惑な気もするのだが、ミランダは止めるつもりはないらしい。


「なんで武器屋に寄ったんだよ。俺たち金持ってないんだから冷やかしになるじゃないか」


 店を出てから、さっそく俺はミランダに不平をぶつける。彼女は堂々と言い放つ。


「目標設定よ」と。


「は? 目標設定?」


「ええ。何事にも目指すべき目的を作ることが大切なの。そのために武器屋に寄ったのよ。さっきの剣を買う二十五万フォルツを貯めることを、しばらくの目標にしましょう」


「さっきの剣は二十四万フォルツだったと思うけど」


「少し高めの金額設定をするところが、目標設定のコツよ」


 揚げ足を取ったつもりだったが、にべもなく返される。

 彼女の意見を聞いて、ここへ立ち寄った本当の理由がわかった。

 

 意識の高い彼女は、ゴールを設定することが大好きなのだ。

 昔から彼女は、方針を立てて、それに向かって努力することを俺に強いた。比較的高めに置かれた設定は、いつも俺を苦しめた。


 例えば、筆記試験で八十点を目指しましょうといって、具体的な計画を立てていくのだ。勉強時間を決められ、苦手箇所を復習させられ、監視までされた。ここまでするならいっそのこと、もっと高い点数「百点じゃなくていいのかよ」と言うと、「実行不可能な設定は逆効果よ」と冷たくあしらわれた。俺には、頑張っても無理だと言いたかったのだろう。失礼な奴だ。


 結局、やる気がなかった俺は、大体目標に届くことはなかった。そこで終わればいいのだが、ミランダが許さない。PDCAが重要だと口を酸っぱくして言ってくるのだ。


 PDCAとは、PLAN(計画)、DO(実行)、CHECK(評価)、ACTION(改善)の略で、繰り返しを行うことで、問題点を解決していく手法のことである。

 目標に向かって『計画』し、『実行』し、終われば『評価』を行う。ミランダ曰く、最後の『改善』が最も重要らしい。目標に届かなかった場合、俺は呼び出され、徹底的に次回改善についての反省会が行われた。最も根本的にやる気のない俺に、改善もなにもなかったわけだが。


 なんにしても、そんなことを繰り返していたお陰もあってか、生きるための知識がついたのは怪我の功名というべきなのかもしれない。勉強の過程で、冒険に関する知識だけは、不思議と頭に入ったからだ。特に魔物の種類や弱点、アイテムの種類など無駄に知識を得てしまった。


 ともかくも、今回武器屋で魔具を見にいったのは、最初のPLAN(計画)を立てるためだったのだろう。今後どういったDO(実行)を起こしていくのかは知らないが、二十四万という途轍もない金額から、過酷な金策になることは間違いない。俺は、今からげんなりとする思いだった。



 その後、道具屋に行き、洞窟で手に入れたアイテムを売りに行く。不要な装備品や素材、使うことがなかった毒消し草などを鑑定してもらった。しかし、思った金額より随分と安く見積もられ、中々に苦労することとなった。


「ちょっと待て、全部合わせて、最低でも二百五十フォルツくらいにはなるはずだ」


「これとこれに随分と傷がついているアル。中古品は基本的に高く買い取れないアルよ」


「いや、それほど状態は悪くないはずだ。中古品でも高値で売っているのを見たことある」


「店に置いてある物と。売値では差が出るのは当然アル。受け入れられないなら、売るのを諦めるアルね」


 道具屋も、少しでも安く買い取ってやろうと必死なのだろう。背の低い子供のような店主に淡々と言い放たれた。こちらの文句に対しても頑なに譲る気配を見せない。それでも、俺には俺の生活がある。簡単に安値で捌いてしまっていては、今後に支障が出ると考えて、別の道具屋にも鑑定しにもらいにいった。


 グラリア王国には三店舗ほど道具屋が存在している。小さな村や街とは違い、どの道具屋も置いている種類が幅広い。残りの二店舗でもう一度見積もってもらい、金額を聞くと、どうやら一番始めに行った道具屋は、予想通りかなり安く買い取ろうとしていたことがわかった。


 ここで売っても構わなかったのだが、最初の道具屋に戻って不平を鳴らしに行った。


「東にある店で聞いたら、二百五十フォルツで買い取るって言っていたぞ」


 根に持つタイプの俺は、ただ苦情が言いたいだけのために戻ってきた。しかし、全く悪気のない様子で、店主は新たに金額を提示した。


「じゃあ、二百六十フォルツで買い取るアルよ」


「は? さっきは百三十フォルツって、言ってたじゃないか」


「道具屋も間違えることもあるアルよ。さあ、どうする? もうこれ以上は高く買い取れないアルよ」


 最初の出来事などなかったかのように堂々とした物言いだ。

 そこで、俺は再び別の二つの店舗に行き、交渉を迫ることにした。すると、こちらでも値段を告げると、更に高値で買い取ると言いだした。どうも道具屋三店舗は、それぞれが他の店に対抗意識を燃やしているらしい。値段を聞き、再びまた低身長の店主の所に戻ってきた。


「二百八十フォルツで買い取ると言っていた。だから向こうで売ってくるぞ」


 俺としてはただこの小さな店主に不満があって、決意を表明しただけだった。だが、顔色一つ変えず、店主に引き留められる。


「わかった。お客さんには負けたアル。三百十フォルツで買い取るアルよ。本当にこれ以上は無理だから、他で売るっていうのなら、もうそっちで売って欲しいアル」


 もう少し吊り上げられそうな予感はしたが、結局ここで売却することに決めた。この功利的な男は、なんだかんだで商売上手なのかもしれない。もう買い取らないぞというニュアンスで脅されると、金の必要な人間はすぐに手放してしまいたくなるものだ。


 ともかくも予定していたより高めの金額で売れたのだから、一先ず満足するべきだろう。無駄に動いた割に、そこまでの金額にはならなかったが、数日分の宿代くらいにはなる。とはいえ、二十五万フォルツというとんでもない金額に対しては、ほとんど足しにもならないような額でもあった。

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