傲慢な番兵
洞窟から出て、空を見上げると随分と眩しく感じてしまった。薄暗い洞窟の中に長時間いたためだろう。思わず目を細め、手で顔を覆ってしまう。まだ昼間らしく、燦々と太陽が平野を照らしていた。視界には緑が一杯に広がっている。巨大な雲が所々に大きな影を落としており、改めて自然の広大さを感じてしまう。
若干高くなっているこの場所から、俺たちの目指すグラリア王国も視認することができた。街をぐるりと高い石壁が囲っている大きな都市。さらに城壁よりも高い城も見え、それは巨大な都市国家であることを象徴しているかのように思えた。
「あれがグラリア王国ね。さあ、早く、入り口の門まで向かいましょう!」
先ほど起こった惨事のことなど記憶から消えているのか、ミランダは快活な様子でそう言った。
正直、これからライライ村のように人々と接したり、王に挨拶を行かなければならないことを考えると、今から気分が滅入る思いだった。それでも、行かないわけにもいかない。俺は、ミランダと共に平野を歩き始め、グラリア王国の門の方まで向かうのだった。
王国の入り口まで来ると、甲冑を着た番兵が二人、門の前に立っていた。見るからに不機嫌そうな表情は、余所者を排斥してやろうという雰囲気を漂わせている。俺たちを見るなり、彼らから胡散そうな視線を向けられ、持っている槍で俺たちを威嚇してきた。
「なんだお前等は」
雑に言い放つ口調からは、友好的な感情は一切持ち合わせていない。ミランダが言葉を返す。
「私たちはアルタイル国からきた勇者とその仲間です。旅の途中でこちらに寄らせてもらいました」
「ゆうしゃだとぉ?」
番兵は訝しげに俺を見やった。明らかに見下している彼の態度からは、こんなやつがほんとうに勇者なのか? とでも言いたげである。まあ、俺は実際やる気がなく、背格好もがっちりとしているわけでもないため、頼りなく見られるのは仕方がないのかもしれない。
「ええ。それで王様にご挨拶をしようと考えているのですが、通してもらえますでしょうか?」
ぞんざいな扱いに多少苛立っているのか、ミランダも強気に対応する。屈強な番兵二人相手に、こうした勝ち気な態度で出る性格はさすがである。
彼らはミランダのキツい視線に少し怯んでしまったのか、向けていた槍を戻し言った。
「ふんっ、まあいいだろう。勇者が旅立つという話は聞いている。通るがいい。だが、万が一おかしなことをしたら、すぐさま叩きだしてやる。覚悟をしておけ」
アルタイル国やライライ村との対応とは随分と違い、勇者という存在に対しても、あからさまに歓迎していないといった風だった。ともかくも、問題なく中には入れるようで、一先ず俺は安心する。
「心得ています。ほら、勇者」
「ああ」
と言って門の中に入ろうとした俺を、ミランダは止める。
「違うでしょ。勇者、あれよ」小声で耳打ちするミランダ。
「あれ?」
「種よ。お渡ししてあげて」
「……え?」
どうやらミランダは、この二人にもアルタイルの種を渡せと言いたいらしい。しかし、俺は戸惑ってしまった。番兵二人は俺たちを明らかに疎ましく思っており、これまで歓迎してくれた人たちとは訳が違うのだ。渡したくなかったが、ミランダの意見に逆らうこともできなかった。仕方なく袋から種を取り出し、番兵に近づき、渡そうとする。
「なんだ、これは?」
「えっと、これ種です。配って歩いています」
俺はそう言って差し出すが、冷たくあしらわれる。
「いらん、いらん、種なんか。王様は城内にいるはずだ。城の兵士に、謁見できるか訊いてみるがいい。忙しくなければ、会うことも可能だろう」
手を適当に振り、面倒くさそうに断られた。
拒否された以上、諦めるより仕方がない。二人の間を縫うようにして、門を通っていくことにした。俺としては別に種渡しなんかどうでも良かったし、止めてしまいたいぐらいだったのだが、拒絶されるとそれはそれで傷ついた。
ミランダは不満そうな顔をしつながらも、俺の後ろからついてくる。全く歓迎されないまま、グラリア王国内部へ入っていくのだった。




