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吸血コウモリ襲来!

 洞窟攻略まで、間もなくのようだ。歩いて行くと、先の方に光が差し込んできているのを、目視することができた。洞窟の出口だ。出口付近はドーム型のように広い空間になっており、開放感を感じることができた。


 俺は閉所恐怖症でもなんでもないが、それでも洞窟のような閉鎖的な場所に長くいると息が詰まりそうになるのを感じていた。そのため、出口が見えた瞬間、自然と足早になっていた。ここを抜ければすぐにグラリア王国だ。


「勇者っ!」


 ミランダが突如、後ろから叫び声をあげる。

 彼女が何故、叫んだのかすぐに察した。前方から黒い影が、俺目がけて飛んできていたのだ。バサバサという音と共に首目がけて飛んでくる生物。俺は右斜めに飛んで躱し、剣を抜いて反撃を企てる。……が、こちらの攻撃も当たらなかった。そいつはそのまま、洞窟の上部へ飛んでいき、天井に張りついた。


「俺としたことが、こいつらを忘れていたか……」


 出口付近となって警戒感が薄まったのは否めない。そのため、先手を取られてしまう失態を犯してしまった。

 今飛んできた奴以外にも、多くの出迎えがいるようだ。よく目を凝らして見ると、頭上に二つの怪しい目を携えて、こちらを見ている黒い影が複数いるのがわかった。何体いるのかまではわからないが、三十以上はいるだろう。天井に足で掴まり、羽をマントのように前へ持ってきている。無機質な目でこちらを見てくる様は不気味としかいいようがない。


「吸血コウモリか」


 俺はこいつの名をぼそりと呟いた。

 吸血コウモリは、普通のコウモリよりもやや大きく、鋭い牙を持っているのが特徴だ。単体ではそれほどの脅威はないが、こいつらの恐ろしいところは集団で襲ってくるところにあった。名前の通り、生きている人間の血液を栄養とし、対象の相手が死ぬまで攻撃してくる恐ろしい魔物だった。


 走って出口まで向かうにもまだ少し距離があり、しかもこの数だ。全てを躱しながら出口へ向かうのも困難だろう。また、無事出口を出られたとしても、後方から襲撃される恐れも十分考慮に入れなければならない。そうなると、……やはり戦うしかない。


「勇者……」


 不安そうに声をかけてくるミランダ。


「ミランダはここで待機していてくれ」


「え?」俺の案に、疑問そうに問い返される。


「俺が引きつける。合図をしたら魔法を放ってくれ」


 そう言って、俺は前方の方へ飛び出した。


「勇者っ!」


 ミランダは無謀だと感じたのか声を上げるが、次の瞬間には詠唱を唱え始めていた。俺の意図するところがわかったのだろう。勘のいい奴だ。

 正直、危険を冒さずにもっと楽に勝ちたかった。とはいえ、先に発見されてしまった今ではこの方法が一番手っとり早いのだから仕方がない。


 俺が中央に行くと、一斉にコウモリ達が襲いかかってきた。黒い翼を持つ大型のコウモリがこちらを目がけて飛びかかってくる様は、それだけで怖気が走る気分だった。俺はバックステップをしながら壁側へ移動していく。


 一斉に……とはいっても速度的にはややばらつきがある。俺は最初に手前まで近づいてきたコウモリを、まずは剣で薙ぎ払う。見事命中して、そいつを地面に落とすことに成功した。だが、とどめを刺している余裕はない。そのまま壁まで走って行き、岩場まで来ると今度は反対方向の壁までダッシュした。


 中央に留まったまま戦うと、コウモリに囲まれる危険性があった。一体一体はそれほど強くないとしても、背後から狙われてしまっては対処のしようがない。その点、こうして壁の端から端まで動くことで、敵の移動は一律に変わる。直線上で飛んでくれば、先頭にいるやつを地道に一匹ずつ剣で攻撃できるという腹だった。反対側に移動しながら、俺はもう一度、襲ってくるコウモリに向かって剣を振るった。見事に頭から入り、真っ二つに裂けて地面へと落ち絶命した。


 仲間のその様を見ていたのか、動きが若干鈍るコウモリ達。その隙に再び反対側へと移動していく俺。


 壁までダッシュし、途中で一番先頭にいるやつを切り落とす。

 そうして、壁際まで来ると今度は反対方向にダッシュして、同じ動作を繰り返す。こうして一匹ずつを確実に仕留めていった。


 とはいえ、これでジワジワと敵の戦力を落とそうと考えていたわけではない。数が数であるし、こんなことを繰り返していたら俺の体力が持たない。また、どこかでミスが生じ、打ち損じが出ると攻撃を受けてしまうかもしれない。万が一、俺の動きが止まってしまうことになれば、一斉に襲いかかられてしまうこと間違いなかった。


 何度目かの壁際に付き、俺はタイミングを計って、今度はミランダの方に向かって全力でダッシュした。


「今だ! ミランダ撃て!」


 俺が彼女に向かって走ると、当然コウモリはそちらに向いて移動してくる。俺は背を低くしてぐるりと一回転して、ミランダの後ろに回った。複数のコウモリは直線上にこちらに向かって飛んできていた。ミランダは待ってましたとばかりに杖を掲げる。


「炎の精霊の御名を借りて私は始め、神エセレンテによって邪悪な者を打ち滅ばさん——全てを焼き尽くせ、ラートゥムイグニス!」


 ミランダが呪文を唱え終えると、杖から出た炎が、前方広範囲に渡って放たれる。一直線に飛んでくるコウモリ達は、炎に飲まれ悲惨な断末魔を上げ、次々と燃えていく。彼女の前方には、巨大な炎の海ができており、天井まで埋め尽くしていた。これでは、こちらに向かってきていない敵がいてもひとたまりもないだろう。


 意識が高すぎるミランダ。

 誰よりも努力家の彼女は異様な頑張りによって、アルタイル国の中でも右に並ぶ者がいないほどの魔法使いとなった。彼女の放つ魔法は凄まじく、大抵のモンスターは一発で屠れるのではないかと思わせるほどだ。味方にいると頼もしいが、それだけに脅威にもなり得た。こいつには逆らうことができないと思わせてくれるからだ。


 洞窟内にあれほど多くいた吸血コウモリは、悲惨な状態で地面に散らばっている。未だ燃えつづけている多くのコウモリは、今起こった魔法の苛烈さを如実に表していた。思わず、さすがですミランダさんと、太鼓持ちしたい気持ちにさせられる。


 今の魔法攻撃でコウモリ達は全滅したようだ。

 倒れている可哀想なコウモリ達を俺が見ていると、「勇者、大丈夫?」と言って、ミランダに心配の声をかけられる。


「はい……。さすがです! ミランダさん!」


 反射的にヨイショしてしまった。あまりの威力に、俺まで萎縮してしまったかのようだ。


「なんで敬語なのよ?」


「いや、なんでもない……。それじゃ出口に向かうか」


 誤魔化すように俺がそう言うと、彼女は不審な視線を向けていることがわかった。一瞬、俺の言動がおかしいと思われているのかと思ったが、そうではなかった。彼女は俺の後ろの方に目を向けている。「ミランダ?」と訊く俺。


「勇者、後ろ!」


 彼女は、俺の背後に注意を促した。

 背後を振り向くと、一匹のコウモリが襲いかかってきていた。頭から血を流し、鋭く尖った歯を剥き出しに攻撃してくる様は、ヴァンパイアを彷彿させた。

 こいつは最初に打ち落としたコウモリかもしれない。地面で気絶していたため、ミランダの炎魔法『ラトゥームイグニス』を免れたのだろう。


 振り向いた時には時既に遅く、奴の鋭い歯が俺の首に目がけて飛んできていた。剣で反撃するにも盾での防御も間に合いそうにない。俺はダメージを喰らう覚悟をする。鋭い歯から察するに痛みはあるかもしれないが、致死には至らないはずだ。こいつは単体ではそれほど脅威ではなかった。

 しかし、何を焦ったのか、ミランダは大急ぎで詠唱を始めた。


「烈風を司る神霊よ。邪悪なる魔物を吹き飛ばし、我らを守りたまえ! インペトゥスウェンティー!」


「ちょ……まっ……」


 俺は止めるよう言葉を発したが間に合わなかった。彼女の杖が光ると同時に、俺の身体はコウモリと一緒に吹き飛ばされていた。ミランダが唱えた魔法。以前、俺が叩き起こされた時に使われた風の範囲魔法だ。


 俺は宙に浮きながら、自宅から吹き飛ばされた時のことを回想していた。大事な俺の部屋に穴が開き、旅立ちが始まったあの日……。思い起こせばあの時から、俺の不幸な日々は決定されていたのかもしれない。


 不幸な俺とコウモリは飛ばされていき、やがて壁に激突した。まずコウモリが岩壁に叩きつけられ、その後が俺だ。コウモリを尻に敷く形で衝突する。


「痛てっ!」うめき声を上げ、壁に当たり、その後地面に尻餅をつく。なんとか無事なようだが、痛みはかなりのものだ。骨などに異常があるかもしれない。切り傷などであれば薬草などで治癒できるが、内部の怪我となるとそうもいかない。僧侶の回復魔法であれば治せると思うが、今はいなかった。


 足元を見てみると、吸血コウモリが絶命しているのがわかった。苦悶の表情を浮かべ死んでいる。壁に激突した上に、顔面にヒップ攻撃まで加わっているから当然だろう。俺に襲いかかってきたモンスターだが、仲良く一緒に吹っ飛ばされたことで、妙な同情心が沸いてしまった。


「勇者、大丈夫⁉」


 ミランダが駆け寄ってくる。俺は反射的に身構えてしまった。

 彼女は、俺の身体をざっくりと調べた後に「良かった怪我はなさそうね。さあ、行くわよ」と言った。見える部分だけを気にして、見えない部分はおかまいなしだ。


 ミランダは昔からこういうところがあった。モンスターとの戦闘中、イレギュラーがあると焦ってしまうのか、俺もろとも魔法をぶっ放すのだ。こいつの魔法は強力で、何度も巻き込まれ危険な目に遭いかけた。自身の力を過小評価しているのか、俺の防御力を過大評価しているのかはわからない。いずれにしても、戦闘中は極力こいつから離れて戦おうと心に決めた。油断していると『ミランダによって倒された四番目の勇者』になりかねない。


 俺は節々の痛みに耐えながら、洞窟の出口へと歩いて行くのだった。

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