洞窟内にはお宝(遺品)が一杯
ライライ村から広野に出て、そのあと洞窟へと向かう。洞窟を抜けると、すぐにグラリア王国へと出られるようになっており、急ぎの用がある者には大変便利な抜け穴となっていた。
元々、この洞窟は人工的に造られた通り道だったらしい。かつては、アルタイル方面からグラリア王国へ向かうには、大回りするしかなかったらしく、大変不便だったと聞いている。開通当初は、民達から喝采の声が上がったらしいが、狭い洞窟は居心地が良いのか、いつの間にかモンスターの巣窟となった。そのため今では腕の立つ冒険者か、どうしても急いでいる商人などが利用するだけになっている。
俺は強いわけでもなければ、急いでいるわけでもないのだが、せめてこの洞窟くらいは攻略しておきたかった。戦闘経験をある程度こなしておかなければ、いざ強力なモンスターと出くわした時に困ることになる。また、今後逃げ出して一人で自活していかなければならなくなった時、それなりに強くなければ話にならないだろう。
ミランダの考えはよくわからないが、重要な選択は勇者の決定が最優先だと思っている節がある。形式に拘っているのか、あくまで補佐に徹したいのかわからないが、細かいことに口出ししてくるくらいなら、全部決めてもらってもかまわないのであるが。
いずれにもしても、俺が洞窟から行こうと決断したことで、方針は決まった。気がつくと二人は、洞窟前までやってきていた。
目の前には、岩山に開けられた大穴が空いており、禍々しい雰囲気を漂わせていた。巨大な穴ぼこからは、何かよくないことが起こるような予感を受けた。基本的にやる気のない俺だが、ここへ来て若干身が引き締まる。
「勇者。それじゃ中に入りましょう! 無事攻略して、グラリア王国へ行くわよ!」
テンション高めで、ミランダが活を入れた。いちいち血気盛んな奴だ。俺は小さく頷き、洞窟内へ入っていく。
元々人が作った洞窟なため、内部には明かりが灯っている。松明などの余計なアイテムを持たずに入れるのは有り難いことだ。松明というのはそもそも熱いし、モンスターが寄ってくるし、持ちながら戦うのは不便だし、ろくなことがないのだ。
以前、模擬練習で松明を持ちながら、剣の稽古をしたことがあるが、うっかり髪の毛に炎が引火して大惨事になりかけた。ミランダが近くにいたため、氷魔法で対処してもらいなんとか火は消えたのだが、下手をすると命まで落としかねない。モンスターではなく『松明によって息絶えてしまった四番目の勇者』と後世に語り継がれるのはご免だ。とにかくも灯りがあるというのはそれだけで、ルートを選択する重要な指針になり得た。
洞窟内に入っていき、警戒態勢を取りながら歩いて行く。どうやら入り口付近には何者の気配もないようで、すんなりと進んでいける。魔物による出迎えはないようだ。
洞窟内は入り組んでおり、ちょっとした迷路になっている。元々、真っ直ぐ開通した穴だったらしいのだが、モンスターが勝手に掘り進めたり、またメンテナンスが難しいため崩落した箇所があったりで、複雑な道が形成されていた。
曲がり角では慎重に、何か出てきた時のために臨戦態勢を整えながら、地道に進んで行く。敵との戦闘では不意打ちを受けるのが一番まずいのだ。壁沿いにゆっくり進んでいき、ミランダもそれに倣う。彼女は大胆な性格だと思いがちだが、戦いとなると意外と慎重派だった。徐々に進んで行くと先の方で物音が聞こえてきて、はたと足を止めた。
「勇者っ」
彼女も気がついたようで、小声で俺に警戒を促す。頷き、先の方へ目を凝らすと、物音の正体が視界に入った。そいつは大きな蜘蛛だった。前足の二本が刃のように鋭い蜘蛛が、小動物を自身の糸にまきつけて捕えている。どうやら食事中のようだ。
背後からだが、奴の正体を瞬時に俺は悟った。カマキリグモだ。
俺は、モンスターに関して実はかなり詳しい。勉強嫌いな俺だったが、旅に出る前に相当念入りに調べ上げていたからだ。予備知識がないままだと命の危険に直結するため、本を読むなどして必至で情報をかき集めた。さすがの俺も自分の危険となると、本気を出すらしい。
ちなみにカマキリグモは通常の蜘蛛のように、獲物が糸に絡まるのを待つタイプとは異なり、積極的に動いて前肢に付いている刃で斬りかかってくる恐ろしい魔物だ。糸を口から吐き、相手の行動を制限する狡猾さも持ち合わせている。動きも素早く壁も歩けるため、こいつにかかって命を落とした冒険者も多いらしい。要注意モンスターだ。
もっとも、向こうはこちらに気がついておらず、さらに捕食中なのが幸いした。俺はそろりと足音を立てずに近付いていく。目前まで来ると静かにゆっくりと剣を高く上げ、そのまま脳天に振り下ろした。ビックリしたのか、摑まえていた小動物を離し、悶えるカマギリグモ。俺は容赦なく、続けて剣を振り下ろした。
腹に、頭にと、交互にペシペシと叩いていく。ゴキブリを叩いていく要領で、とにかく必至に攻撃を続けた。何度も続けるとぺしゃんこになり、やがて完全にカマキリグモは動かなくなった。背後からの突如の攻撃。カマキリグモとはいえ、捕食中に襲われては為す術がなかったようだ。
「ふぅ」
俺は戦闘に勝利し、安堵のため息をついた。
戦いでは卑怯だとか、悪辣だとか気にしていられないのだ。自分が弱いことは自覚しているので、これからも、できるだけ正面からの戦闘は避けていきたい。
倒したはずのカマキリグモからカランと音がして、俺はビクッとしてしまう。まだ生きているのかと思ったら違うようだ。
「勇者、これ……」
ミランダに背後から声をかけられる。死骸の横を見ると、盾が落ちていた。どうやら、カマキリグモが持っていたようだ。俺はそれを手にする。円形型の、顔よりやや大きい銅の盾だった。
モンスターと戦闘していると、こんな感じでアイテムをドロップすることがある。こうした物は売却できたり、装備品として活用できたりする大変有り難いものだ。
しかし、モンスターから手に入るアイテムの多くが冒険者達の遺品だった。モンスターは冒険者達を襲い、その一部の所持品を手にしていることがある。単に気に入るという好みの傾向があるのか、戦利品として収めたいという欲求が魔物にも備わっているのかはわからない。いずれにしても今発見した銅の盾は、この洞窟でカマキリグモに襲われていた人が、生前に装備していたものなのだろう。ちなみに強い冒険者ほど強敵にやられる確率が高くなるため、強い敵ほど高価な物を落とすことが多くなるという事情がある。
遺品を手に入れることで金銭的には助かるが、死んでいった冒険者のことを思うとうら悲しい気分にさせられた。自分自身もいつこうなってしまうかわからないのだ。
俺は、今手に入れた銅の盾を装備することにした。ブロンズ色の小盾を持つと、心許なかった左手が多少強化された気分になる。上手く使いこなせば、敵の攻撃を防ぐ役割を果たしてくれるだろう。
「やったわね、勇者!」
ミランダは深く考えていないのか、アイテム入手に喜びの声を上げる。否定するのも変な気がして「そうだな」とだけ応えておいた。
その後、再び洞窟内を進んで行くこととなった。事前に洞窟の地図を見ていたのだが、魔物達があちこち掘り進めていったためなのか、道は結構複雑になっている。また、人によるメンテナンスが難しいためだろう。崩落した箇所もあるようで、事前情報がほとんど役にたたない。右往左往しながら、行き止まりなどにも遭いながら、洞窟内を歩いて行く。その過程で、モンスター達とも遭遇することとなった。
まずゴブリンが二匹いるのを見つけた。二匹はコミュニケーションをしているようだ。真正面から戦うのは得策でないと思い、バレないように、後ろからそろそろと近づいていく俺。
手に入れたばかりの銅の盾を両手で持ち、片方のゴブリンの頭部に向かって思い切り振り下ろす。カンッと鈍い音がして一匹が気絶した。
もう一匹が俺に気づく。何事かという風に唖然となっており、脅えた瞳が俺を見上げていた。その隙に、そいつの頭部にも銅の盾を喰らわしてやる。直撃を受けたゴブリンは同じくその場に卒倒した。俺はすぐさま気絶している二匹に、銅の剣でめった刺しにしていく。
「ふぅ……さっそく盾が役にたったな」
間違いなく使い方は間違っているが、至近距離では剣よりも、盾の打撃の方が手っとり早い。簡単に倒すことができ、今後もこの作戦を組み込むことに決めた。できるだけ楽に勝つことが俺のモットーだ。
再び洞窟内を進んで行く。
次に、少し離れた場所で二叉毒マムシを発見した。俺はミランダに耳打ちをする。氷の魔法で洞窟内を冷やしてくれるようお願いしたのだ。ミランダの短い詠唱の後、杖を振りかざすと、洞窟内は急速に冷えていった。俺は厚着していないため身体が冷えてしまい、両手で肘をさする動作をする。しかしこれくらいは我慢だ。
少しすると二叉毒マムシが、巣穴に戻っていくのが見えた。一匹ではなかったようで、数匹が同じ巣穴に潜っていく。
蛇は基本的に寒さに弱い。そのため急に冷やしてやれば、たまらなくなって、暖かい場所へと移動していくのだ。とはいえ、まだ巣穴に戻ったからといって油断はできない。
俺たちは二叉毒マムシの巣穴に近づき、再びミランダに魔法を使ってくれるよう頼んだ。彼女は、巣穴に向けて先ほどより強力な氷魔法を放つ。あっという間に穴の中は凍らされてカチカチになってしまった。姿は見えないが、中にいる蛇達は間違いなく死滅しただろう。こういう毒を持つモンスターは、できるだけ直接対峙しない方がいいのだ。
さらに歩いて行く。
すると今度は、遠目に植物系の魔物が目に入った。人喰い根なが草というモンスターだ。
こいつは植物故に動くことができない。そのため近づかなければ、どうということはなかった。一定の距離を保ち、向こうからの攻撃を受けないようにミランダの遠方攻撃のみで対応する。根は長く、近づけば鞭のようなしなやかな動きで攻撃してくるが、俺は近づく気は一切なかった。離れた位置から彼女が連続で炎を放ち続ける。やがて、人喰い根なが草は燃えくずと化し消滅してしまった。
「よし、まあまあだな」
何がまあまあなのか自分でもよくわからないが、とりあえず一切ダメージを負うことなく魔物達を撃退することに成功している。自分の命がかかっているため、手段を選んではいられない。
こうして、地道ながら確実に洞窟を攻略していく俺たち。
良いことなのかはわからないが、洞窟内には冒険者が残していったものが所々落ちてあった。慌てて落としてしまったのか……あるいは死んでしまって落としていったものなのか、ともかくフォルツやら道具などを見つけ入手していく。
モンスターを倒したところで、お金が手に入るわけでもないため、こうしたアイテムはしばらく生活していく上で貴重なものとなるだろう。申し訳ない気持ちもありながらも、俺は目ざとく地面に落ちているアイテムを探していく。発見するや手早く道具袋にいれていくのであった。




