勇者は集まってくる野次馬も大嫌い
宿から外へと出た俺たち。まず向かったのは道具屋だった。
洞窟に入るにはそれなりに準備しておかなければまずい。命の危機に陥るほどの危険はないにしても、怪我をする可能性は大いにあった。そのため薬草などを買っておこうと思ったのだ。店に行くと店主が俺に気がつき、声をかけてきた。
「お、勇者さんおはよう。もう、村を出発するおつもりですかい?」
「おはようございます。はい、今から出発予定です」
作り笑いで、店主に対応する。
「そうかい。この先の洞窟に行くとなると危険なモンスターも多い。うちで色々買って、旅に備えるといい」
「ありがとうございます。そうします」
再び、作り笑いでそう言って、店の商品を見せてもらうことにする。
小さな村なため、他に店が少ないのだろう。道具屋というよりは雑貨屋といった方が正しい気がした。武器や防具なども置いてあるようだ。とはいえ、あまり高いものは購入できない。前日に馬鹿高い宿に泊まったせいで、所持金は既に二百フォルツを切っているのだ。
まず最初に、皮の帽子を一つ購入することにした。モンスターからの攻撃に対してはほとんど無意味ではあるが、日差しの影響から熱中症を予防する役割を果たす。実のところ、昨日の広野を歩いている時も、若干の暑さを感じていた。ミランダはデカいハットを被っているため平気だっただろうが、今後の旅を続ける上で必要だと思ったのだ。
それから薬草だ。切り傷や擦り傷くらいにしか意味はないが、止血は大切だ。薬草を五個ほどもらい、次いで毒消し草を見せてもらった。
毒消し草と一言にいっても、実は種類が非常に多い。毒というものは様々なタイプがあり、モンスターから受ける毒だけを取ってみても、百種類以上もあるらしい。店に置いてある種類だけでも六十種類以上もあるとのことだった。
洞窟内に出るモンスターの情報は、事前に調べてある。そのため、店主に希望の毒消し草の種類を伝えたのだが、そこからが大変だった。ラベルのようなものが張っておらず、草の見た目も似たようなものが多いため、どれがどれかわからず、ちょっとした騒動になった。
「いや、それじゃないはずだ。二叉マムシの毒消し草は、茎の部分が紫色になっているらしい」
「え〜と……おっ……もしかしたらこれですかい?」
「違うわ。この毒消し草は、シュウリングダケという毒キノコに効く成分だったはず。もう少し紫色が濃いのが探している毒消し草よ」
「……えっと、ということは……これのことですかい?」
「いや、それは、さっき見せてもらったやつだ」
こんな感じで、中々目的の毒消し草を探し当てることができなかった。ライライ村では、毒消し草があまり売れることはないのだろう。そのため適当に保管していたのだろうが、そのせいで俺たちは時間を取られることとなった。希望の毒消し草はないのかと諦めかけたところで、店舗の裏に保管してあった箱の中に目当ての物が入っていた。
「ええ、間違いないわ。これが私たちの探していた毒消し草よ」
そんなこんなで、ようやく騒動は落着した。毒は命に直結してしまう恐れがあるため、間違えるわけにはいかないのだ。皮の帽子と、薬草五個と、毒消し草二個を購入することにした。計四十フォルツ。支払いを済ませる。
お金を払う時に「勇者様からお金を貰うなんてすみません。うちにも生活がありますもんで」と決まり文句のように店主は言った。生活があるのかもしれないが、俺たちも命をはって旅に出ようというのだから、少しくらいはサービスして欲しい。本当は俺たちが魔王を倒せるとは思っていないのではないかと邪推したくなった。ともかくも無事、買い物が終わり村の外へと向かうこととなった。
村の外へと向かう途中、前日と同じように野次馬に囲まれることとなった。わらわらと俺たちの周りに人だかりができる。「勇者さん、もう旅立つのかい?」などと、気さくに声をかけられる。
どうでもいいが、俺は野次馬というのが基本的に嫌いだ。わざわざ集まって見にくる意味がわからないし、魔物襲撃とかでも見に来る奴らがよくいるのだ。こいつらは自分が楽しむことしか考えていない。危険な場所に集まって、怪我をする可能性や他者に迷惑をかけることを想像できていない。
我が国アルタイルでは、稀に珍しいモンスターが襲撃してくることがある。その度に、魔物見たさに一定数の奴らが見にいっていた。兵士がいくら注意を促しても、無視して見物に行くのだ。
「おぉ! あれが赤羽の怪鳥ガルーダか!」
「ほんとに羽が赤いわ。身体も人型よ!」
「こりゃ珍しい。兵士さんたち頑張れー」
こんな感じで、わざわざ見学をしに行ってあれこれ言葉を投げかけていた。兵士にとって野次馬は邪魔でしかないし、彼らを意識しながら戦わなければならず、迷惑千万極まりないだろう。そして、実際炎が当たり、軽い火傷をしたケースもある。臨場感を味わいたいのかもしれないが、こういう暇人のせいで兵士達はいい迷惑だ。
ちなみに俺はモンスター襲撃の報があれば、一目散に避難所に逃げこんでいた。勇者だから戦いたいと言えば、戦闘に参加できていたかもしれないが、余計な危険に巻き込まれるのはご免だった。基本的に俺は安全志向な人間なのだ。
そんなわけで野次馬に囲まれた俺は、不快感で一杯だった。とはいえ、前日にミランダにキツく警告させている手前、あまりぞんざいに扱うわけにもいかない。ミランダと共に愛想笑いをしたり、適当に手を振ってやり過ごす。
「村人みんな信じているからね。頑張るんだよ!」
「あんた達なら大丈夫! 頼むよ!」
「勇者さん、必ず世界を平和にしておくれよ!」
あちこちから、無責任な言葉が飛んでくる。
今のうちにせいぜい期待しておくがいい。そして絶望するがいい。
最終的にこいつら全員裏切ってしまうことになるわけだが、俺はちっとも罪悪感を感じていなかった。こんな無責任な奴らを救ってやろうなどという高尚な心は、一切持ち合わせていなかった。
ミランダを見ると、手を天に掲げるようにしながら村人に振り返していた。微笑みを浮かべ、その様子はとても虚飾であるように見えない。こいつには不満というものはないのだろうか。彼女の挙動を見る限り、演技をしているように見えなかった。
ミランダと俺。お互い対照的な気分のままライライ村を後にした。




