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第17話:不安、眼前の星々

 気遣って、っていうのは分かっている。

 きっとノイヤーは今も私と同じようにあのショータイムに何かを抱いている。

 それは自分自身がリーダーとしての責務を全うできなかったことなのか。それとも半ば創設者全員を裏切るような形で置き去りにしてきてしまったことが原因なのか。

 ノイヤーも思うところはある。だから私に、クランを抜けて1人広い宇宙で彷徨っている私に声をかけたのだろう。

 天も地もないここで宙を浮かびながら、私は物思いに耽る。


「なーんで私なんだろう」


 他にもいたはずだ。それでも選んだのは私。幼馴染であるからか、心配だったからか。

 どちらにしたって余計なお世話だ。私はこうやって自分の居場所を持つことができたんだから。

 それにノイヤーを疑うわけではないけど、思いつかないわけがない。


「また、ショータイムみたいになったらどうしよう……」


 それは私も、アステでさえも最初に考えたことだろう。

 私はもうあそこのようなランキング戦でしのぎを削るような、魂をすり減らすようなことをしたくはない。

 彼女だってわかっている。それをもう求めていないことを。

 でも周りはそうとは限らない。元ショータイムの私とノイヤーが結託すれば、第二のショータイム。いや、クランランキング1位の座を争うんじゃないかって。

 もうそんなことしたくないのに。もう面倒な人間関係は御免なのに。

 マイナス的思考が泡のように浮かび上がって水面にたまっていく。弾けてくれない自分の不満と不安は、徐々に私を飲み込んでいく。恐怖で、塗り固められていく。


「だったら断ればよかった」


 でもできなかった。

 ノイヤーだって考えて出した結論。なら、私は?

 衝動のまま嫌だというのは簡単だ。簡単すぎて、今後の展開が思いついてしまうぐらいには。

 別れることも出会うこともなく、ただただ関係がなあなあに進んでいく。ずるずる引きずって、きっとそれっきり。付かず離れず。そんな関係。

 そんな関係はきっと心地いいのかもしれない。けれど、ハッキリしない曖昧なイメージはもやもやしか生まないとも思う。

 どれを選択すれば正解なのか。最終解答はどこにあるか。

 いくら考えても、出てくるのは疑問だけだった。


「どうすれば……」


 目の前の輝く星は何も答えてくれない。

 ただそこにあるだけのヴィジョン。幻想。

 ゲームが作り出した天然のプラネタリウムは美しいけれど、人造故に無機質。暖かくなく、冷たい。

 まるで高嶺の花だね。私が配信者を始めたきっかけを思いだしながら、ふとつぶやく。


「師匠!」

「……アステ、またストーキング?」


 そんな時だった。白銀の流星が箒に乗ってやってきたのは。

 今は、1人にしてほしかったんだけどな。

 でもアステの顔を見て、相反するように少し心が暖かくなったのは、何故だろう。


「違いますよ! 自力です!」

「大したものだね」


 えへへー、と笑う彼女の姿を見て、泡が少しずつ弾けていくような気がした。

 何故。ただアステと話しているだけなのに。

 分からないけれど、友達だからかな。だったらこの泡は、不安の実はアステが食べてくれるのだろうか?


「……その、大丈夫ですか?」


 なにが? なんて無粋なことは言わない。

 言ったら、クランの話が出てくるかもしれなかったから。

 分かってる。口が震えても、心が独白したがっても。アステには話したくない。弟子には、自分の不安を話したくない。自分の弱音を、吐き出したくない。


「大丈夫。別に心配しなくてもいいから」


 声は不安で揺れていた気がする。

 顔の色は分からないけど、アステの様子を見るに相当酷いものだったのだろう。

 私の不安が、思ったよりもお見通しだったみたいだ。


 アステは寂しがっていた片手を包み込むように握る。

 また不安の泡が弾けていく。


「大丈夫ですよ。わたしがいますから」

「……何の話?」

「今度は、1人じゃありませんから」


 そういえば言ってたっけ、私が最後はクランで独りぼっちになってたって。

 1人だからアステは心配しているのだろうか。自分がいるからと、励ましてくれているのだろうか。

 振り払うことは簡単だ。向き合わなければ。目を背ければ。それで十分なはず。

 それでも、この手を。この暖かさを失いたくはなかった。

 1人は寒い。1人は重たい。甘えることができるのであれば、きっと楽なんだと思う。

 でも、私は甘えたくない。曖昧に揺らぎながら、それでも繋がった手の先にいるアステの頭を撫でる。


「な、なんですか?!」

「ううん。なんでもない」


 その手はやめることはなく、ゆっくり。噛みしめるように、ゆっくり。熟れた果実が傷つかないように丁寧に、優しく撫でる。

 くすぐったそうに少し身をよじる彼女に、心の泡は少しずつ弾けていった。


「な、なんですか! もう」

「だから何でもないって言ってるでしょ。撫でられるの嫌?」

「……そうじゃ、ないですけど」


 おおよそ友達にやることではないのは分かっている。

 けどさ。相手はアステ。大型犬みたいな立ち位置だと思っている弟子だ。

 だからこのぐらいのことをしたって、罰当たりでもなんでもない。

 それに、さっきまで湧き出していた不安の泡がもうなくなっていた。

 負けた気がするから絶対言わないけれど、これも全部アステのおかげだ。


「……ありがと」

「なにか言いました?」

「何でもないって言ったでしょ? 何度も言わせないでよ」

「むぅ! 撫でてるのそっちじゃないですかぁ!」


 自然と笑い声が宇宙にこだまする。

 本当の宇宙は音が反響しない。震えるはずの空気がない空間だから。

 でもゲームだから、作りものだからこうやって声が聞こえる。人造のくせにリアルじゃなくて、ファンタジーだからこそ暖かさを感じる。アステだからこそ暖かさを感じる。


 暖かいな、人って。

 同時に知っている。人はどこまでも冷たいのだと。

 どっちを信じればいいか分からなくなって、最後は自分だけを頼った。1人を選択した。

 ねぇアステ。私はどうすればいいんだろうね。


 無重力を肌で感じながら、私たちは人の暖かさをじんわりと味わう。

 それを受け止められたら、どんなによかっただろうか。

 眼前に広がる無数の星と1人の小惑星に、私はひたすら手を伸ばし続けていた。

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