魔王
長いような短いよな眠りから目覚め、目を開くと…そこには見た事もない化け物達がひしめき合ってこちらを覗き込んでいた。
恐怖のあまり声も出ずに固まっていると…
「こら!お前達の顔が怖いから強ばってるじゃないか!」
覗き込む化け物達を後ろから叩く綺麗な人が優しい顔で微笑んだ。
うわぁ…美人さん…
思わずうっとりしてその人を見ていると…
「ミキィおいで…」
綺麗な人が自分を優しく抱き上げた。
えっ!思わず声を上げると…
「あぶぅ~」
はっ?声が出ない!
「あぶあぶあぶ…」
なんだよ!あぶしか言えないじゃん!
「ふふ…ミキィはおしゃべりだなぁ~。あー可愛い!食べちゃいたいくらいだ」
そう言うと目の前の美人さんが頬にチュッとキスをした。
ミキィはヒィ!と心の中で叫ぶとガクッと気を失った。
再び目が覚めるとそこには心配そうにするあの美人さんがいた。
「ミキィ…ごめんよ」
「魔王様が怖がらせたんですからね!」
後ろでは先程の魔族達が綺麗な美人さんを責めていた。
どうやら私はミキィと言う魔族の子に転生したらしい…しかもこの美人さん…魔王様のの子供に…
人じゃなくて魔族なんて…私はボーッと天井を眺めた。
しかし蓋を開ければ魔族といってもそんなに人と変わらない、パパは美人でかっこいいし…部下のみんなもとっても優しい…私を凄く大切に扱ってくれる。
今ではこれも良かったと思えるようになっていた…ただ一つ心残りは…あの前世の約束だけ。
そんな魔族としての日々を過ごして行くうちにパパが引退をすると言う話をみんながしているのを聞いてしまった!
タッタッタッ!
バーン!
パパの部屋まで走りノックも無しに扉を勢いよく開けると…
「ミキィ~!」
甘ったるい声が返ってくる。
こんな事をしても許されるのはこの城で私とママくらいなものだろう。
「パパ!魔王辞めるって本当なの!?」
私が構わず詰め寄ると…
「怒っててもミキィは可愛いなぁ~」
デレッとかっこいい顔を崩す、全く話が進みやしない!
「ママ!どういう事?」
のんびりと椅子に座っているママに矛先を変えると
「ミキィちゃん落ちついて~」
のんびりとした返答が返ってくる。
「何かね~パパもう疲れちゃったみたい、ママとゆっくり旅行に行きたいんだって~」
「りょ、旅行?」
「うん!私も楽しみなんだぁ~ミキィちゃんのお土産沢山買ってくるからねぇ~」
「わぁ~楽しみぃ!ってなんで?そんな急に!」
「ミキィももう大きくなったし…今は人間達の間に勇者は生まれていないようだしね…だからしばらくはミキィが魔王でも大丈夫だろ」
パパがニコッと笑う。
クソ…笑うとさらにかっこいい…って違う!
「私が引き継げるの…」
不安そうにパパ達を見つめると
「大丈夫!私達のミキィならなんて事ないよ、ミキィは可愛い上に賢いからね」
「賢くなんてないよ…」
「何言ってるんだい…生まれて一年も経たずに喋ったのは誰だい?画期的な発明や発言は?ミキィを賢くないなんて言う奴がいるなら私がこんな奴は滅ぼしてあげるよ」
「そ、それは…」
前の知識があったから…ありのままの姿で世話をされる事に耐えられなくて…つい喋っちゃったんだ。
「大丈夫…ミキィならやれるよ。それに周りのみんなが助けてくれるしね」
そう言って後ろを見ると…パパに仕える魔族達がズラっと並んでいた。
「ミキィ様…これからは我らが貴方様を支えます」
「なんでも仰って下さい…」
「ミキィちゃんの為ならたとえ火の中水の中」
魔族達が嬉しそうに頭を垂れた。
こうして…私は齢15年…魔王になってしまった。