転生
「理央」
美貴はベッドに横たわる青白い顔をした理央を見つめて呟く…
理央との出会いは小学生になってからだった…隣の席になった事で自然と話しかけるようになり、意気投合。
性別は違えどなんでも話せる間柄となっていった。
大学受験を間近に控えて、放課後になると席を合わせて勉強会をする日々…冗談を言い合いながら…お互いちょっかいをかけながら…そんな当たり前の毎日が幸せだっとその時は気が付かなかった。
そんな楽しかった日々を思い出す…しかし今目の前にいる理央はその時の元気な姿では無い。
体中をチューブで繋がれ何かも分からない液体を流し込まれている。
これが無いと理央は生きていることさえ出来ないのだ。
高校三年に突然の病…受験目前に理央は学校に来なくなった…
お見舞いに行くと
「すぐ治るよ」
そう言って笑う。
その言葉を信じて待ったが…とうとう、理央が受験前に高校に戻ってくる事は無かった。
「理央…」
もう一度理央を呼ぶと…声に気がついたのか、うっすらと目が開く…
「美貴…こんなところに来てる場合じゃないよ…勉強しな…」
口の端をクイッと上げて笑おうとするが…その表情が痛々しい…
「理央が大変な時に勉強なんて…」
直視出来ずに下を向いた。
「頑張って…大学行ってよ…後で追いかけるから…」
理央はそれだけ言うと、疲れたのか瞳を閉じてしまった。
その様子をみて…
「なんで理央なんだよ…」
起こさないように呟き立ち上がると理央の髪をそっと撫でて、静かに部屋を出ていった。
こんな時にとは思うが時は待ってくれない…勉強をしないとならないことがなんと腹立たしいことか。
ヤケになりながら勉強に明け暮れた…
理央を尋ねて数日後…今日も部屋で勉強をしていると母親が部屋をノックしてきた。
こんな時に何なんだ!
そう思いながらもどうぞと部屋を開けてもいいと声をかけると
「さっき四谷さんから電話があって…」
「理央ん家から?」
母親が頷く、その顔は決していい知らせでは無いことを物語っていた…
母親の話を半分も聞かずに部屋を飛び出すと病院に走った!
家を出た時に母親が何か叫んだが聞こえない!構っていられない!
力の限り病院に向かって走った。
病院に着くと、真っ直ぐに理央の病室を目指す。
すると病室の前には理央の母親と父親が抱き合いながら泣いていた…父親が泣き崩れる母親を支えて部屋を離れると…
遅かった?
震える足を前に出して部屋に近づく…部屋をノックして扉を開けると…
「理央…」
理央の側には看護婦さんが付き添っていた…
「ああ…いつも来てる子ね…本当は家族だけだけど…あなたは大丈夫かな…」
何度も来ていて顔見知りになった看護婦さんが席を外してくれると…ベッドに近づき理央の顔を覗き込む…
「少し前に気を失ってしまって…もう…」
看護婦さんが家族を呼んでくるからと部屋を出ると…
もう?もう何?もう二度と理央と喋れないの?まだ何も気持ちを伝えていないのに?
「理央…」
理央の手を握る。
その手はまだほんのりと温かかった…思わず握りしめると…
「痛いよ…美貴…」
理央が気だるそうに目を開けた!
「理央…理央…伝えたい事がある…」
理央はクイッと口の端を上げるように笑うと…
「ごめん…今は聞け…そうに…ない…それは…あっちで…言って…」
理央はそれだけ言うと…握っていた手が力を失う。
その瞬間ビービービーと不快な機械音が部屋の中に響き渡った。
そこからはよく覚えていない…何かに弾き飛ばされ部屋の隅にいると母親が迎えに来ていて何かを言われた。
だがよく聞こえない…
どうやって帰ってきたのかいつの間に家にいた…そしてそのまま呆然と部屋に籠った。
部屋に入るなりベッドに倒れ込む…考えるのは、思い浮かべるのは理央の事だけ
「あっちで言って?何それ…あっちって何?何処に行けば理央にまた会えるの!?」
声を出すと一緒に溜め込んでいたものがこぼれ落ちた…
美貴は次の日に目が開かなくなるほどの涙を流した。
◆
「…て事があったんだ…だからこのまま天国なりに行けば理央に会えると思ったんだけど…」
美貴がこれまでの事を目の前の人物に説明した。
「…話はわかりましたがすみません。これは決定事項です。あなたは転生する事が決まっています」
「だから!お断りします。って言ってますよね?」
目の前の人物が現れてからこのやり取りを何度した事か…
「もう…なんてこんな面倒な人選んだのかしら…」
美貴の目の前の女性がブツブツと文句を言う。
「あーもう面倒だからさっさと転生させちゃおう!本当は色々と説明とあるけど省きます!後で説明に伺いますので、では良い転生を!」
「ちょっと!」
美貴は納得いかない!と文句を言うとするが…目の前が眩しく光り…目を閉じてしまった。