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バカと魔王と殺し屋と  作者: あかさたな
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開始

第三話 開始


2015年12月31日


英治は困惑しながらも、葛西の家に入った。隣ではやはり困惑したように、武がきんちょうした顔で歩いている。英治はチラリと、魔王を見た。彼は、魔王の仮面をかぶっていた。といっても、魔王の顔が描いてある仮面ではない。魔王と、漢字で書かれている仮面をかぶっているのだ。これは何かの冗談なのだろうか。ツッコミ待ち?英治が考え込んでいると、唐突に魔王が話し始めた。


「お前たちは、何の用があって来たんだ?」


魔王が質問をすると、武は絵に描いたように顔を真っ赤にして、何やら小声でブツブツと言っているが、ほとんど聞き取る事は出来なかった。よくもまぁこんなんで、告白をしようと思いたったものである。


「コイツが、葛西さん、あ、みどりさんのことを好きみたいで。それで告白しようと思ったらしいんで、僕はその付き添いです。」


英治は、武の代わりに答えた。魔王はたぶん、葛西の父親だろう。何の意味があってこんな仮面を付けているのか知らないが、ちょっと変わった人という事で無理やり納得した。いや、納得したかったという方がいいだろうか。英治はもうこれ以上、面倒事には付き合いたくなかったのだ。


「そうか。みどりは、モテるのか?」


魔王が言う。英治が、武の方をチラッと見ると、武は顔を真っ赤にしながらも意を決したように話し始めた。


「そりゃ、モテますよ!何せこの僕が好きになったくらいですからね。僕は絶対に、何としても娘さんと付き合わせていただきますよ!あ、ところでその仮面はどうしたんですか?」


武の発言を聞いて、英治は思わずおお!と拍手をしそうになった。まさかそれを聞きに行けるとは!なかなかやるじゃないか、武。いや、バカだからバカ正直に何も考えず聞きに行ったのかもしれない。


「…この仮面か。この仮面、どう思う?」


魔王は何故か英治に向かって聞いた。英治は唐突に質問をされて、いやこれは唐突ではなくても困るだろうが、頭をフル回転させて考える。何と答えるのが正解だ?すごい似合ってますよ、か?いや魔王が似合うってケンカ売ってるだろ。じゃあ面白い仮面ですね、どうしたんですか、か?いや、もし何かシリアスな理由があったらどうする?考えろ、考えるんだ。この質問に対する、最適解は…


「近頃は若者の派手でバカみたいな格好が目立ってますが、その仮面も負けず劣らず奇抜でいいと思います。」


完璧だ。魔王があんな仮面を付けている理由はただ一つ、若者っぽく見られたいからだ。ならばそこを強調してあげればよい。英治は満足いく回答ができた事で、少し自慢げに武の方を見た。すると武は物凄く怯えた顔でコッチを見ている。なんだ?何か間違った事をしたか?英治は少し不安になり、魔王の顔を見た。


「バカっぽい、か。」


魔王はふっと笑みを浮かべる。いや、実際には浮かべたかどうか分からないのだが、何だかそんな気がした。


「バカといえば、お前らは気がつかないのか?」


声の調子が変わった。大して長くも生きていない英治でも、その声は危険だと分かった。今までは少し不気味な感じがしていたが、今の声は不気味どころではないりコイツは本当に葛西の父親なんだろうか?そんな疑問が頭をよぎる。もし、もしもコイツが犯罪者だとしたら?そうであるなら、変な仮面をつけているのも納得できる。葛西の家に盗みに入ったのか、それともどこからか逃げて来て葛西の家を避難所として使ったのかは分からないが、コイツが葛西の父親というよりは説得力のある考えに思えた。…葛西は無事なのか?恐ろしい考えが浮かぶ。家を留守にしているのではなく、この世を留守にしているのではないか?だとしたらマズイ。このままでは、英治達も殺されてしまうだろう。


「あっ、あの、僕達…」


「普通の家は、こんなに歩かないよな?」


「…え?」


「お前達がこの家に入って来てから、どれくらい喋っていた?普通こんなに歩きながら喋れる廊下なんてないもんだ。まぁ金持ちは別だがな。奴らは無駄に家をデカくしたがる習性がある。あれは俺には理解出来ないんだ。だってそうだろ?普通の一軒家で充分暮らせていけるってのに、なんでそんなに大きくしたがるんだ?掃除も大変だろうし、セキュリティも家が大きいとそれなりに大変だろ?良い事なんてほとんどない。なぁ、だろ?」


「えっと、そうだと思います。」


武が急に話を振られ、口ごもりながらもなんとか答えていた。いや、今は金持ちの話より、もっと重要な事があるだろう。言われるまで気がつかなかったが、ここの廊下は異常に長い。そして今気がついたが、廊下は下り坂になっていた。つまりこれは、地下へと向かっているのだ。灯もなく、電球もなかった。どうして今まで気がつかなかったのだろう。英治は自分のマヌケさを呪った。絶対におかしい。普通じゃない。逃げなくては、と頭では分かっているが、身体が動かない。魔王の話、そして仮面には、人を引きつける何かがあった。


「まぁ金持ちの事なんてどうでもいいんだがな。さて、もう気がついていると思うが俺達は今地下へと向かっている。」


あっ!と、武が小さく叫んだ。どうやら気づいてなかったらしい。


「えっと、僕達用事があるんで、帰らせていただきたいのですが…」


英治は、やっとの思いで言った。今帰らなくては、大変な事になる。本能がそう教えてくれていた。しかし、案の定と言うべきか、魔王はまたにやりと笑みを浮かべて言った。


「それは出来ない。お前達にはしばらく、ここにいてもらうしかない。まぁ運が悪かったと思って諦めてくれ。なあに、抵抗さえしなければ、俺はお前達に手出しはしない。」


辺りは既に真っ暗になっていた。後ろを振り向くと、随分と向こうに灯りがうっすら見える。目が慣れているから、魔王の仮面も武の顔を見えるが、それ以外はほとんど何も見えなかった。


「じゃあな。仲良くやってくれ。」


ぽんと、背中を押された。魔王はほんの軽く、トンと叩くような仕草をしたが、思っていたよりずっと強い衝撃がくる。いつの間にか、目の前に扉が出現していた。暗闇で見えなかったのだろう。英治はそのまま、扉の向こうに倒れた。続けて、武も英治に覆い被さるように倒れて来た。キーっという古びた扉の閉まる音がする。武の股の間から、魔王のにやりと笑った顔が見えた。


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