第八話・唯一の所持品インタビューのたねは、腹ペコ少女の胃袋へ
俺はポケットを探る。
左手にぷつりと、小さな楕円の存在を感じる。
「たね、たね、たね」と探していなければ大きめのゴミと誤りそうな異物だが、今の俺にはたねとしか思えない。
「あたり!」
取り出して、手のひらに広げたそれは、アーモンド型の、ピスタチオ色をした、ピーナツサイズ。
うん。たねだね!!!!!
よし、使用!
俺が口を開いたそのときだった。
小さな小さな素早い手が、俺の種を一瞬にして、かっさらっていった。
「リ、リトル・リル!」
もぐもぐもぐもぐ。
リトル・リルが小さなほっぺたを膨らませて、たねを必死で咀嚼している。
もぐもぐもぐもぐもぐ。
ひまわりの種をほお張るハムちゃんみたいで……
かわゆい……!
って、のん気に見ている場合じゃない!
せっかくの、インタビューのたねがぁ。俺の切り札がぁ。
一気に脱力。
でも、おなかをすかせたリトル・リルを責めても仕方がない。
それよりも、新聞記者じゃないこの子が「インタビューのたね」を食べた場合、どんなことが起きるのだろう。
まさか、消化できずにおなかを壊したり、しないよね。そっちのほうが心配だ。
「リトル・リル? だいじょうぶ?」
俺は口の中をなめ回して、たね成分を味わい尽くしているリトル・リルに呼びかける。
「リトル・リル……?」
俺を見上げたその目は、俺を食べ物視したときとは、種類の違う鋭さに光っている。
「……やっぱり、きみが食べちゃダメなものだったんだよう。参ったなあ……」
リトル・リルは俺の後悔なぞ知ったことかと、ずいっと手を伸ばし、俺のパンツの膝部分を引っ張る。
「え、え、何? こっち来いって?」
引っ張られるまま、広場から離れる俺。
リトル・リルはちょこちょこと、しかし確信を持った調子で歩き続ける。
「おい、リトル・リル。みんなから離れちゃうよ」
リトル・リルは唐突に立ち止まった。
可憐な指で、何かを指し示す。
その先には、とんがり帽子を深くかぶった、オカリナ吹きがいた。
「えーと、あの人がどうかしたのかな?」
問いかけに、リトル・リルがこっくり頷いた、と思ったら、彼女はそのまま倒れそうに傾く。
「わ、わわ」
小さな身体を抱きとめて、だっこする俺。
「リル? リトル・リル??」
返事はない。
「リトル・リル!! 大丈夫か???」
こんな小さい子の体調不良なんて、俺、どうしたらいいのか分からないよー。
おたおたしていると、俺の頭上を影が覆った。
見上げるとリルが指さしていたオカリナ吹きが、俺のそばにたたずんできた。
「どうかしたのかい?」
「こ、この子が急に、意識を失って……」
オカリナ吹きがしゃがみ込み、リルの額に手をやる。
「……寝ているね」
「え?」
「器用なもんだなー。立ったまま、すやすや眠るなんて」
そう言われてみると。リトル・リルの呼吸は規則的で、気持ちよさそうに寝息を立てている。
幼い子特有の、ミルクっぽい甘いにおいと、汗とほこりのにおいが絡み合って、こっちまで穏やかな気持ちになる。
「あっちで一緒に座らない? そのほうが、レディの寝心地もいいだろうから」
オカリナ吹きは、荷物を置いた階段を指し、ほがらかに笑う。
おお。でかしたリトル・リル。
めっちゃ自然な形で、きみが指さしたオカリナ吹きとお知り合いになれたぜ!
「素敵なオカリナですね」
「ああ。歌が生まれた瞬間を捉えるのに、これほどいい楽器はないよ」
「歌が生まれるのって、どういうときですか」
「どういうとき……そうだな、いちばん多いのは、歩いているときかなあ。旅から旅へ、歌は移動についてくるんだ」
「ということは、あなたは吟遊詩人?」
「まあ、そう呼ばれる者だよ」
吟遊詩人。
あちこちを旅しているなら、この街にはない情報を知っているかも。
そしてこの街のひとよりも、気安くいろんな話をしてくれるかもしれない!
1日午前11時ごろ、城下町第三広場で「少女が意識を失っている」と119番通報があった。駆けつけた王国救護隊によると、少女はリトル・リルさん(3)で、命に別状はないという。居合わせた吟遊詩人のベンジー・フォッケさん(25)は「すてきな夢の中にいる少女を起こしてはいけない」と周囲をいさめていた。