表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/25

第二十四話・大団円

『縦に30袋、横に60袋、高さは大男三人分。ブロック家の印である「稲穂にBマーク」の麦袋が並ぶベーダー家倉庫(1日、ルビープラネット自治区)』


記事の空いたスペースには、地下室で『保存』した光景を描いた。


転生前の俺は絵心とは無縁だったし、試しにネコの絵を描いてみたところリトル・リルに「ぶた?」聞かれるありさまだったが、この地下室はなぜか、写真のように鮮明に描くことができるのだった。


「これも記憶の能力のひとつか……」


広場に張り出した俺の初めての記事は、やがて王の耳に届き、ベーダー家の倉庫には大々的な捜索が入ることとなった。


政治家による「穀倉地帯全滅」のウソが、王をもだましていたことに俺は驚くが、そんなものかもしれない。


王様が自ら北部へ赴くのは、ずいぶんハードルが高いことだろう。


「しんぶんきしゃー、これあげるー」


リトル・リルがチーズを挟んだバゲットを俺に差し出す。


小麦の香ばしいにおいが鼻孔をくすぐってならない。


「くれるの? リルはもう食べた?」


「うん。マチねえちゃんが、しんぶんきしゃにあげなさいって」


貴重な地図の裏を新聞紙にしたことを、マチは随分根に持っていて、思い出したようにつんとし、リルを伝言係にする。


マチパパは「この記事もまた、この国の新しい地図じゃよ」と、かっこいいことを言ってくれたのだが。


「リルちゃん、俺、甘いのが食べたいな。焼きリンゴののった、甘ーいペストリー」


パン好きのベンジーは、この国中のパンを食べつくすまで、居座るつもりらしい。


「りんご? りんごはね、しょっぱいよ」


「あれ、そうなの? オスマイトのリンゴはしょっぱいの?」


「あーあの姫りんごか。ほっけ味の」


俺は、ベーダー家の倉庫でかじりついた球体を思い出す。


「ちょっとサバトロ―! あなた宛てに、すごい荷物がきたわよっ」


マチが唇をとがらせ、俺を呼ぶ。


「うん? すごい荷物って??」


「これよ、この樽!!」


いったいどうやって持ってきたのか、数十の樽が邸のなかに運び込まれていく。


「すげー! ビールだビール!」


「サバトロ、誰から?」


「ドワーフのヨランドさんだよ。あ、手紙がついている!」


『いいキジの約束はどうなったんだ? 卵を入れたらまろやかになるというのは本当か? はやくもんじゃ焼きを作りに来い。ヨランド』


……いいキジ?


あの日、俺を送り出したヨランドさんが言った「いい記事をな」のキジは、新聞の記事じゃなくて……もんじゃ焼きの「生地」だったのか。


脱力。


「はいはい。作りに行きますとも」


立ち上がった俺に、誰かが、ビールがなみなみつがれたジョッキを手渡す。


「新聞記者、サバトロにかんぱーい!」


拍手と歓声に、知らず顔が赤くなる。


「サバトロ、ありがとねっ」


声を弾ませ、俺にウインクするマチ。


やった、ベンジー以外から初のウインク!


「じゃ、ビールに合うポテチ、よろしくっ」


樽の隣には、大量のイモの山。


「……マチ、あんた、麦商家の跡取り娘でしょうが」


「んー? なんか言ったー??」


麦と明るさを取り戻した街に、朗らかな笑い声が響いていた。


はじめての投稿、拙い作品を読んでくださったすべての方、ありがとうございます。

ひとつの事件を解決できたところで一応の完結、幕を引きます。

いろいろ使ってみたい設定があったものの、手に余り、次は身の丈にあったものを書きたく存じます。

早ければ、あすにもスタート。どうぞよろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ