第二十四話・大団円
『縦に30袋、横に60袋、高さは大男三人分。ブロック家の印である「稲穂にBマーク」の麦袋が並ぶベーダー家倉庫(1日、ルビープラネット自治区)』
記事の空いたスペースには、地下室で『保存』した光景を描いた。
転生前の俺は絵心とは無縁だったし、試しにネコの絵を描いてみたところリトル・リルに「ぶた?」聞かれるありさまだったが、この地下室はなぜか、写真のように鮮明に描くことができるのだった。
「これも記憶の能力のひとつか……」
広場に張り出した俺の初めての記事は、やがて王の耳に届き、ベーダー家の倉庫には大々的な捜索が入ることとなった。
政治家による「穀倉地帯全滅」のウソが、王をもだましていたことに俺は驚くが、そんなものかもしれない。
王様が自ら北部へ赴くのは、ずいぶんハードルが高いことだろう。
「しんぶんきしゃー、これあげるー」
リトル・リルがチーズを挟んだバゲットを俺に差し出す。
小麦の香ばしいにおいが鼻孔をくすぐってならない。
「くれるの? リルはもう食べた?」
「うん。マチねえちゃんが、しんぶんきしゃにあげなさいって」
貴重な地図の裏を新聞紙にしたことを、マチは随分根に持っていて、思い出したようにつんとし、リルを伝言係にする。
マチパパは「この記事もまた、この国の新しい地図じゃよ」と、かっこいいことを言ってくれたのだが。
「リルちゃん、俺、甘いのが食べたいな。焼きリンゴののった、甘ーいペストリー」
パン好きのベンジーは、この国中のパンを食べつくすまで、居座るつもりらしい。
「りんご? りんごはね、しょっぱいよ」
「あれ、そうなの? オスマイトのリンゴはしょっぱいの?」
「あーあの姫りんごか。ほっけ味の」
俺は、ベーダー家の倉庫でかじりついた球体を思い出す。
「ちょっとサバトロ―! あなた宛てに、すごい荷物がきたわよっ」
マチが唇をとがらせ、俺を呼ぶ。
「うん? すごい荷物って??」
「これよ、この樽!!」
いったいどうやって持ってきたのか、数十の樽が邸のなかに運び込まれていく。
「すげー! ビールだビール!」
「サバトロ、誰から?」
「ドワーフのヨランドさんだよ。あ、手紙がついている!」
『いいキジの約束はどうなったんだ? 卵を入れたらまろやかになるというのは本当か? はやくもんじゃ焼きを作りに来い。ヨランド』
……いいキジ?
あの日、俺を送り出したヨランドさんが言った「いい記事をな」のキジは、新聞の記事じゃなくて……もんじゃ焼きの「生地」だったのか。
脱力。
「はいはい。作りに行きますとも」
立ち上がった俺に、誰かが、ビールがなみなみつがれたジョッキを手渡す。
「新聞記者、サバトロにかんぱーい!」
拍手と歓声に、知らず顔が赤くなる。
「サバトロ、ありがとねっ」
声を弾ませ、俺にウインクするマチ。
やった、ベンジー以外から初のウインク!
「じゃ、ビールに合うポテチ、よろしくっ」
樽の隣には、大量のイモの山。
「……マチ、あんた、麦商家の跡取り娘でしょうが」
「んー? なんか言ったー??」
麦と明るさを取り戻した街に、朗らかな笑い声が響いていた。
はじめての投稿、拙い作品を読んでくださったすべての方、ありがとうございます。
ひとつの事件を解決できたところで一応の完結、幕を引きます。
いろいろ使ってみたい設定があったものの、手に余り、次は身の丈にあったものを書きたく存じます。
早ければ、あすにもスタート。どうぞよろしくお願いします。




