第二十二話・ドワーフの言ったキジは記事じゃなくてもんじゃ焼きの生地という説に一票
「おいサバトロ、起きろ」
ぺちぺちとひゃっこいもので頬をなぶられ、俺は目を覚ました。
「んんんーーー頭いてぇ……」
飲んでも飲まれないドワーフとちがって、飲み過ぎた翌朝、人族の俺は二日酔いという天罰を免れない。
「うわっヨランドさんっ!……って、なんすかこれ!」
俺がぺちぺちやられていたのは、もんじゃ焼きのヘラだった。
「きのう、あんたが言っていたから作ってみた。もんじゃ焼きというやつも、ビールに合うんだろ」
「はい、もんじゃはビールにとてもよく合います……」
そういや、そんなことを話した気が。
「で、あんた、早く出て行ったほうがいい。記事とやらを仕上げたいんだろ?」
「はい……でももうちょっと寝たい……」
「ベーダーが、来るが」
「え!!」
眠気も吐き気もふっとび、俺そのものも吹っ飛びそうな勢いではね起きた。
「いやあ、きのう、イモを失敬しにベーダーの倉庫に行ったやつがさ、道々に、目印のパン屑のごとくイモを落としてきてしまってなあ……」
「みんな酔っぱらってましたからねえ。しょうがないっすよ」
頭をぼりぼりかきながら、ベンジーが言う。
「で、あの大男、好物のイモが盗まれたって大騒ぎしているらしい。もたもたしていると、記事書く前にあいつ、来ちゃうよ」
「大変だ! 戻らなきゃ!!」
「森の出口はな、このホワイトベリーの花に沿っていけばすぐだ。ベーダーは知らない道さ」
「おーすげー。ヨランドさん、ありがとう! ベンジー起きて!行くよ!!」
「はいはい、サバトロはまったく……」
「あー待て待て。あんたのオカリナ、ちょっと調整しておいたから。ほれ」
ひょいと投げられたオカリナをベンジーが片手でキャッチする。
「さっすが。あざっす」
「ヨランドさん、じゃあまた」
「またな。いい記事を頼むぞ」
「はい!」
「次はもんじゃ焼きだな」
言われた通り、ホワイトベリーの可憐な花を目印に道を行くと、馬車に揺られた時間よりずっと早く、森の出口に辿りついた。
俺たちは速足で、崖への道を進む。
「あのさあサバトロ。新聞ってさ、紙に印刷したやつだよね」
「うん。そうだけど」
「印刷機なんて、この世界で俺、見たことないけど」
「やっぱりか。新聞記者がいない世界で、新聞社や印刷所があるとは俺も思っちゃいない」
「お、サバトロにしては現実見てるな」
「だから今回は、壁新聞だ。一枚の新聞を、街のいちばん目立つ場所に貼る」
「ふうん。で、その一枚はどうすんの。サバトロ、紙、持ってるの?」
「ふっふっふ……紙は、この地図を使う!」
羊皮紙は貴重品。地図も貴重品。
地図の裏に記事を書く……なんてことは、ご法度だろう本当は。
でも今は、これしか思いつかない。
「なるほど。で、書くものは?」
「見よ、この胸ポケットの大げさな羽根ペンを。ついにこれが役立つ!」
「インクは?」
「へ?」
「インクも貴重品だぜ? 羽根ペンって、インクつけて使うだろ?」
やばい。そこまで考えていなかった。
…………。
取材したのに。
証言も、もらったのに。
紙も、ペンも、ここにあるのに。
インクかーーーーー!!!!!
「インク、インク、なんかインクになるもの……」
そのへんの土じゃさすがにダメだろうし……。
「……血でも、抜くか?」
ベンジーが悪い顔でつぶやく。
「それはなし。赤字の新聞なんて、間違いだらけみたいでダメ」
「気になるのそこかよ!」
俺は目を閉じて、記憶を手繰る。
カシャッカシャッ。
異世界に来てから今までみたものが、刹那刹那が、写真の一コマみたいに脳裏によみがえってくる。
インク。
インクブルーの流れ。
「そうだ、あそこなら!」