第十七話・地下室への扉が開けて俺の眼はシャッターになって
あれ、このドア、開かないんですけど。
あそっか。ヤツら鍵閉めていったんだから、まず鍵開けないと。
えーっと、鍵、カギ……
「か、カギ、カギがねえっ……」
え。
ええええ。
えええええええええええー。
なにこれ、中からは開けられないタイプ?
うそだろー。
もしこれが、前世の体育倉庫なら。
扉をドンドン叩いて、「誰かぁ、開けてくれーー!」と大騒ぎをして、青春の一ページにするところが。
ここは異世界の、悪徳麦商家ベーダーが、イモなどを隠し持っている貯蔵庫で。
外に出て行った男たちに、俺の存在を知らせるわけにはいかない。
つまり、助けを呼ぶことなく、ここから脱出しなきゃならないってことだ。
「参ったなあ。窓とかないよなあ」
木箱の間を縫うように探索していると、貯蔵庫のどん詰まりにあっさりたどり着いてしまった。
倉庫だけあって天井はずいぶん高い。窓はない。
つまり、脱出のしようがない。
「ないない尽くしじゃないか、もう!」
途方に暮れる。
「うーん、唯一あるのは、食料……」
ここ、食料貯蔵庫だから。飢え死にする心配だけはない。
そう気づくと、心なしかちょっと気が楽になる。
そして、急速にはらぺこアオムシが騒ぎ出す。
「よっしゃ! リンゴ発見!!」
赤く香り高い小さな果実。間違いない、リンゴだ。
盗み食いってこの年になってちょっと情けないけど、背に腹は代えられぬ。
カプッ。
…………!!!!!!
真っ赤なかわいい姫りんご、を口にしたはずだった。
だがその味は、、、
「ホッケの……干物??」
まずくないし明らかに食い物だし俺は干物が割と好き。
なんだけど、りんごだと思ってかじりつくと、そのギャップにショックがでかくて。
思わず、歯形のくっきりついたリンゴ型ホッケ味の球体を、俺は床に落としてしまう。
「すげー……。異世界の洗礼だな……」
腰をかがめ、手を伸ばし、落としたリンゴ型ホッケ味球体に手を伸ばす。
「ん?」
リンゴ型ホッケ味球体の転がった床板に、小さな突起が見える。
「なんだ、これ?」
指先で、突起をつまむと、
床が、開いた。
「……! 隠し扉か!」
開いた床から中をのぞき込む。地下室か。
「はあ。こうも都合よく、道が開けるとさあ、俺は逆に不安になる性質なんだけど……」
だけど、前に進むようにできているのが、物語ってやつだ。
「はいはい、行きますよ! 降りればいいんでしょ!」
床をこじ開け、俺は地下室へ向かってダイブ!!
ぼふっ!
足もとからきちんと着地したつもりが、床のやわらかさにバランスをくずし、俺はごろっと一回転。
「いってー。なんだこれ……」
部屋中に敷き詰めるように置かれていたのは、
「麦袋だ」
ぱんぱんにふくらんだ荒い目の袋。そのすべてに、同じマークが刻印されている。
「このマーク。マチの家の、麦のマークじゃないか!」
たわわに実った稲穂にBの字。間違いない。ブロック家の麦だ。
「ここ、いけ好かないイケメン悪徳ベーダー家の地下室だよな? なんでここにマチの家に卸す麦があるんだよ??」
なんでもクソもない。
「ベーダー…あいつ、やっぱどっかで、横領してやがるな」
俺は怒りに燃え、麦袋を見つめる。
カシャッカシャッ
「?」
瞬きに合わせて、カメラのシャッターを切るような音が頭に響く。
そのシャッター音とともに、目の前の光景が、一枚の鮮明な写真として俺の脳裏に焼き付く。
『縦に30袋、横に60袋、高さは大男三人分。ブロック家の印である「稲穂にBマーク」の麦袋が並ぶベーダー家倉庫(2日、ルビープラネット自治区)』
データを記したキャプションとともに、刻まれる。
まるで、頭の中に記憶媒体があるかのような。
『保存しました』
俺に、ジョブ選択を迫ったのと同じ声がする。
「おいっ サバトロ!」
「ひゃああっ」