第十四話・超絶イケメンは魔獣ってことでもういいんじゃないでしょうか
俺たちが隠れているのは、男達のテントの影だ。
整列した十数人の男達が、直立する後ろ姿がばっちり見える。
轍の音はみるみる大きくなり、でこぼこ道をやってきた馬車が、激しく軋み、停車した。
降りてきたのは……。
「ベンジー!!! あれ……!!! ま、魔獣……!!!!」
「はい?」
「魔獣じゃないか、ほら!!!」
馬車から降りてきたのは。
2メートル近い長身の男だった。
「……背が高いってことで魔獣認定するのか? サバトロよ?」
「背だけじゃない。よく見て見ろ。あいつの顔。なんちゅうイケメンだ。髪さらっさら、切れ長二重、高い鼻。頭の先からつま先まで、リア充オーラでピッカピカじゃないか。あんなのが、同じ人間とは思えん!!!!」
ベンジーが冷たい視線を俺に浴びせる。
「わかったわかった。お前の気持ちはよく分かった。でもあれは、残念ながら人間だ」
「くううううーーー」
「あと、人間とか魔獣とか、見かけで判断しないほうがいいぜ? この世界、そのへん結構あいまいだし」
「え、そうなの?」
「頭に角生えてるヤツ割と多いんだけど、人族で代々生えてるとか、一角獣族とか鬼族とかいろいろだし。だいたいさ、魔獣イコール悪いヤツってわけでもないし。そう考えると、馬車に乗る魔獣もいるかもな。さっきの訂正」
確かにそうだ。魔獣が来て全滅したと聞いたから、早合点してしまったけれど、魔獣が悪いなんて誰が決めたんだ?
見た目で判断するなんて、俺がいちばん嫌いだったことなのに。
……でも、イケメン差別は……致し方ない。
「ベーダー様、ご到着!」
先頭で控える男が叫ぶ。
並んだ男達が一斉に敬礼し、その右手の勢いで風が立ったような錯覚を覚える。
「ごくろう。変わりはないか」
「はっ。何事も」
「……本当か?」
イケメンリア充が一人の男の前に立ちはだかり、そいつの顎先をぐっとつかんだのが見えた。
「本当に、何もないか?」
顎をつかまれた男の緊張が、テントに隠れる俺たちのところまで伝わってくる。
異様な威圧感。
「あ、ありません……!」
震える声。男の背中のこわばりも、その背筋を流れる冷や汗までも、分厚い制服から透けて見えそうなほどの緊張感だ。
「……ならば、よい」
イケメンは鼻で笑って唇をゆがめ、手を離した。
こういう、人を馬鹿にしたような一挙手一投足が様になるから、俺は、イケメンが許せんのだ!
「実はちょっと気になることがあってな」
男達の顔をじっくりと、ひとりひとりに射貫くような視線をぶつけて、イケメンは続ける。
「ブロック家に、妙な客人が来ているらしくてな。差し押さえに向かった男達が、その客人に言い負かされて手ぶらで戻ってきた」
あ、俺のことだ!!!
「いかにも非力で、ちんちくりんな風体のヤツだそうだが、そんなヤツに虚仮にされるとは、まったく嘆かわしい。もしも見つけることがあれば、即刻始末せよ」
「はっ!!!」
いかにも非力でちんちくりんだと?
怒りがこみ上げてくるが、正直、それどころじゃない。
こりゃ、見つかったら大変なことになるな。
「ではまた、あす」
マントを翻すイケメン。
「ベーダー様、おかえり!!」と男の声。
……ん?
ベーダー様??
「ねえベンジー。いま、ベーダー様って言ったよね?」
「おー言ってたな。っつうか、来たときにも言っていたぜ。『ベーダー様、ご到着!』って」
マジか。イケメンに気を取られすぎて、聞き逃していたぜ。
「……俺、あいつを、尾ける」
「サバトロ、え? なに? 急に? どしたの?」
テントへと戻ってくる男達。そして馬車へと向かうベーダー。
動くなら、今しかない。
ベーダーの豪華な馬車の後ろには、貨物用っぽい馬車が控えている。
あれだ。あれに潜りこむんだ。