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第十一話・森と魔獣と謎の川

広げられた羊皮紙の地図は、A3位の大きさだろうか。


皮という名前から想像するよりずっと薄く、でも硬く丈夫で、細やかに書き込まれた入り組んだ地形もきちんと読み取れる。


古い毛布のにおいが鼻孔をかすめるのは、羊皮紙の特性なのか、厳重に籠の奥にしまわれていたからか、或いはただの気のせいか。


「サバトロ。おぬしは……文字を読めるんだったかな」


はっ。そういえば。


地図にはもちろん、文字がある。ほとんどは地名で、文法は関係ないけど。


「……読めている、気がする……」


うん。今の俺は、地図上の文字を、ごく当たり前に読めているぞ。


証文ハッタリ事件の時は、読めていなかった文字が、読めている!


「そうだ、あのとき獲得した装備に識字もあったんだ!」

 

旅に出る前に、もう一度俺のステータス確認しておくか。


「ステータス、オープン!」


【名前】サバトロ・ジャーナルクライン

【年齢】22

【職業】新聞記者

【レベル】3

【スキル】記憶 観察 分析 情報収集

【装備】言葉 識字 ペン


「あれ、レベルがついている。いつの間に!」


マチパパはふむふむと当然のことのように頷く。


「レベル3か。何か、重要な出会いをクリアしたようだな、サバトロ」


「それって、吟遊詩人との出会いってこと……?」


「さすが、異形の職に就く者だ」


マチパパは俺の質問ににやりと笑い、広げた地図に、目を落とす。


オスマイト王国は、ぐるりと壁に囲まれた城塞都市だ。


四方に門があり、王国の外へ出るには必ず門を通る必要がある。


東西の門はそれぞれ森に通じていて、南の門からは港町のロッタランドへとつながり、そこから海に抜ける。


「北の門からつながっている穀倉地帯というのは……ルビープラネット自治区、ですね」


地図上で、もっとも書き込みが乏しいのがこの北側一帯だ。


とにかくずうっと畑が広がっています、ということなのか。


一方、東の森は細かい道が丁寧に書き込まれている。


吟遊詩人が欲している情報そのものだ。


マチが地図をのぞき込んで指さす。


「この森では秋になるとキノコ狩りをするのよ。まあそれが許されるのは、森のほんの入り口だけ、だけどね。ベニバナカズラの生息地から先は、足を踏み入れてはいけないの。ドワーフ族の住処だから」


「ドワーフ!?」


ドワーフこの異世界にもいるんだ。 やったー!!


「むかーしむかし、この国と、かの森は、一種の取り決めをしたんだ。キノコは人のもの、ワイルドベリーはドワーフのものと」


マチパパが解説する。


「そうやって、住処を分けることで争いを遠ざけようとしたわけ」


マチが合いの手を入れる。


「幸い好物が異なったからな。あの森のベリーは、人には酸っぱすぎる」


「ふうん。じゃあ俺が、ベリーは絶対に取らないって条件で、森を通り抜けるだけなら問題ないっすよね?」


地図上では、ワイルドベリーの森の道を行くと、あっさり北へ抜けられるのだ。


「「問題、大アリだ!」」


マチとマチパパはさすが親子、怒鳴り声でハモっている。


「あんたが本当にベリーを取らないかなんて、証明できないでしょ。あたしたちは森に立ち入らない、ドワーフは森から離れないということで、互いに信頼関係を保ってきたんだから」


「むううー」


マチとマチパパに迷惑かけるわけにはいかないしなー。


「じゃあさ、この森と森の間を流れる川を渡るのは? この川、自治区にも続いているよね」


「さすがサバトロ。いいところに目をつけたな。むかーしむかしはこのアルメディカ川は、物流の要だったんだ」


「やっぱり? 川って、そういうもんっすよね!」


「だがいつのころからか、アルメディカは死を呼ぶ川になってしまった」


死を呼ぶ川だって?


「どういうことですか」


「流れが不規則に変わってしまうの。上流も下流もめちゃくちゃになって、向かった先にいつまでも辿り着けない」


マチが暗い顔で言う。


「そして時には、流れは天地までもを行き来する」


マチパパが厳かな口調で引き取る。


「天地?」


「突然、船が川底へ引き込まれてしまったり、空高く噴き上げられてしまったりね……」


身震いするマチ。


「まあ、魔獣の仕業だろうな」


したり顔で頷くマチパパ。それが本当なら、ちょっと見てみたいが。体験はしたくないぞ。


「あれもダメこれもダメってー。どうしたらいいんですかねえ」


まさに、八方塞がりだ。


「結局一番現実的なのは、東の門を出て、この崖をのぼって北に抜ける道かな……」


マチパパが平然と言う。が、崖っすか。


「そんな危険なこと!」


マチが俺の気持ちを代弁してくれる。そうだよね、うんうん。


「しかし、魔獣や未知のドワーフを相手にするよりはだな、崖のほうがたかがしれている……」


マチパパが、もごもごと言い訳する。


「それにこの崖なら、若い頃にわたしも登ったことがあるから。なんとかなるだろう」


え、そうなの? なんのために?


「北の門から閉め出されたことがあってな。そのときに……はるかむかーし、むかしのはなし……」


マチパパが頭のなかの過去を探るように、遠くを見つめる。


「……あのさあマチ。きみのおとうさんって、いくつなの?」


「さあ。200歳くらいかな? パパは、あたしが生まれたときからこんな容貌よ」


「200歳!? それ、この国ではふつうなの?」


「んー長寿の系統ならね。でもあたしのママみたいに、出産で死んじゃう人もけっこういるし、いろいろだよね」


衝撃的なことを平然と話すマチ。


俺と同年代に見えるきみは、いったいいくつなのか……聞きたいけど、今はやめておこう。


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